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男子バドミントン・桃田を勘違いさせたもの

編集委員 北川和徳

スポーツを取材してきた記者として考えさせられることが多い事件となった。男子バドミントンの日本の新旧エース、桃田賢斗(21)と田児賢一(26)らが違法な闇カジノ店で賭博をしていたことが発覚、桃田は事実上決まっていたリオデジャネイロ五輪代表の座を失った。国などから多額の補助金も投じられて五輪の金メダル候補にまで育ったスポーツエリートの不祥事は、日本のスポーツ全体への信頼を揺るがす事態になっている。

なぜやめられなかったのかと問われ

8日に開かれた所属企業のNTT東日本による桃田と田児の会見。明るい色だった髪を黒く染め直して現れた桃田の謝罪に「それを言ってしまうのか」とひっかかる部分があった。なぜやめられなかったのかと問われ、「スポーツマンとして勝負の世界で生きている以上、ギャンブルというものに興味があり、抜けられない自分がいた」。

違法行為について謝罪する場。これでは「スポーツマンだから違法なギャンブルもするんです。大目に見てください」と言い訳しているようなものだ。スポーツで結果を出せば何をやっても許される。桃田が陥った悲しい勘違いがこの言葉に集約されている気がした。

テレビの識者のコメントでは「幼い頃からスポーツばかりしているから社会常識がない。もっと社会人としての行動規範から教えるべきだ」などの意見もあった。正直、スポーツへの偏見ではないかと首をかしげたくなる。スポーツ選手の不祥事のたびにこうしたコメントを流すメディアほど、五輪でメダルでも取ろうものなら今度は選手の人間性を含めて無条件に称賛する。

違法カジノ店が別にスポーツ選手だけであふれているわけではないだろう。賭け金の高さからいっても、客には様々な経験を積んだ社会的地位が高い人もいると想像できる。高学歴であるはずの政治家や官僚たちの耳を疑う愚かな行為だって後を絶たない。犯罪ではないが、先日も国会で大臣の答弁そっちのけで携帯電話をいじって読書をしている元新聞記者の女性議員がいた。社会常識としての行動規範を身につけていないのは一部のスポーツ選手に限ったことではない。

他の分野の成功者より危うい場所に

桃田も田児も違法行為であるという認識はあったという。だから余計に罪は重いわけだが、結局は自分の立場を勘違いした、誘惑に流されてしまう弱い人間だったということだ。この勘違いはスポーツ選手に限らず、政治家や官僚、有名タレントら世間から注目されたり、社会への影響力を持ったりする「勝ち組」に必ず仕掛けられるワナだと思う。

ただ、その意味でスポーツ選手が他の分野の成功者よりも危うい場所にいるのは確かだ。スポーツの勝者を無条件に称賛する、結果さえ出せばすべてが許されると思わせる風潮が、選手の周囲だけでなく社会全体にある。昨年のスーパーシリーズ・ファイナルで優勝して賞金8万ドルを手にした桃田は「派手な生活をしたい。それに"ガキんちょ"が憧れてバドミントンを頑張るように」などと話している。やんちゃな自分を自慢する調子に乗った幼稚な姿。大人なら眉をひそめそうなこんな発言が、新しいヒーローの自由奔放な魅力として肯定的に報道されている。

本来はスポーツ選手としての成功と人間性や品格とはまったく別のものなのに、厳しい鍛錬に耐えて高い技量を身につけたトップアスリートたちは人格的にも優れた理想の人間だと勝手に思い込んで持ち上げる。人気タレントらも同じ扱われ方をすることがあるが、普通の若者なら「自分は特別な人間」と勘違いしてしまう。スポーツを伝えるメディアの一員として、責任は我々にもあると思った。

大金を手にし人間関係派手になると…

20年前だったらマイナー競技で五輪メダリストになっても一時の話題になるだけで、経済的な恩恵などほとんどなかった。今は多額の賞金を手にする機会があるし、テレビのバラエティー番組にも出演して有名人とも付き合う。大金を手にし、人間関係が派手になると、危ない誘惑も増えてくる。そこに世間に持ち上げられて勘違いした若者が放り込まれたら……。その結果が会見でうなだれる桃田や田児の姿なのだろう。

日本オリンピック委員会(JOC)や各競技団体(NF)は、研修などで選手の人間教育を徹底して再発防止に取り組むという。不祥事のたびに繰り返されるパターンだが、昔と同じ意識でやっても意味はない。繰り返しになるが、NFの役員たちの現役時代と今の選手たちを取り巻く環境は以前とまったく違う。

アスリートを八百長の世界に引きずり込もうとする反社会的勢力の存在もある。日本では違法なスポーツ賭博といえば野球やサッカーと考えがちだが、世界的にはどんな競技も合法な賭博の対象となりうる。ネットを通じて海外から日本国内の試合も賭けられているという。あらゆるアスリートが八百長を仕掛けようとする勢力のターゲットとなる。スポーツ界には再発防止のための取り組みというよりも、これはスポーツを守るための闘いだという認識と覚悟が必要だ。

バドへの情熱は本物、再起を目指して

桃田も田児も、後悔や反省する以上に自分を不運だと嘆いているのかもしれない。特に金メダル候補として初の五輪の舞台に立つ夢を断たれた桃田は、一般の社会人とは比較にならない厳しい代償を払うことになった。だが、発覚しなかったらどうなったか。後輩から借金をしてまで賭博をしていた田児の人生は転落するばかりだったろう。バドミントンに集中するためすでにやめていたという桃田も、リオでメダルでも獲得したら同じことを繰り返してもっと深みにはまったのではないか。反社会的勢力に取り込まれる危険もあった。

むしろ幸運だったと考えて再起を目指してほしい。自分を勘違いした誘惑に弱い人間だったのかもしれないが、バドミントンに向けた努力や情熱は間違いなく本物だったはずだ。そうでなければ世界ランキング2位になどなれない。お前もアスリートに甘いじゃないかといわれるかもしれないが、4年後の東京五輪のコートに立つ桃田の姿を見たいと願っている。

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