「東シナ海供給網」台頭 競争の中に新たな商機 - 日本経済新聞
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「東シナ海供給網」台頭 競争の中に新たな商機

産業再興 アジアと共創(1)

中韓→九州 高品質部品、安く調達

日本では韓国や中国の企業が台頭すると、すぐに「市場を奪われる」という脅威論が語られる。確かに薄型テレビなどでは韓国サムスン電子が瞬く間に世界市場を席巻し、日本の電機メーカーの影は薄い。だが、力を蓄えたアジア諸国のプレーヤーとの関係は、競争一辺倒ではない。競いつつも、時には共に画期的な製品を創り出し、共に市場を創造する成熟した関係を築けるはずだ。「競争から共創へ」が産業再興のキーワードだ。

世界最大級の貨物量を誇る中国・上海港。自動車部品を満載したコンテナが日本の下関港に向かう。荷主はダイハツ工業。大分工場(中津市)で生産する軽自動車向けに、中国製部品を海上輸送で取り寄せる仕組みを2012年から導入した。

軽は日本独自の規格で市場は国内に限られる。ダイハツの軽の生産拠点は日本にしかない。それでも部品調達網を中国まで伸ばしたのはなぜか。「アジアの部品を使ってコスト競争力を高めないと日本のものづくりは生き残れない」との危機感があったからだ。

世界最大の自動車市場となった中国では、高品質な部品を低価格で供給する部品メーカーが急増している。上海からダイハツの主力生産拠点である大分工場までの直線距離は約850キロメートル。海上輸送すれば「(有力部品各社が集積する)愛知県から陸送するより運送コストを抑えられる」(調達担当の辰巳隆英上級執行役員)。

中国に自社工場を持たないダイハツは現地部品各社との取引がなかったが、11年に調達子会社のダイハツモーター(上海市)を設立。日本への部品供給拡大で、同社の売上高は13年3月期の約20億円から14年3月期には50億円に増える。12年末に発売した軽乗用車「ムーヴ」では中国を中心に4社の海外部品メーカーと新規取引を開始。価格を実質5万円引き下げるのに一役買った。

ダイハツは部品供給網を華北地域まで拡大。今年中に北部にある天津港からも日本への部品出荷を始める予定だ。

ただ、国境をまたぐ部品調達には課題がある。納期だ。国内調達なら通常1週間。海外からでは梱包や通関、荷ほどきなどに手間がかかり1カ月以上かかる。それでは、完成車・部品メーカーとも在庫リスクが高まる。

その課題を克服する「シームレス物流システム」を、日産自動車が日本通運と組んで日本―韓国間で昨年確立した。記者は韓国から日本までの部品の流れを「追跡」しようと釜山に飛んだ。

30社の部品集積

記者が釜山の物流拠点を訪れたのは5月29日。折しも新物流システムのスタートを記念する韓国側のイベントが開催されていた。出席していた韓国の部品メーカー幹部は「(我々は)コストと品質で競争力があっても納期が間に合わないため部品を供給できないことがあった。新物流システムを待ち望んでいた」と満面の笑みで語った。

早速、物流の仕組みを見ようと建屋内に足を踏み入れた。時刻は16時。日産の主力商用バン「NV350キャラバン」に組み込まれるマフラーやプレス部品、樹脂部品などがむきだしの状態で並ぶ。伝票には「05/31 06:00」の表記。福岡県苅田町にある日産グループ工場に「2日後の朝6時までに届ける」という意味だ。

韓国の約30社が製造する部品は日通の協力先である現地の物流大手、天一定期貨物自動車が1日がかりで同拠点に集める。訪問時には、これらの部品を3台のフォークリフトが手際よく分担して、日通と天一のトレーラーに積み込んでいた。トレーラーはその後、1時間弱の距離にある釜山港へ向かった。

同日20時過ぎ。記者が一足先に乗船した釜山発博多行きフェリー「ニューかめりあ」の船上から積み荷場に目を凝らすと、日産の部品を積んだ日通と天一のトレーラーを発見。トレーラーはほどなく、狭い港湾内にもかかわらず巧みなハンドルさばきで総トン数1万9千トン以上の巨大フェリーの船腹に消えていった。

22時過ぎに釜山を出港したフェリーは約200キロメートルを夜通し航海、翌30日の6時前には博多港国際ターミナルに接岸した。トレーラーがフェリーから出てきたのは7時過ぎ。その後、約70キロメートル離れた日産グループの九州工場をめざす。

トレーラーが九州工場の正門をくぐったのは同日午後。日産が韓国の部品メーカーに発注してからの時間はわずか5日間で、「国内調達と同じ」(日産SCM企画部の尾上清部長)だった。

積み替え不要に

システムの要は日韓の公道を走行できる専用トレーラーだ。日通と天一が両国の認可を受け24台を用意。釜山の物流拠点から九州工場まで積み替えなしで部品を運ぶ。

しかも、韓国製部品は日産が工場で使う専用容器にむきだしのまま積み込まれ、九州工場に横付けしたトレーラーからフォークリフトでそのまま製造ラインに供給される。通常の輸出に使われるコンテナと貨物船では厳重な梱包と荷ほどきに手間がかかるが、トレーラー輸送なら不要だ。

日産は昨年6月にフルモデルチェンジしたキャラバンから韓国製部品を本格採用し、国内から調達する仕組みを応用した。今では同車種の海外部品調達率は約4割で、その半分が韓国製だ。日産と日通は同様の仕組みを中国まで拡大するため、関係当局と調整中だ。実現すれば日韓中の「東シナ海サプライチェーン」を構築できる。

足元の円高是正で海外部品を調達する緊急度は下がってはいるが、「将来の為替リスクを考えれば、国内工場がアジアから部品調達する流れは止まらない」(尾上氏)。日産に続きホンダも4月に、韓国の販売会社「ホンダコリア」(ソウル)内に部品購買部門を設け駐在員を配置した。

韓中の部品メーカーがサプライチェーンに組み込まれれば、日本製部品がはじき出される懸念はある。だが、互いが切磋琢磨(せっさたくま)すればより競争力のある車が生まれるはずだ。

日産と取引がある北九州市の戸畑ターレット工作所幹部は「今後は価格・品質ともに優れた製品を作らねば生き残れない」と決意を固める。完成車メーカーの内部でも「海外部品調達部門と国内部品調達部門がライバルとして競っている」(ダイハツの辰巳氏)。

九州からの復路に日本製の高品質部品を載せて韓国工場に供給するアイデアも出ている。日産は資本提携先の仏ルノー傘下のルノーサムスン自動車が釜山に持つ工場で、多目的スポーツ車(SUV)「ローグ」を生産する予定。日産の尾上氏は、同車種向けの高性能部品を日本から韓国に輸出する可能性は「十分にあり得る」とする。

東シナ海サプライチェーンの勃興は、日本企業にとっても商機を生む。

[日経産業新聞2013年6月6日付]

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