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消えた「グリーン・ニューディール」 世界の低炭素化は正念場

2012年11月の大統領選挙に向け、オバマ米大統領と共和党のロムニー候補との政策論争は激化している。第1期の4年間を振り返ってみると、就任当初と政策が大きく変わった分野がある。エネルギーと環境政策だ。思い出せばすぐにわかる。オバマ大統領が就任直後に目玉で打ち出したのは「グリーン・ニューディール」だったが、もはや大統領の演説にはほとんどその言葉は登場しなくなった。グリーン・ニューディールはどこに行ってしまったのか?

グリーン・ニューディールは当時、米国が国際的な批判を浴びていた地球温暖化問題への取り組みと、脆弱化しつつあったエネルギー安全保障を同時に解決するとともに、雇用も創出しようという「一石三鳥」の政策だった。具体的には風力、太陽光など再生可能エネルギーと原子力発電を拡大、強化し、老朽化が目立った送配電網など電力の供給ネットワークをスマートメーターなども取り入れて、再生、再構築しようというものだった。時代の要求を巧みに折衷したきわめて賢い政策にみえ、日本を含め世界の多くの人が賞賛し、期待を示した。しかし、結果は出ないまま、オバマ政権はかじを「脱グリーン」に大きく切っている。

転換の最大の要因はシェールガス革命である。従来の天然ガスとは異なり頁岩(けつがん)層から採取するシェールガスは、原油価格の上昇や生産技術のイノベーションによって、まさにオバマ政権の第1期の4年間に生産が爆発的に拡大した。今や米国の天然ガス供給の20%以上を占めるようになり、さらに急拡大の一途をたどっている。米国内の天然ガス価格は100万BTU(英国熱量単位)あたり、2ドル割れの状態まで暴落した。2007年ころに7、8ドルだったことを考えれば米国のエネルギー情勢は一変した。さらにシェールガスに刺激され、シェールオイルの生産も急増している。米国は液化天然ガス(LNG)輸入を減らし、原油の輸入も落ち始めている。シェールガスは言葉通り、革命的な影響を米国および世界に与えた。

大きな変化が起きたのは電力の世界だ。安い天然ガスが潤沢に供給されるようになったため、米国ではガス火力の新増設が一気に広がり、太陽光、風力発電の新設機運はしぼんだ。それだけではなく、「原子力ルネッサンス」として始まろうとしていた原発の新設ブームも失速、米原子力規制委員会(NRC)が新設を認可しても電力会社が原発に興味を示さなくなった。福島第1原発事故の影響はもちろんあるにせよ、あまりに天然ガスが安くなり、長期的にも低価格が続くとの見通しから原発は投資コストに見合わないとの見方が強まっているからだ。さらに補助金や支援策によって普及が加速すると思われた再生可能エネルギーもシェールガスとのコスト競争に太刀打ちできないとの懸念が広がり、企業はメガソーラー(大規模太陽光発電所)などに二の足を踏むようになった。

グリーン・ニューディールの主要項目はシェールガスに吹き飛ばされた。考えてみれば、「グリーン」と「ニューディール」は両立しにくい構造にあった。グリーンは資源節約型である一方、ニューディールは需要創造に重きがあり、資源浪費であることはむしろ望ましかったからだ。シェールガス革命は探査、開発、生産の各段階で雇用を生むとともにパイプライン、建設機械などの資材需要も膨張させ、さらに安い天然ガスを原料とする石油化学のプラントの新設ブームなどももたらしている。"シェール・ニューディール"である。

言うまでもなく、米国は化石燃料への依存を再び深めようとしており、二酸化炭素(CO2)の排出削減などはもはや政策の視野になさそうだ。シェールガスは世界各地で発見され、商用化に向けた動きが始まっている。世界最大のCO2排出国である中国は世界最大のシェールガス埋蔵量があるとされ、四川省の試掘は良好な結果だった。米中がシェールガスに傾けば、CO2排出の本格的な削減は事実上進まなくなるのは明らかだ。

状況を変え、低炭素社会実現への流れを復活させるには、再生可能エネルギーの技術や事業モデルの進化、原子力の信頼回復が必要だろう。「グリーン・ニューディール」ではなく、「グリーン・イノベーション」がグローバルに重要な課題になっているのだ。

(編集委員 後藤康浩)

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