/

ランニングの基本、正しく歩くことにこだわろう

ランニングインストラクター 斉藤太郎

新年度がスタートしました。新しく何かを始めようとする節目の季節。4~5月にはクラブに入会されるメンバーも多くなります。大会でもないのに多くのランナーと走ると、気分が高揚して、ついついオーバーペースになったり練習量が増えたりしがちです。そんな方へは「冷静になりましょう。距離やタイムではなくて、まずは基本を大切に取り組んでいきましょう」とアドバイスします。

今回はランニングの基本の一つである「歩き方」をテーマにします。トレーニング、散歩、通勤通学、どういった局面でも、私が日ごろ提唱する「こけし=骨盤・肩甲骨・姿勢」の3要素を思い起こしてください。

まずは姿勢から説明していきます。

し=姿勢

背筋をほぼ垂直に保ち、上体が猫背で前方向に抱え込む姿勢にならないように気をつけます。体の前面(あばら骨周り)を広く保つことで、自然と深い呼吸換気になります。体幹を垂直方向に伸びるカプセルのようにイメージします。常に圧力がかかり、たわむことのない姿勢を心がけましょう。

け=肩甲骨

正しい姿勢を維持しようとすると、上方向への力みが生じて、両肩や首筋が硬直しがちです。正しい姿勢を維持しながらも、鎖骨から両肩にかけてリラックスさせます。胴体と肩、鎖骨、肩甲骨周りは分離しています。やわらかく腕を振りましょう。

腕を前後に振ろうとすると、やはり肩が硬直します。肩甲骨を使って、下向きの弧を描くような軌道で自分の体に向かって肘と腕を手繰り寄せるような、「腕振り」ならぬ「腕引き・肘引き」が理想です。肘を引いたときに、体幹と腕で三角形を描くような意識を持ちましょう。こうして後ろ方向に引く力が、骨盤を前に押し出してくれるのです。

こ=骨盤

脚の振り子運動の付け根になります。着地した衝撃を骨盤で受け止めてください。接地の瞬間は体よりもやや前、かかとから着きますが、すぐあとに一歩一歩、体の真下でしっかりと地面を踏みしめているかどうかを意識してください。着地の衝撃をお尻で受け止めてください。そこから拇指(ぼし)球で踏ん張りながら体を前方へ押し出しますが、地面から足の指が離れる瞬間を大切にしましょう。

大きなストライドでダイナミックに歩くフォームです。見ている方には優雅な印象をあたえることでしょう。

骨盤が後傾して、姿勢が崩れているような方の歩き方は脚(大腿)が後ろ方向にスイングされません。腰の位置は低く、ストライドは狭まります。一歩一歩、前ももの筋肉で脚を持ち上げて歩くようなフォームになってしまいます。エネルギーを多く使う、あまり効率的ではないフォームが、そのままランニングにもつながることになります。

ウオーキングの取り入れ方とポイント

散歩やハイキング

大型連休を前にハイキングなどの予定がある方も多いことでしょう。ザックを背負って長時間歩くときには、その重さに対抗して、どうしても体の前側の筋肉を萎縮させてバランスをとろうとします。肩周りが固まりがちです。休憩のたびにザックを置いて、ストレッチや深呼吸をするようにしてください。

後ろに背負うと前面が萎縮します。たまにザックを胸側にかけて歩いてみると、反対の背中側の筋肉にスイッチが入るので、気分転換、バランスのスイッチ変換にもなるかと思います。余談ですが、この前後バランスの要素が反映されたと考えられるザックが販売されています。

ランナーの方

大抵は体操後、いきなりランニングという流れだと思います。ですが、試しに1週間に1回、ウオーキングを重視したランニング練習を入れてみてください。

例えば、20~30分を大きなフォーム、かつハイペースで歩き、ストレッチ、ランニングという流れで取り組みます。ランニングの着地が「パンッ、パンッ」というイメージなのに対して、ウオーキングは「ドシッ、ドシッ」です。宙に浮くことなく、片足で地面を支えている時間が長くなる分、筋トレのような効能が得られます。何となくパタパタ走っていたような方のフォームが、地に足のついた安定感あるものに修正されます。地面を上手に捉えて走れるはずです。一歩のクオリティーが高いランニングとなります。

フルマラソンの1~2カ月前には、ダメージを最小限に抑えて脚筋力の持続力をつけるために、3~4時間のウオーキングを取り入れてみるとよいでしょう。ビギナーの方に限らず、3時間30分を切るような上級者でも、こうした長時間ウオークがけがのリスクを抑え、走力アップに結びつくはずです。

ランニングにおける「歩く」動作の位置づけは、剣道の「構え」、水泳の「けのび」といった、最も大切にしなければならない「基本」に当たるのではないかと思います。まずは基本をしっかりとマスターする。その上で、発展形へとシフトしていくべきです。

基本すらマスターできていないのに発展に移行しては無理がたたります。車や高速列車の走行実験では低速から入ってデータを取り、課題を解決しながら速度を上げていくはずです。その過程を省いた走り方だと、いつか限界が訪れると思います。記録の頭打ちを迎えるかもしれないということです。

そして、この基本は1回取り組めばOKということではなく、1年を通じてコンスタントに取り入れていくべきです。大自然で生活する四足動物をイメージしてください。「たたずんでいる→歩く→走る」という生活です。「歩く(歩行)」というベースの上に「走る」、さらには猛烈なダッシュで「逃げる」という運動が存在しています。

一方で私たちの日常生活習慣はどうでしょうか。ビジネスマンでいえば「デスクワーク→ランニング」。このように「じっとしている⇔走る」といった、落差のある生活に陥ってはいませんか?

仕事を引退した方が「さあ、思う存分走れるぞ」と思ったら、けがをしがちになったというお話も耳にします。仕事をされていたときには、通勤で日々必然的に数キロ歩いたり、ランニングをしたりとバランスが保たれていたのが、通勤がなくなったことで歩行・走行距離が減ることが1つの理由だと考えられます。

クラブの健康体操部門でも定期的に、正しく歩くプログラムを取り入れていますが、ある方が「何十年も歩いてきたけれど、生きているうちに、このメカニズムを知ることができてよかった」とおっしゃっていたのが印象的でした。

歩くことについてあれこれお話ししました。こだわることなく見落としていた部分があったのではないでしょうか。ランニングの基本という意味で、歩くことにも是非、こだわりを持っていただければと思います。

<クールダウン>新入生にみるランナー心理
 先日、入学間もない小学1年生の授業を参観しました。当然ですが、椅子に座り先生の話を聴く集中の持続力がありません。45分間の授業の中盤から終盤にかけては、後ろから眺めているとまるで海藻のようにゆらゆらくねくねといった感じです。どうにか抜け出したいけど、どうにもならない時間なのでしょう。
 この状況、走り出して間もないランナーに似ているかもしれません。おそらくは「30分」「3キロ」「公園を△周する」など、その日のゴールを定めてスタートするものの、終盤は「苦しいな、早く終わらないかな」と我慢の時間になるのではないでしょうか。
 だからかもしれません。「非ランナー(走っていない方)」からは「走っているときって何を考えているのですか? きつくないですか?」という質問を、ランニングブームといわれるこの時代でも受けます。
 ランニングを習慣として続けられている方にはわかると思います。「根性」とか「辛抱」といった次元を超えて、いつしか「それは『無』であり、とても充実を感じる時間」へと変わっていくことが。1年生も、そのうち45分間座って授業を受けることが当たり前になっていくのだと思います。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)など。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン