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プレミアリーグで初優勝濃厚 レスターの肝は岡崎

サッカーのイングランド・プレミアリーグは日本代表のFW岡崎慎司が所属するレスターが21勝9分け3敗で首位を走っている。残り5節で2位トットナムとの勝ち点差は7。もう初優勝は濃厚と言っていい。

資金が潤沢ではないレスターがビッグクラブのひしめくプレミアリーグでなぜこれほど勝ち続けているのか。よくいわれているようにハードワークが持ち味なのは確かだが、それだけで勝っているわけはない。

きっちり決まっているそれぞれの役割

戦術的に特別なことをしているわけではない。布陣はオーソドックスな4-4-2(2トップは縦関係)。前線から相手を追い始めてサイドにボールを出させ、縦に配球したところをカットしてカウンターにつなげる。やっていることはきわめてシンプルで、それを90分間、愚直に続ける。そこにレスターのすごさがある。

それぞれの役割がきっちり決まっていて、いわばオートマチックに動く。勝手に判断して余計なことをすることがない。だから3ラインがぐちゃぐちゃにならない。

サイドの選手が変に中に入ったり、SBが必要以上に攻め上がったりしない。味方同士が一定の距離を保ち、スペースを埋める。

リーグ2位の21得点を記録しているFWバーディーはトップに残し、トップと2列目の間を岡崎が埋める格好だ。岡崎が買われているものの一つは守備力だろう。下がってきてMFと相手を挟み込んで体を張ってくれる。

2列目と最終ラインの間を埋めるのはドリンクウォーター。かつてのマケレレ(元フランス代表)のように、小さいけれどよく動くカンテが相手に食いつき、そこからこぼれてきたボールをドリンクウォーターが拾う。常にDFラインの前のスペースを埋めて空けないようにしている。

16得点のMFマレズは必ずバーディーの逆サイドに位置し、斜めの関係を保つ。決して縦の関係にはならない。バーディーとは逆の方向に逃げるように動いていき、相手を引き寄せてバーディーのサイドを空ける。

岡崎はバーディーの後方に構え、そこから真っすぐ縦に走って相手を引きつける。その1列奥を走ってフリーになるバーディーにラストパスを合わせることが多い。

中盤で「水を運ぶ選手」のFW版

岡崎はダミーで、バーディーが仕事をするスペースをつくる。おかげでバーディーはゴールを量産できている。普通、あれだけ点を重ねたらマークは厳しくなるものだが、岡崎が動いてマークを分散させている。バーディーは相手DFとの距離をもらえるので、縦へのスピードだけで振り切れる。

日本代表のオシム元監督が言ったように、サッカーでは中盤で「水を運ぶ選手」が必要。岡崎はそのFW版だ。たくさん走って、チームメートについているマークをはがしてくれる。だからバーディーもマレズもプレーを選択する時間をもらえる。

岡崎がレスターの肝といっていい。だから5点しか取っていなくてもラニエリ監督は使い続けている。岡崎がいなかったら、3ラインが崩れてしまうだろうし、いまのレスターのサッカーは成り立たない。

もし、相手に引いて構えられたらレスターは苦しくなる。セットプレーくらいでしかチャンスがなくなるかもしれない。しかし、プレミアリーグでは残留争いをしている下位チームでも引いてゴール前を固めるようなことをしない。イングランドのサポーターはそんなことを許さない。果敢に攻め合うサッカー文化があるから、レスターは苦労せずに済んでいる。

機動力で勝負、2人の武器は走力

イングランドではどのチームにも体格のいいCBがそろっている。それに対してレスターはハイボールを入れて競り合うスタイルをとらない。

大きくないバーディーと岡崎を2トップに置き、機動力で勝負している。2人とも武器は走力。実はこういうFWを大型CBは一番嫌がる。

イタリア人のラニエリ監督は母国のユベントス、ローマ、インテル・ミラノに限らず、スペインのバレンシア、イングランドのチェルシーなどで指揮をとった経験豊富なベテラン指導者。イングランドなら、こういうサッカーが有効と熟知している感じがする。

先発メンバーを固定し、約束事を徹底した分、戦術理解度が高まってきた。練習では同じことをずっと繰り返しているのだと思う。結果がついてきたので、自分たちのサッカーへの自信が膨らんでいるはずだ。

選手たちは先発が確約されているので、安心してプレーしている。監督はもともと無名だった選手たちに「もっと上にいけるよ」とけしかけ、野心に火をつけているのではないか。たぶん、そうやって人心を掌握しているのだろう。

1年でパッと散る危険性をはらむ

大物選手がそろうビッグクラブではこの手法はとれない。こうしろ、ああしろ、そこは3メートル下がれ、そこではなくここにポジションを取れと細かいことを言われ続けたら、エゴの強い有力選手は「うるさいな。そんなことやっていられるか」となる。

レスターにはスター選手がいないので、押さえつけることができる。選手たちは言われたことを忠実に守り、任務を遂行し続ける。

プレミアリーグの試合だけに集中できているので、けが人もほとんど出ていない。現在、5試合連続の無失点勝ち。普通なら終盤にガス欠を起こすものだが、レスターはますます守備が整備されてきた。先に失点して追いかけるのはつらいが、守備が安定しているので、そういう展開にならない。

来季の欧州チャンピオンズリーグ(CL)出場が決まった。厳しい日程の中でいまのような走力を保てるとは思えない。固定メンバーで戦い続けるのも難しい。乗り越えるのには補強が必要だが、大物を取ったら押さえが利かなくなる。1年でパッと散る危険性をはらんでいる。

それにしても、今季のプレミアリーグはチェルシー、マンチェスター・ユナイテッドをはじめとしたビッグクラブがそろって自分たちの形を整えることなく終わってしまいそうだ。総崩れしたのがレスターには幸いした。

多くのチームが形失い混濁状態に

莫大なテレビ放映権料が世界から集まるプレミアリーグには外国人の有力選手・監督が集まる。それに伴い、多様なものが入ってきて、いい意味でのイングランド的なものが失われてきた。多くのチームが形を失い、混濁した状態にある。

たとえばCBははね返せばいいだけでなく、ビルドアップに加わるなど様々な役割が求められるようになった。「ポリバレント」(複数のポジションをこなす)な選手が重用される時代になり、イングランドサッカーが変容してきた。

そういう中でレスターが基本を大事にしたオーソドックスなサッカーでトップを走っている。選手は余計なことをせず、与えられた役割を全うする。4-4-2を守ってハードワークするところはいかにもイングランド的だ。そのチームを率いているのがイタリア人監督というところが面白い(約束事を細かく決めるのはイタリア的だが)。

考えてみると、ファーガソン監督が率いた黄金期のマンチェスターUもオーソドックスなサッカーを貫いた。やはりイングランドにはこういうサッカーが合っているのかもしれないと、関係者は思い始めているのではないか。レスターの躍進は「何でもかんでも海外のものを取り入れればいいわけではない」と問題提起しているような気がしてくる。

(元J1仙台監督)

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