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熊野古道 全部が世界遺産?(謎解きクルーズ)

舗装、登録への道覆う

和歌山県の本宮大社、速玉大社、那智大社の「熊野三山」に向かう参詣道の熊野古道。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を成し、国内外から多くの人々をひき付ける観光名所だ。もっとも、歩行者の脇を車が走るような今風の道もある。一体どこまでが世界遺産なのだろうか。

まず、和歌山県庁の文化遺産課に向かう。世界遺産班の藤井幸司さんが地図を見せてくれた。「すべてが登録されているわけではありません。道路脇に『熊野古道』と案内板があっても、世界遺産とは書かれていないはずです」という。

熊野古道は大阪から和歌山県田辺市に至る紀伊路、田辺から熊野三山への中辺路(なかへち)など主に5本の道を指す。全長は600キロメートルを超える。実はこのうち世界遺産に登録されているのは200キロ弱にすぎない。

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藤井さんによると、(1)昔の道が残っていない(2)土地所有者の同意が得られていない(3)文化財としてのルート確定・掘り起こしができていない――などの場合は登録要件を満たさない。国連教育科学文化機関(ユネスコ)への申請前に除外された。

例えばアスファルトやコンクリートで覆われた舗装道だ。中央部を山地が占める紀伊半島で人が行き来できる交通路は限られる。主要な参詣道は現在の国道、県道が多いという。

県内のメーンルートである中辺路でも全体の6割弱しか登録されていない。半島の南岸沿いの大辺路(おおへち)は「大半が国道や生活道路となっている」(県文化遺産課)ため、約120キロのうち10キロだけ。

「和歌山市、海南市と海沿いを走る紀伊路は国道42号にほぼ重なる。アスファルトの下には上皇や法皇の歩いた道が隠されているのでは」と藤井さんはいにしえに思いをはせる。

観光客が多い中辺路の様子はどうか。県世界遺産センターの辻林浩センター長に案内してもらった。

「ここはおもしろい」と連れて行ってくれたのが本宮大社に近い伏拝(ふしおがみ)王子周辺。木漏れ日は優しく、茶畑の向こうには山々が続く。近隣の農家が運営する休憩所「伏拝茶屋」もある人気コースだ。

「これぞ熊野古道」といった雰囲気を満喫できる世界遺産ゾーンだが、茶屋を過ぎた十数メートルだけは登録を外れた。「一目瞭然。ここだけアスファルトだから」と辻林さん。外国人トレッカーの脇に近隣住民所有らしい軽トラックが止まっていた。

辻林さんによると、世界遺産に登録されたのは「参詣道だったと確定できているところだけ」。平安時代に遡る熊野への参詣道は決して1本ではない。熊野詣でにもはやり廃りがあった。人が寄りつかなくなり、草木に埋もれた道もあったという。

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失われかけた道を掘り起こし、参詣道としてよみがえらせようという取り組みが、紀南地方を中心に進む。世界遺産への追加登録が狙いだ。

串本町は大辺路の「新田平見道」「富山平見道」「飛渡谷道」などの測量、整備を実施。再来年以降の追加登録の前段階として「国の史跡指定を受けるための報告書作成に取り組んでいる」(町教育課)。那智勝浦町との境にある清水峠の数百メートルの測量も進める。

田辺市では、「長尾坂」「潮見峠」「北郡越」など計約9キロの追加登録を狙う。辻林さんが案内してくれた「赤木越」は湯の峰温泉の手前にあり、長さは5.4キロ。江戸時代以降の比較的新しい道だが、雰囲気は十分。辻林さんは「(本宮大社に至る)大日越ルートにもつながる、現在の登録地との関連性もきわめて高い」と太鼓判を押す。

熊野古道の魅力は実際に歩いてこそ堪能できる。木漏れ日の中、五感で空気を感じれば自然をあがめた巡礼者の心がよく分かるだろう。

(和歌山支局長 土田昌隆)

▼紀伊山地の霊場と参詣道 「吉野・大峯」「熊野三山」「高野山」の3つの山岳霊場と、これらを結ぶ参詣道で構成し、2004年7月7日、世界遺産に正式に登録された。参詣道は吉野と熊野を結ぶ「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」、熊野三山に向かう「熊野参詣道(熊野古道)」、石の道しるべが立つ「高野山町石道(ちょういしみち)」。登録対象の総延長は約307キロ。「道」としての世界遺産登録はスペイン、フランスにまたがる「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」と2つだけだ。

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