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半導体傷めず省エネ加工 三菱重、世界市場に挑む

三菱重工業が半導体分野で、常温接合装置の事業拡大に奮闘している。半導体を高密度に集積する3次元実装や、各種のセンサーなどで活用が広がるMEMS(微小電子機械システム)分野で活用を見込む。接着剤や高温による加熱を利用しない新たな接合方法は、実は原子の手をつなげて張り合わせる日本発の技術。半導体の門外漢が世界のガリバーに挑む。

接着剤使わず環境に優しい

滋賀県栗東市の三菱重工業の工作機械事業本部。主力の歯車工作機械の工場の一角に小さなクリーンルームがある。鍛造やプレスなど機械工場のうるささとは無縁の室内では、白衣を着た作業者がウエハーの状態を静かにチェックしていた。

常温接合は真空の状態にしたチャンバー(容器)の中で、ウエハーの表面にイオンビームや中性原子ビームをぶつけて酸化膜を取り除く。表面がきれいになり活性化されると、表面の原子同士の手が互いに結びついて、一気にくっつく原理だ。この表面活性化法は東大の須賀唯知教授が提案。「半導体の進化と並行して、接合技術は様々な手法が世界各地で研究されている」といい、現在も改良研究が続いている。

ハンダなどの接着剤を使わず環境に優しいほか、加熱工程がないので省エネになる。加熱、冷却時間がないので接合時間も1接合当たり10~15分と大幅に短くなる。

最大の特徴は従来のセ氏200~500度の高温で加熱する工程がないので、熱による電子部品の損傷や熱膨張によるウエハーの反りやひずみの心配がないことだ。半導体の微細化とウエハーの大口径化の流れを考えると、熱の影響から電子デバイスを守れるメリットは大きい。

シリコンのほか石英や金属、化合物半導体など対象とする素材は広い。銅なども接合するため、貫通電極(TSV)を形成したウエハーを何層も接合し、3次元集積デバイスを製造できる。

ただ、半導体は微細化が進み、マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル単位の位置決め精度がないと、良品率がぐっと落ちる。しかも、例えば直径300ミリのウエハーでは最大20トン程度の圧力をかけるため、大面積に圧力を均一にかける制御が不可欠だ。

三菱重工業の工作機械事業本部が常温接合装置を作るのは、工作機械で培った位置決めや圧力の制御技術が応用できるからだ。とはいえ、半導体製造装置は未知の分野。日本の大手メーカーで半導体分野に進出して成功したところは少ない。なぜ手を出すのか。

初号機、納期は8カ月

栗東に話を持ち込んだのは技術統括本部先進技術研究センター(横浜市)の後藤崇之・主席研究員。2000年代初め、「この技術で何かをくっつける製品ができないか」という呼びかけに、工作機械事業本部の技術部主幹技師である井手健介・常温接合装置プロジェクトマネージャが応えた。

そこから2人で社の内外、全国を回り約20社を訪問。「半導体ウエハーを張り合わせるのに使えそうだ」と感触を得る。横浜と栗東、合同チームが結成され、04年に初号機開発プロジェクトがスタートした。

ここで幸運があった。開発の話を聞きつけたあるMEMSメーカーが「ぜひ初号機が欲しい」と申し入れてきたのだ。まったく実績のない初号機に顧客がつく一方で、納期は8カ月という切実な要望だった。外部から調達する真空チャンバーの納品が大幅に遅れるという危機があり、正月休みを返上して完成にこぎつけた。

後藤氏に常温接合の技術を教えたのが産業技術総合研究所の高木秀樹・集積マイクロシステム研究センター大規模インテグレーション研究チーム長。東大の須賀研究室の出身だ。後藤氏は若い頃から産総研と位置決め制御技術の研究をしており、その中で生まれた人脈の1人が高木氏だった。ここで重工の精密制御技術と東大発の常温接合技術が出会う。

三菱重工と産総研は現在も共同研究を続けており、12年に三菱重工が開発した世界初の直径300ミリウエハー用の接合装置は産総研に初納入した。昨夏に産総研が開発したネオン高速原子ビームを使う接合技術は三菱重工が研究に協力した。「ネオンはウエハー表面の粗さを抑える効果がある」と同社は今後、ネオンを使う装置の開発を検討している。

装置の価格は1億~5億円。「基本的な装置の仕様は固まった。後は売り込むだけ」(井手氏)というところまでこぎ着けた同社に立ちはだかるのが、オーストリアの接合装置の世界最大手、EVグループだ。従来型の接合装置で世界シェア8割、量産機ではなんと9割以上を占める。周辺の半導体製造装置にも強く、実績では三菱重工と雲泥の差がある。国内にも東大の須賀教授とタッグを組むボンドテック(京都府宇治市)など強力なメーカーがある。

ただ、井手氏は「接合装置はこれからもっと用途が広がる。EVGが新しい市場を開拓してくれる」と意に介さない。「勝負をかけるのはこれから」と工作機械のネットワークを生かし、世界に装置を売り込み、保守管理する体制を整えた。

三菱重工はさらに先をにらんだ開発構想を温めている。その1つが後藤氏が20年以上前から開発している、より微細なナノ(10億分の1)メートル単位で位置決めが可能な「ナノ精度微動ステージ」技術だ。「半導体の微細化が進み、電極が小さくなれば必要になる」とみている。

世界シェア5割が目標

700以上の製品群を持つ同社は、実は外部の研究者が見ても「なぜこんな研究を続けているのか」というテーマが他にもある。その時々の担当役員によって、予算が減ったり増えたりしながら、何十年と続いている。

こうした懐の深さは長く日本の大手電機メーカーは持っていた。しかし、家電・半導体産業の長引く苦戦で「開発も選択と集中。いつ製品にできるかわからないものに金は付けられない」と事業に直結した研究に特化する傾向にある。

三菱重工の常温接合技術は、当時の工作機械事業部門のトップが装置開発にゴーサインを出さなければ、横浜のセンターで眠っていた。6000件を超えるサンプルの接合実績があるものの、今も出荷は年数台のペースで、社内組織はプロジェクトチームのまま。「事業として成功したとはまだ言えない」状況にある。

チームは「将来は世界シェア5割」と大きな目標を掲げる。研究所のシーズ主導で世に出した装置が事業として化けるかどうかは、この技術が次世代の電子デバイスの製造にどれだけ貢献できるか、量産のための投資に踏み切り、コストダウンできるか、そして最後は三菱重工業の上層部の胆力にかかっている。

(産業部 三浦義和)

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