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硬い工具を「工具」で削る 難削材加工に総力結集

日経ものづくり編集委員 木崎健太郎

超硬合金、チタン合金、セラミックスといった加工の難しい材料を、切削で効率的に加工しようという取り組みが進んでいる。1社だけの努力によるわけではなく、切削加工メーカー、工具メーカー、工作機械メーカーなどの国内企業がそれぞれの立場で開発した技術によって総合的に技術の蓄積が進んだ結果、可能になってきたものだ。加工の難しい材料を使う部品は、大抵は高精度の仕上げを求められ、付加価値が非常に高いため、国内の切削加工メーカーが積極的に取り組むようになっている。

直(じか)彫り加工で製造した超硬合金製金型部品(東京鋲螺工機)

例えば、東京鋲螺工機(埼玉県新座市)は超硬合金製のプレス金型部品を切削加工で仕上げている。超硬合金は炭化タングステンとコバルトを焼き固めたもので、切削工具自体に用いるほど硬い材料。この超硬合金を、ダイヤモンド・コーティングを施した工具、または多結晶ダイヤモンド焼結体(PCD)を用いた工具で削っているのだ。フォワード(長野県諏訪市)、新日本テック(大阪市)なども、超硬合金の切削加工を手掛け始めている。

これまでも、プレス金型に超硬合金を用いれば、長持ちする付加価値の高い金型にできることは分かっていたが、放電加工を施した後に研削加工で仕上げるという、時間のかかる方法を使うしかなかった。もし、最初から切削加工を実行して仕上げられれば、放電加工のために必要な電極加工が不要になることも含めて、所要時間は3分の1程度になるという。単結晶ダイヤモンドを切れ刃に用いた工具を使えば切削できることも分かっていたが、工具が1本十数万円と高価で、現実的ではなかった。

超硬合金の切削加工が現実的になった要因の一つは、2012年にユニオンツールがダイヤモンド・コーティングを施した工具「UDCシリーズ」の供給を始めたことである。「もともと別の目的でダイヤモンドコーティングを発展させていたところ、超硬合金を削ってみたら思いのほか削れた」(ユニオンツール)という。価格は単結晶ダイヤモンド工具の6分の1程度で済む。

工作機械は、リニアモーターを駆動系に用いている精密微細加工用の工作機械に、刃先位置をCCD(電荷結合素子)カメラなどでマイクロ(マイクロは100万分の1)メートル単位で把握できる装置を組み合わせる。牧野フライス製作所の「iQ300」、三菱重工業の「μV1」などがその例だ。このような機械に最近の工具を「焼きばめ」と呼ばれる方法でブレないように装着する。さらに、切削メーカーがこれまで難削材で蓄積した経験を基に、1マイクロメートル前後の極めて浅い切り込み量にすると同時に工具の回転数と移動速度(送り)を高い値にして、工具の摩耗を遅らせる。工具の動く経路もなるべく直線的にして、カーブで移動速度が落ちないようにする。このような工夫を重ねることで、超硬合金の切削加工が現実的なものになってきた。

超硬合金以外にも、耐熱性の高いチタン合金やインコネル、ハステロイといった合金も切削加工が難しい。耐熱性の高い合金は熱を通しにくいため、切削加工時に発生する熱の行き場所がなく工具の刃先にこもってしまう。結果、工具が短時間で摩耗して加工できなくなってしまうのである。炭素繊維強化樹脂(CFRP)も、バリや繊維が毛羽立たないような仕上げが難しい。このような、様々な難削材の切削加工に、切削加工メーカーが取り組んでいる。

ダイヤモンド焼結体のみで切れ刃のないエンドミル(日進工具)

工具メーカーは、新しい知見に基づいた新製品を続々と発表している。日進工具は5月、PCDで表面を覆った工具「PCDボールエンドミル」を発売した。この工具には一見して切れ刃がない。多結晶ダイヤモンドの微細な凹凸だけで切削しようという考えの工具である。開発に関わった松岡技術研究所の松岡甫篁氏は「マイクロメートル単位以下の微細な加工では、切れ刃をとがらせれば削れる、というわけではない。切れ刃を精密に仕上げること自体が難しいし、とがった刃先は加工時に欠けやすく、熱も集中しやすいデメリットがある。切れ刃はとがっていなくても、高速回転させて高い送りを確保すれば良好な切れ味を確保できる」と語る。

住友電気工業と同社グループのアライドマテリアルは12年2月に、ナノ多結晶ダイヤモンド「スミダイヤバインダレス」を用いた切削工具を発売した。スミダイヤバインダレスは数十ナノ(ナノは10億分の1)メートルの微細なダイヤモンドが集まったナノ結晶体で、結晶の方向が一定ではないことから、従来の単結晶ダイヤモンドに比べて割れにくいのが特徴。硬さは、ダイヤモンドであるため単結晶ダイヤモンド同様、どんな材料よりも硬い。

松岡氏によれば、中国などでも性能の高い工具、例えばPCDを刃先に使った工具の大量生産が始まっているという。工具もCAD/CAM(コンピューターによる設計・製造)とCNC(コンピューター数値制御)工具研削盤によって製作するため、通常のものは設備さえあればどの国でも造れるから、今後は価格競争が始まる可能性が高い。しかし「様々な知見を盛り込んだ新しい難削材用の工具を造ることで、単なる価格競争に陥ることは避けられるのではないか。S45C(機械構造用炭素鋼)のような通常の材料は海外に任せるというぐらい割り切ってもよいから、切削加工メーカーと工具メーカーが協力して難削材を日本で手掛けることが大事だと思う」と、松岡氏は話す。

(日経ものづくり8月号に関連記事)

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