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風力発電、周辺産業に追い風…部品から金融まで

編集委員 安西巧

欧米や中国に比べ出遅れていた日本の風力発電産業がようやく成長軌道に近づいている。福島沖や千葉・銚子沖、北九州沖などで巨大風車を使う洋上風力発電の実証実験が進む一方、陸上の小型風車による発電プラントも昨年7月にスタートした再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT=Feed-in Tariff)による追い風で急増中。現在開発が加速しているブレード(回転翼)の長さ80メートル超の巨大風車を搭載する風力発電システムの世界市場では、日本メーカーの存在感が一躍高まる見通し。1万~2万点とされる部品部材でも日の丸製造業の優位性が指摘されており、自動車や航空機などに並ぶ産業クラスター(集積群)の形成に向け、製造業から金融分野まで関連企業の関心が高まっている。

報道陣に公開された浮体式洋上風車(25日午前、千葉県市原市)

6月28日、三井造船千葉事業所(千葉県市原市)のドックから巨大な浮体式洋上風力発電設備の曳航(えいこう)が始まった。行き先は福島県いわき市の小名浜港。「ふくしま未来」と名づけられたこの巨大設備は、丸紅など10社と東京大学が参加する「福島洋上風力コンソーシアム」が経済産業省から受託して進める浮体式洋上ウィンドファーム実証研究の第1期事業に利用される。8月までに小名浜港から福島県広野町沖約18キロメートルの場所に再び係留され、10月に発電を開始する予定だ。

三井造船が傘下の三井海洋開発などと製作した風車を支える鋼鉄製浮体は高さ32メートル、横幅は50メートルを超える。洋上の石油・天然ガスプラントなど向けの鋼鉄製浮体を建造してきた同社の技術ノウハウを生かし、保守・管理の難しい設置環境を考慮して20年間は基本的にメンテナンス不要とされる。三井造船は川崎重工業との経営統合が白紙となり、不振の造船事業を補う新たな戦略が求められているが、6月27日の株主総会後に新たな中期経営計画(2013~17年)を発表した田中孝雄社長は洋上風力発電など再生可能エネルギー分野の事業拡大に意欲を見せている。

その鋼鉄製浮体の上に設置されている高さ約90メートル、重さ約320トン、発電能力2000キロワットの巨大風車を手がけたのは日立製作所。これまで一般的だったアップウインド型と異なり、「ナセル」と呼ばれる発電機や変圧器を収納した箱をブレードの前方(風上側)に置くダウンウインド型の風車で、下から吹き上げる風を効率的にとらえることができる。

日立は昨年7月、このダウンウインド型風車を開発製造していた富士重工業の風力発電事業を買収した。出力2000~5000キロワット級の大型洋上風車の市場に照準を合わせており、昨年末には中部電力子会社のシーテック(名古屋市)と津市や三重県伊賀市が出資する第三セクター、青山高原ウインドファーム(津市)から2000キロワットの風力発電機40基を受注した。16~17年に順次運転を始める予定で、受注金額は200億円弱とみられている。

「日本の自然エネルギー白書(風力編)2013」から

巨大風車を搭載した鋼鉄製浮体に続いて、7月上旬にはジャパンマリンユナイテッド(JMU、東京・港)の横浜事業所(横浜市)で建造が進む浮体式洋上サブステーション(変電所)が完成し、横浜市の南本牧ふ頭から福島沖に曳航される。「ふくしま絆」と名づけられたこのサブステーションは6万6000キロボルト級で変圧器の洋上設置は「世界初」とされる。

JMUは今年1月、ユニバーサル造船とアイ・エイチ・アイマリンユナイテッドが経営統合して誕生。さらにさかのぼれば、JFEホールディングス、日立造船、IHI、住友重機械工業の4社の造船事業を統合した会社だ。前述の三井造船と同様に、造船業界は世界的な供給過剰で来年にも建造する船がなくなる造船所が出かねない「2014年問題」に直面しており、長引く構造不況を克服するうえで、浮体式洋上風力発電市場の立ち上がりにかける期待は大きい。

「日本の自然エネルギー白書(風力編)2013」から

こうした風力発電設備本体のほかに、1万~2万点といわれる部品部材でも日本メーカーは健闘している。まずブレードの素材には、風車の巨大化に伴い、従来のガラス繊維に代わって鉄の10倍以上の強靱(きょうじん)さを持ち、しかも軽い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の採用が増えている。供給メーカーとしては東レをはじめ、三菱レイヨン、帝人系の東邦テナックスがある。風車メーカーでは、ブレードの長さ80メートル超、高さ約200メートルに達する7000キロワット級風車の開発を進める三菱重工業など日本勢だけでなく、世界シェア2位のデンマークのヴェスタス社もCFRPを採用し始めている。

風車の回転力を動力に変換する増速機(ギアボックス)部分に使う軸受け(ベアリング)でも日本メーカーの風車向け世界シェアは5割と高水準。日本精工やNTN、ジェイテクト(旧光洋精工と旧豊田工機が06年に合併して発足)、THKなどは耐久性を高めた製品を相次ぎ開発、欧州や中国市場の開拓にも力を注ぐ方針だ。また、増速機本体は石橋製作所(福岡県直方市)、コマツ、住友重機系のセイサ(旧大阪製鎖造機)などが手がける。

これら風力発電関連への参入企業は航空機や自動車、船舶などの部品部材メーカーとの重複が多く、加えて電気自動車(EV)分野は発電機や蓄電池など共通の部品部材が目立つ。

製造業だけではない。洋上風力発電設備の施工には大手ゼネコンもそろって意欲的だ。福島洋上風力コンソーシアムには清水建設が名を連ねるほか、鹿島は今年1月、千葉県銚子沖3キロメートルの洋上に着床式の風力発電施設の据え付け工事を手がけた。大林組は海水や未洗浄の海砂を使ったコンクリート(「海水練り・海砂コンクリート」)を独自に開発し、洋上風力発電設備工事での需要を狙っている。

準大手ゼネコンの前田建設工業は15年着工、16年から順次稼働予定で山口県下関市沖1~2キロメートルの海域で合計出力6万キロワット規模の洋上風力発電事業に乗り出す。同社は岩手県大船渡市で合計出力1万8000キロワットの太陽光発電事業(15年運転開始予定)を始める計画も打ち出しており、従来ゼネコン各社が不動産投資を直接手がけて自ら工事需要を作り出した「造注」と同じように、再生可能エネルギー事業への投資を関連工事の受注拡大に結びつけて「脱請負」戦略の切り口にする考えだ。

金融の動きも出てきた。昨年7月に始まった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度によって、すでに全国各地で発電プロジェクトが続々産声を上げており、十六銀行(岐阜市)や中国銀行(岡山市)など地銀が積極的に動産・債権担保融資(ABL)の需要を掘り起こしている。

また、英国のグリーン投資銀行(英政府が30億ポンド=約4500億円=を出資して昨年11月に発足)をモデルにした政府の「グリーン・ファンド(地域低炭素化出資事業基金)」構想が具体化し、環境省は6月10日に基金設置法人(補助事業者)として一般社団法人のグリーンファイナンス推進機構を選んだ。同ファンドは地域版の太陽光発電や風力発電を支援対象に想定しており、政府系ファンドの出資が民間資金の呼び水になることを目的にしている。

みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長は今年2月18日の政府産業競争力会議で「再生可能エネルギー供給の強化」を提言。その中で風力発電の潜在性について、風車の部品点数の多さや発電、メンテナンスなどでの雇用創出効果によって「風車の国産化率を80%とすれば1ギガワット当たり400億円弱の国内総生産(GDP)創出効果が期待できる」と指摘した。メガバンクから地銀、信用金庫に至るまで徐々に資金の流れが出来つつある。

風力発電でも特に巨大風車を搭載する大型プラントでは、地方経済の活性化の期待も大きい。設備が巨大化すると完成後の移設に莫大なコストと手間を要するため、発電所の近辺に関連企業が集約されるようになる。実際、20年までに1000億ポンド(約15兆円)を投じて風車7000基、合計出力3200万キロワットの洋上風力発電設備を建設する計画が進む英国では風車メーカー世界大手の独シーメンスをはじめ関連メーカーが続々工場進出している。このほか、風力発電に積極的なドイツやデンマークなどへの製品・部材供給拠点として、ドイツのハンブルクに関連産業が集積している。

洋上風力発電については漁業権の問題でプロジェクトが難航するとの指摘もあったが、最近では風車の基礎部分が魚礁となって魚を集める効果があるとの見方が広がっている。浮体式の洋上風力発電施設では操船技術を持つ漁業関係者の雇用が見込めるほか、設備を地元漁業者にリースして売電との"兼業漁業者"を増やす構想(佐賀県が三井造船グループと共同で手がける同県唐津市沖での浮体式潮流・風力ハイブリッド発電実証プロジェクトなど)も浮上している。

環境省が長崎県五島市の椛島沖で昨年8月から試験運転を始めた浮体式洋上風力発電の設備の周辺にカンパチやメジナなどの集魚効果があることが確認されている。風力発電を活用した漁村の地域活性化が実現する日は近いかもしれない。

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