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産・学と市民がタッグ 消費者の発想、ものづくりの現場に

消費者の発想をものづくりや研究開発の現場に取り込むための新たな仕組みづくりが、大阪で進んでいる。大阪大学の小林昭雄名誉教授が中心となり連携支援施設を開設。企業が試作品や独自技術を紹介して消費者に評価してもらうだけでなく、独自アイデアを具体化するため研究者や企業を仲介する仕組みも構築した。産学に市民を加えた枠組みで、市井に埋もれた独創的アイデアを発掘、日本のものづくりの底上げを狙う。

「まちラボ」は大阪富国生命ビルの4階1フロアを占める(大阪市内)

大阪・梅田の中心部に立つ大阪富国生命ビル。この4階に置かれたのが連携拠点「まちラボ」だ。消費者の関心の高い「食」「植」「健康」の3つをキーワードに産学連携を支援する。

施設内にはアサヒビールや染色大手の小松精練、バルブ大手のフジキン(大阪市)など8社が、それぞれショールームを置く。例えば、アサヒビールは酒やつまみなどに関する各種講習会を開催するほか、体内のアルコールの分解能力を測るコーナーを用意。日本人の適正飲酒量を把握し、今後の製品開発につなげる。フジキンではチョウザメの養殖事業や水中植物栽培システムを紹介する。

セミナールームでは「第三世代大学 塾SiN」と名付けた実践講座を開催。60代のリタイア世代や子育てに一段落した女性らを主な対象に園芸や食品分野などを主なテーマに4つの常設講座を開く。

同施設を運営するのは一般社団法人テラプロジェクト(大阪市)。阪大の教授らが中心になり立ち上げた。理事長で、バイオテクノロジーが専門の小林阪大名誉教授の念頭にあるのは「オープンイノベーション」の思想だ。企業にとって従来型の自前主義では、市場の変化に対応した迅速な製品開発はおぼつかない。開発スピードを短縮すると同時に市場ニーズに見合った製品を世に送り出すには外部の知恵の活用が重要になる。

企業と大学関係者だけでなく、一般市民も交流できる場所を提供し、「市井に埋もれている起業家精神を掘り起こす。3者を束ねて製品化する仕組みをつくって、日本の競争力を高める」(小林理事長)狙いだ。

関西は、カラオケ発祥の地に代表されるように市民レベルで柔軟な発想をする人がたくさんいる。「独自技術を持つ中小も数多くある」と小林理事長は指摘する。しかし「大学や大企業は敷居が高く、アイデアを持っていく場所がない。そもそもどこに問い合わせていいのかもわからない」

テラプロジェクト理事長を務める大阪大学の小林昭雄名誉教授

そこでテナント企業のショールームや第三世代大学を通じて施設の認知度を高め、市民や中小企業などから積極的にアイデアを持ち込んでもらう。すでに約20案件が集まっているという。

テラプロジェクト側は小林理事長らの人脈を活用し、各地の大学や研究機関の研究者を登録。各案件を検討し、事業化が見込めるものは最適と思われる人材の派遣や協力企業の仲介をする。試作品は「まちラボ」で消費者の評価を吸い上げることも可能だ。

事業化に成功した場合、売り上げに応じたロイヤルティーを得ることで、テラプロジェクトの運営費に充てる。個人が起業する場合にはスポンサー探しも請け負う。

現在、登録する研究者は約10人だが、「将来的に100人規模にまで増やす」と小林理事長は意気込む。テラプロジェクトには、国内研究者の活性化という目的もあるからだ。「携わった案件が事業化したら、そのままその企業に雇用してもらえばいい」。さらに定年を迎えた研究者をアジアなどの新興企業がスカウトするといった頭脳流出の抑止策につなげたい考えだ。

施設の開設から1年を経て、具体的なプロジェクトも動き出した。テナント企業である小松精練は、屋上緑化向けに販売する緑化用育成基盤の機能強化のため、テラプロジェクトとの連携を決めた。3月から両者で、個々の植物の特性に合わせた育成基盤の開発に着手した。

同製品はもともと社内で出る廃棄物の活用策として考案したもので、けい藻土などを混ぜて焼き固めたセラミック製の育成基盤。「基盤をつくることはできたが、肝心の植物に関する知識がない。そこで緑のプロが集まるテラプロジェクトと組むことにした」(小松精練の山竹俊樹常務)。

「テラプロジェクトのテラという言葉には、困ったときの駆け込み寺やともに学ぶ寺子屋という意味も込めている」と小林理事長。産学だけでなく市民誰もが参加できる仕組みづくりで、次代を担う産業の芽をはぐくむ基盤づくりを目指す。

(東大阪支局長 中村厚史)

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