国産ブドウ100%ワイン、なぜ「国産」と呼ばない?
ビールや日本酒など国内の酒の消費が全般的に伸び悩む中でここ数年、ワインの消費が伸びている。特に注目を集めているのが、国産ブドウを原料に仕込んだワインだ。ただこのワイン、メーカーや店舗は「国産ワイン」と呼ばずに、あえて「日本ワイン」と呼ぶケースが増えている。いったいどうしてなのか――。
■増える表示変更

毎年11月に開かれる「山梨ヌーボーまつり」(山梨県ワイン酒造組合主催)。山梨産ワインの宣伝や販売増を目的に1988年から始まった催しで、同月初旬の東京・日比谷公園を皮切りに、地元山梨や大阪などでも開かれている。
有料だが、出展した地元ワイナリー(2013年は37社)の新酒ワインを少しずつ試飲できるのが大きな魅力。祭りが始まった当初は各メーカーを次から次へと試飲して歩けたが、年々人気が高まり、近年は行列しなければありつけないほどの混雑ぶりだ。
人気の背景には、山梨ワインの味の向上がある。以前は種類が少なかった白の辛口も、現在は豊富な種類の中から選べるようになった。山梨だけでなく、北海道や新潟、山形、京都――など国内各地のワインも続々登場。販売する店舗も増え、良質の国産ワインが適正価格で手に入るようになった。
ただ実際に売り場に足を運んでみると、ちょっと不思議な光景に出くわす。東急百貨店本店や高島屋新宿店などのワイン売り場では、「国産ワイン」ではなく、なぜか「日本ワイン」や「日本」などと表示している。
サントリーは2010年から、国産ブドウ100%ワインを「日本ワイン」と名付けた。例えば最近の宣伝文を見ると、「国産ワイン新商品発売」とせずに「日本ワイン新商品発売」などと書いてある。メルシャンも2011年のプレスリリースには「日本産(国産)ブドウ100%から造る『日本ワイン』」と記載している。北海道小樽市に本社を置く北海道ワインは、広告で「純国産ワイン」とわざわざ「純」を付けて表記している。
消費者にとっては「国産」とするほうがピンとくるように思えるが、なぜ「国産」表示を避けるのか。
■輸入ブドウで造っても「国産」
「『国産』と表示できる範囲が広すぎるため、せっかく品質の高い国産ブドウでワインを造ってもその魅力をアピールしにくいからです」。ワインエキスパートの資格(ソムリエと同等の資格)を持ち日本のワイン事情にも詳しい中央大学商学部の原田喜美枝教授が解説する。
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例えば国産ブドウをまったく使わず、輸入ブドウ果汁を使って国内で製造したワイン。実はこれも「国産ワイン」と表示できる。日本では酒は酒税法などで管理されるが、ワインについて「原料は国産ブドウに限る」といった細かな規定がなく、果実酒=ワインとなるため、国産ブドウを使っていない国産ワインが出来上がるのだと原田教授は言う。
「ですから、国産ブドウ100%を原料に作ったワインは『日本ワイン』と表示するのが正確なんです」と、東急百貨店本店和洋酒売り場のワインアドバイザー、川口淳マネジャーも説明する。
主に国産ブドウを原料に醸造する中小ワイナリーは、早くからこの国産表示問題に取り組んできた。道産ワイン懇談会、山形県ワイン酒造組合、山梨県ワイン酒造組合、長野県ワイン協会、日本ワイナリー協会の5団体が設立した「ワイン表示問題検討協議会」は1986年、自主基準の「国産ワインの表示に関する基準」を策定し「国産」表示の適正化に着手。国産ワインに対する消費者の支持や関心の高まりを受け2006年には、「国産」表示する際に輸入原料使用を明示するよう基準改正するなど、消費者の立場に立った取り組みを進めている。
■「日本ワイン」、シェアはわずか6%
しかし自主基準はあくまで法律ではないため、強制力はない。ワインの主要生産国が持っているワイン法に相当する法律を日本も制定すべきだという声もある。「世界のワイン法」という共著書を持つ明治学院大学法学部の蛯原健介教授は「世界の中で日本のワインの評価を高めるためにもワイン法が必要」と主張する。
現在国内で消費されるワインは、約7割が輸入ワインで残りの約3割が国産ワイン。この国産ワインのうち約8割を海外産原料で造ったワインが占め、国産原料によるワインは約2割しかない。つまり、ワイン全体の消費量に占める「日本ワイン」のシェアは実は約6%にすぎないのだ。
東急百貨店本店では2年前、日本ワインの品ぞろえを1.5倍に拡大した。「日本ワインは個性のある造り手が続々と現れており、顧客の問い合わせも増えている」(同店の川口マネジャー)というように、ファンの増加にともなって「日本ワイン」という言葉は徐々に定着していくかもしれない。
(山田伸哉)