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「原発ゼロ、CO2との関係は?」 鉄鋼業界、政府戦略に不安感

政府がとりまとめを急ぐ中長期のエネルギー・環境戦略に、鉄鋼業界が警戒感を高めている。政府・民主党が原発依存率について「ゼロ」へ傾く動きのなか、電気料金の上昇が電炉などの経営に大きく響くことを懸念する。もちろん鉄鋼大手は環境投資に注力しているが、脱原発依存と温暖化ガス削減との関係について政府側から納得のいく説明がないことにも、いら立っている。戦略の中身が、企業の理解を得られるものになるか不透明だ。

高炉では鉄鉱石と石炭を原料に銑鉄を生産(千葉県君津市の新日鉄君津製鉄所)

「電炉業界にとっては廃業勧告に等しい」――。

8月9日。政府の「エネルギー・環境に関する選択肢」に対しての日本鉄鋼連盟の意見表明の記者会見。電炉大手、合同製鉄の山根博史取締役は語気を強めて、事態の深刻さを訴えた。

スクラップ(鉄くず)を電気炉で溶かして再生し、主に建材などに加工するのが電炉業。安価な電力を使うために夜間に操業を集中させる「フクロウ操業」が常態化しているものの、電力料金上昇の影響は大きい。

政府が示した原発依存率「ゼロ」「15%」「20~25%」の3つのシナリオのうち、ゼロでは電気料金が最大2010年比で2.1倍に上昇する。日本鉄鋼連盟では、この場合、電炉業全体で電力料金の負担増の額が、2011年度の経常利益の2.6倍にのぼると試算する。

脳裏にちらつくのは、割高な電気料金を背景に競争力を失い日本での精錬がほぼ姿を消したアルミニウム産業。国際的に流通するアルミ地金と、原料も販売先も国内で地域性も強い電炉を同列に論じることはできない。ただ、韓国や中国からの輸入鋼材がじわじわと浸透する中で、コスト上昇分の転嫁は難しく、鉄連の意見書では「家族を含め5万人もの生活が失われる」とした。

では鉄連が原発依存率が「20~25%」のシナリオなら良しとしているのかというと、そうではない。そもそも今回の政府の3つのシナリオ自体について、「表向きは原発比率を選ぶ形なのに、実際には温暖化ガスの削減量も選ぶ『抱き合わせ販売』だ」(宮本武史常務理事)として、疑問視している。

政府の3シナリオでは、原発比率ゼロと15%の場合は温暖化ガス排出量を2030年に1990年比で23%削減、原発比率20~25%では25%削減するとしている。原発の比率の変化は二酸化炭素(CO2)の排出削減にも大きく影響するはずだが、コストが割高な再生エネルギーの導入比率を大幅に高めてCO2排出増を抑える形になっている。このため「温暖化ガス削減の目標で無理をしなければ、電力料金の値上がりも圧縮される」と鉄連は主張する。

 この背景には、単なるコスト論以上に、政府の温暖化ガス削減目標に対する不信感がある。もともと鳩山由紀夫元首相の時に掲げた「1990年比25%削減」は、2020年の達成目標で、しかも国内の省エネ対策などの「真水」に海外からの排出枠購入などで得た削減分を加えた数字となっている。

手作業で耐火れんがを積み上げる新日鉄名古屋製鉄所のコークス炉の建設現場(愛知県東海市)

2030年の目標値とは時期も条件も異なるのだが、「国際公約から後退した」という印象を抑えるために「25%削減に近い数字ありきでつくられたのではないか」というのが、鉄連の見立てだ。「温暖化ガス25%削減」目標とのかかわりについての明確な説明なく脱原発を説く政治家の姿も不信感を強める。

鉄鋼業界、とりわけ鉄鉱石を原料に鉄鋼を生産する高炉は大口の温暖化ガス排出産業。そもそも製鉄プロセスが、酸化した鉄鉱石から石炭を使って酸素を奪う(還元)という仕組みである以上、生産量に比例して温暖化ガスが出る。それでも、その削減量についてはエネルギー効率の改善などで長年、積極的に積み上げを図ってきたという自負はある。

日本最大の温暖化ガス排出企業は新日本製鉄だが、同社によるとグループ全体の11年度の排出量は1990年比で10%強削減。粗鋼生産量が減った影響を排除しても6%程度を削減している。地道な削減だけでなく、多額の投資がかかる技術開発にも挑んできた。例えば原料炭をコークスに加工する炉では、石炭を予熱する装置をとり入れて蒸し焼きにする時間を短縮することで、CO2排出を大幅に削減する新型炉を官民共同で開発した。大分製鉄所にコークス製造時のCO2排出を20%削減できる炉としてすでに導入。続いて名古屋製鉄所でも年度内に稼働する見通しで、名古屋でのこの炉の建設への投資額は600億円に及ぶ。

「高炉ガスなんて薪(まき)と同じぐらいのエネルギー量しかない。鉄鋼業界は、そんなものまで再利用して省エネしている」(神戸製鋼所の佐藤広士社長)と強調する。

実質的にこれまで以上に厳しい温暖化ガス削減が必要になれば、鉄鋼業もこれまで以上の対策が求められる。もちろん論理的に整合性のある政策に対応するためなら、社内も投資家なども理解はするだろう。だが、選挙にらみの拙速な数字合わせのためとなれば、鉄鋼に限らず対応を迫られる企業の負担感は増すばかりだ。

(産業部 檀上誠)

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