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「今後40年間は有望」説も 持続可能な日本の"もうかる"林業

日本で林業が「もうからない産業」の代表格のように言われて久しい。1950~60年代は戦後復興と高度経済成長を支える花形産業だったが、60年代後半になると状況が一変。安い外材の輸入に押され、人件費の高騰とともに、きつい作業を嫌う若者の増加で就業人口が減り、もうからない衰退産業になった。こうしたストーリーが「常識」として定着していた感がある。

だが、近年、こうした常識を覆すような研究や事例が相次いで浮上し、林業関係者や森林を守る非営利組織(NPO)などで議論の的となっている。その内容を精査すると、日本の林業は今「もうかる林業」へ生まれ変わる転換点にあるのかもしれない、と思わせるものが多い。そんな議論の最先端を垣間見たのが6月9日、「我が国の森林・林業再生をいかに進めるか」をテーマに東京で開かれた「震災復興支援フォーラム」だった。

「現在の日本には60億立方メートルもの森林蓄積がある。世界最大の林業国、ドイツの2倍もの規模で、我々は宝の山の上にいるようなものだ」。基調講演をした内閣官房国家戦略室の梶山恵司・内閣審議官は、日本の山林の有望性をこう説明した。「日本林業はよみがえる」という著作もある梶山氏は、4月に公布された改正森林法で推進する「森林・林業再生プラン」の策定などに携わった森林・林業問題のスペシャリストだ。

森林蓄積とは、木材用として使える立木がどれだけ山林に残存しているかを示す。日本は森林蓄積が20億立方メートルしかなかった高度経済成長期の60年代前半に、毎年6000万立方メートルを伐採し続けたことで「木材資源を、ほぼ刈り尽くしてしまった」(梶山氏)。当時の木材需要は年1億立方メートルもあったとされ、この不足分を補うため外材の輸入が自由化された。

伐採後の森に針葉樹の植林を続けてきた日本だが、材木用途で伐採に堪えるようになるまで、長きにわたり利益の出ない「蓄積の時代」をさまよってきた。その間、戦後すぐには全国で45万人いた林業の担い手は、現在5万人を切るまでに激減。うち65歳以上の就業者が3割近くと高齢化も進んだ。

だが、梶山氏は、安い外材や人件費高騰といった林業疲弊の原因とされる要因も、「従来の常識を冷静な目で見直せばチャンスがあると分かるはず」と強調する。

例えば、日本の木材は外国産に比べ「コスト競争力がない」という指摘。国産材で最も一般的なスギ丸太材の1立方メートルあたりの価格は90年以降、流通量の多い米国産ツガ丸太材に比べて安く推移している。現状ではスギ丸太の価格はツガの半値近くの水準で低迷しており、コスト競争力がないとは言い難い。

高い人件費についても同様だ。前述の梶山氏の著作によれば、欧州の主要林業国、オーストリアでは伐採などに使う林業機械の作業員に支払われる人件費は1時間あたり29ユーロ(約3400円)。1日では3万円超にもなり、日本に比べて2倍近いという。それでいてオーストリアの林業家はきちんと利益を確保しながら森を健全に維持している。

日本でも、小規模な林業家が利益を出しながら山林を管理し健全に保っていく方式を編み出したグループがある。高知県中部を流れる仁淀川。四万十川に匹敵するきれいな流れにアユが豊かなこの川の流域で、「兼業型自伐林家」の有効性を証明したのが特定非営利活動法人(NPO法人)、土佐の森・救援隊だ。

 「山林所有者のほとんどが近くの農村部に住み、山を守りたがっている。かといって伐採を業者に頼めばコストがかかりすぎて赤字になる。自分で木を切って売れば、実はそんなにコストがかからず山の管理もできることが分かったんです」

自家所有の山林で切り出した木材を軽トラックに載せ、売りに行く人々の列ができることも(高知県いの町で、NPO法人、土佐の森・救援隊提供)

土佐の森・救援隊の中嶋健造事務局長が説明する。山林や農地を持ちながら定職に就いている兼業農家が、週末などの空いている時間に自分の山林の樹木を切り出し、特に間伐材を売却することで「晩酌代や小遣い銭を得ながら、山を健全に保っていく」(中嶋氏)という取り組みだ。

仁淀川流域で同NPO法人に登録する自伐林家は現在、40人余りいるという。所有する山で間引くべき木をチェーンソーで伐採し、これを2メートルほどの長さに切り、軽トラックで製材所などに運んで売る。スギなら1立方メートルあたり約1万円、ヒノキなら同2万円程度になり、所有する山林の規模が小さくても月に数十万円の収入を得ている林家もいるという。間伐や間伐材の搬出に補助金を出す自治体も多く、「兼業の農家・林家にとっては結構な副収入となっている」と中嶋氏は説明する。

険しく奥深い山では何人かがグループで作業する。手ごわい搬出作業の手間を省くため、同NPOは20万円ほどで導入可能な「土佐の森方式・軽架線」というツールを開発した。山の上にある木と、下にある木にワイヤ使って架線を張り、林内作業車のウインチと滑車を使って伐採した丸太を運び出す。

木と木の間に張ったワイヤ架線で伐採した丸太を運び出す(NPO法人、土佐の森・救援隊提供)

こうした「土佐の森方式」は全国に広がりつつあり、現時点で10市町村以上が導入済みだ。さらに30の自治体が導入を検討中とされる。特に木質系のバイオマス(生物資源)エネルギーを活用するシステムを導入した自治体では間伐材収集の有効な手段となっており、林家の安定した収入につながるケースが多いという。中嶋氏は「ドイツでは45万の林業事業体が存在し、その8割超が個人経営。うち6割が農家であり、民宿や酪農などと兼業している例が多い」と解説する。

梶山氏らが策定した「森林・林業再生プラン」でも、その要諦は「いかに森林を健全に保ち、持続可能な林業を日本に定着させるか」だ。「規律のない、単なる資金を出すだけの補助金を見直す」ことも掲げている。林業事業者だけでなく、ドイツなど欧州に多い高度な知識と豊かな経験を持つ「フォレスター(森林経営専門家)」などの人材も育成して豊かで健全な森の実現をめざす。

同プランでは、伐採などの作業を集約する「大規模化のメリット」にも触れているが、一方で土佐の森方式のように「個人として山林を管理する方式を面的に広めた方が、かえって効率がよい」(中嶋氏)という意見もある。

国土の約7割が森林という日本にとって、林業の衰退による森林の荒廃は二酸化炭素(CO2)の吸収量を下げ、治山・治水の面でも災害に弱い山を生み出すなどの大きな問題につながる。

梶山氏によると、現在の日本の森林を健全に保つには毎年5000万立方メートルの伐採が必要で、それだけ切っても年間1億立方メートル分ずつ森林蓄積は増えていくという。「人材とともに持続可能な森林を育成すれば、今後40~50年はまともな林業を日本に根付かせることができる」

仮に年間5000万立方メートルの木々を国内消費すれば、木材の国内自給率は50%になると試算されている。こんな豊かな資源を抱えた日本の山を見直す時期は、確かに今しかないかもしれない。

(産業部 三河正久)

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