CO2からアルコール 人工光合成、異端の発想で進化
植物のように太陽光のエネルギーを使って二酸化炭素(CO2)と水からアルコールなどの有機物を生み出す「人工光合成」のテクノロジーが急速に進化している。今年に入ってエネルギーの変換効率が一けた向上、ついに植物並みのレベルに到達した。植物のメカニズム解明と再現に重きを置いた従来型アプローチとは全く違う"異端"の発想がブレークスルーをもたらした。

2020年、年間10トンのCO2を吸収して6000リットルのエタノールを生産する敷地面積1ヘクタールの人工光合成プラントを稼働させる――。パナソニックの先端技術研究所は今、こんな夢を追いかけ人工光合成の技術革新に挑んでいる。決して夢物語ではない。研究メンバーらがそう信じるには訳がある。研究着手から3年目の今夏、0.2%という世界最高の変換効率(生成された物質が持つエネルギーを、照射した太陽光エネルギーで割った値)を実現したのだ。
革新をもたらしたのは発想の転換だった。従来の研究は光合成で有機物を生み出す植物の複雑なプロセスを解明・再現することに主眼を置いていた。パナソニックはこのプロセスを可能な限り簡素化し、最も効率的に有機物を作り出すことだけを追求した。
CO2と水素イオンなどから有機物を合成する化学反応を促す触媒には、植物の仕組みを模した有機触媒ではなく金属触媒を利用。無機材料だけで構成する高効率の仕組みをつくることに成功した。
その仕組みには2つのポイントがある。1つ目は、半導体の窒化ガリウムを水中に入れて太陽光を当てると、水分子が酸素分子、水素イオン、電子に分解される光触媒反応だ。ここで大事なのは、電子が持つエネルギーレベルをいかに高くできるか。このレベルが低いと、有機物(ギ酸)をうまく作成できない問題が生じるのだ。

水分子を高い効率で分解し、次の化学反応を促すよう、窒化ガリウムの表面にアルミを含む層を張り付けるなど工夫を重ねた。「電機メーカーとして培ってきた半導体や電気化学など専門家の技術を組み合わせた」(四橋聡史主幹研究員)という。
2つ目のポイントは、水を分解して取り出した水素イオンと電子をCO2にくっつけてギ酸をつくる、インジウム系の金属触媒を使った反応だ。金属触媒は、従来使われてきた有機触媒に比べ反応速度を高められるため、照射する光を強くすると、それに比例してギ酸の生成量を増やすことが可能になる。
この2つのポイントを組み合わせ、それぞれ改良を繰り返した結果、豊田中央研究所が同じく反応プロセスを簡素化し11年秋に達成した0.04%を一けた上回る0.2%の変換効率を実現した。これは、雑草の一種であるスイッチグラスの光合成の能力とほぼ同等という。
金属触媒を銅系や銀系などに変えることでアルコールや炭化水素の生成にも成功。現在の変換効率はアルコールで0.03%にとどまるが、これを小数点一けた台まで引き上げるのが今後の課題だ。

カギを握る改善点が、光のエネルギーをどう有効活用するか。現在は太陽光の全波長の2%弱にあたる紫外線しか活用できていない。これを可視光まで広げる仕組みを考え出す必要がある。可視光は窒化ガリウムを透過してしまうため、窒化ガリウムの裏側で可視光をとらえる方法などがあるという。
「植物のメカニズムを追求する従来の研究アプローチとは違う異端児」と山田由佳グループマネージャーは自分たちの研究チームを表現する。その異端児が突如、世界のフロントランナーに躍り出た。過去3年と同様、研究課題を1つずつつぶす地道な作業が今後も続く。
研究メンバーらにはエタノールプラントの実現とは別のもう一つの夢がある。いつの日か、CO2から作ったアルコール飲料で祝杯をあげることだそうだ。
(産業部 佐藤昌和)
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