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岡崎は日本サッカー史最高のストライカー

2018年にロシアで行われるサッカー・ワールドカップ(W杯)のアジア2次予選が終了した。日本は7勝1分けの無敗・無失点でE組を首位でクリア、9月から1年がかりで行われるアジア最終予選に進んだ。2次予選最後の2連戦は埼玉スタジアムで行われたが、そこでひときわ大きな輝きを放ったのがFWの岡崎(レスター)だった。

真ん中からの攻めが怖さ増す

3月24日はアフガニスタン、29日はシリアにともに日本は5-0で大勝した。私が面白いと思ったのはアフガニスタン戦だった。岡崎と金崎(鹿島)が2トップを組み、トップ下に清武(ハノーバー)を置いて、真ん中からの攻めが怖さを増したことでサイド攻撃がより生きた好印象を持った。

アフガニスタンとの力の差を相当割り引いて考える必要はあるが、両サイドバックの長友(インテル・ミラノ)と酒井宏(ハノーバー)が高い位置を取り、ダイヤモンド型の中盤の両サイド、柏木(浦和)と原口(ヘルタ)と連携することでセカンドボールもよく拾えた。それが絶え間ない攻めを可能にした。

中でも岡崎は貴重な先制点を決めて大勝の口火を切った。日本が圧倒的に押し込むことでアフガン戦は相手陣内にGK東口(G大阪)を除く21人の選手がひしめく状況になったが、狭いエリアの中でもパスを引き出せる岡崎はまったくそれを苦にしなかった。最前線から下りてきてくさびのパスを受けることも、アフガンのCBと駆け引きしながら裏に飛び出すことも自由自在。岡崎のそういう動きに幻惑され、守る側は最終ラインにギャップをつくる羽目に陥っていた。

岡崎がギャップをつくれば、そこを突く抜け目の無さが金崎にはある。逆も同様で、しかもトップ下の清武にはすかさず穴をスルーパスで突ける才があった。岡崎のアクションが引き出す相手のリアクションをうまく突けたのは、このトリオならではだったろう。

続くシリア戦で岡崎は代表通算100試合出場を達成した。152試合の遠藤(G大阪)を頂点に122試合の井原(現福岡監督)、116試合の川口(SC相模原)、110試合の中沢(横浜M)に続き、FWとしては史上初の快挙。先達の4人はボランチにDF、GKと後ろ目のポジションばかり。岡崎のように攻撃に守備に労を惜しまず精勤した上に48得点も積み上げて100試合の大台に乗せたのは本当に立派なことである。

率直にいって、岡崎のことはお世辞にもうまい選手とはいえない。彼がここまでの選手になれたのはメンタリティーの強さのたまものだろう。ターンにしても動きの切れにしても、点を取るために必要なものをずっと緻密に追い続けてきた。考え、工夫し、実践し、得られた結果を検証し、また改善に努力する。そういうサイクルを繰り返すことに飽きることがない。そういう心構えの結果だと思うのである。

すべてに余裕、次の動きも予想

今の岡崎は自信満々に見える。所属のレスターがイングランドのプレミアリーグで首位を独走し、奇跡の優勝に一歩ずつ近づいていることも手伝っているのだろう。

アフガン戦の先制点の際に見せた、清武の縦パスを引き取りながらの素早いターンと寄せてくるDFのまたの間を通してシュートに持っていった動きの滑らかさ……。すべてに余裕があるから相手の動きがよく見え、次に何をしてくるか予想もできてしまう。プレミアリーグの一流のDFたちの厳しいチャージやタックルに比べたら、大げさにいえば、アジアのDFの動きは止まって見えるくらいなのかもしれない。

もう一つ感心するのは反応の良さ、速さだ。無理がすごくきく。期待の宇佐美(G大阪)は「ここにボールが来たら」「ここにボールを置けたら」というツボがあり、そこにはまると確かに素晴らしいシュートを打てる。岡崎は違う。自分が期待するのと違うところにラストパスが来ても、シュートにまで持っていける。3月14日にレスターで決めたオーバーヘッドのゴールはその典型だろう。

もっともっと評価されてしかるべき

48得点という数字は09年1月20日のイエメン戦のゴールが出発点だ。得点の中にはアジアカップの栄冠やW杯への道を切り開くゴールもあった。どれほど日本がこの愚直なストライカーに救われてきたことか。勝負の世界は勝ち点がすべて、その勝ち点をもたらしてくれるのはゴール。そう考えれば、代表で48得点も積み上げてきた岡崎はもっともっと評価されてしかるべき選手である。

レスターや日本代表の岡崎を見て、日本人もサッカーや選手に対する考え方を改めたらどうかとも思う。サッカーはやっぱりFWだと。日本では、やれシステムがどうのこうの、パスワークがどうのこうの、という議論で盛り上がるが、もっと、どう点を取るか、シュートが打てるか、という最後のところにも目を向けたい。

実際、代表でプレーする欧州組を見ていると、岡崎のみならず本田(ACミラン)も香川(ドルトムント)も原口もゴールに対する貪欲さが国内組とはケタが違う。その落差を見るにつけ「努力に満足する二流と結果を求める一流」の違いを感じてしまう。前者は国内組に多く、欧州組は圧倒的に後者だ。

ゴールへの貪欲さだけではない。両者の差はボールが対戦相手に渡ったときにも如実に表れる。例えば本田。「危ない」と思うより先に一生懸命に自陣に戻って守備に入り、大丈夫だと思うと、すぐに頭を切り替えてハーフウエーラインめがけダッシュを始める。この往復運動を何度でも繰り返す。

それに比べて国内組にはところどころでお休みが入る選手がいる。明らかに戻って埋めなければならない危険なスペースがあるのに危機感に乏しく、野球のバッターボックスに入る感覚で攻撃のときだけ何かをすればいいと思っている選手が。平素の試合や練習のインテンシティー(緊張感の強度)の違いが生み出す格差といってしまえばそれまでだが。

内外格差、最終予選の不安材料の一つ

日本代表のハリルホジッチ監督は攻守に奮戦するレスターの岡崎よりも、もっとゴールに専心する岡崎を代表で見たいらしい。だが、みんなで前のめりになって勝てるほどアジア最終予選のレベルは低くない。欧州のトップレベルの戦いは守備のできない選手が3人いたらもう勝てない。守備をある程度免責できるのは2人が限度、それもアルゼンチンのメッシ級の選手であるという条件つきで。そのメッシですら自分のミスでボールを失ったときは必死になってボールを取り返しに走る。味方がマイボールにして自分の責任が消え去るまで。そのレベルの意識もない選手が国内組にはいる。この内外格差は最終予選の不安材料の一つである。

岡崎の献身的な攻守の切り替えの速さを見ていると、本当にこの選手は先々の絵が攻守ともに頭の中に描けていると思わされる。その頭の回転の速さがスピード感や強度を生み出しているのだと思う。マンチェスターのユナイテッドやシティーなどと五分で戦う中で研ぎ澄まされる感覚というものがあるのだろう。頭の中の回転速度が超高速になっていて、それがアジアで戦うときは余裕を生んで自信を持ってプレーさせる感じだ。

練習で岡崎よりうまい選手はいくらでもいる。技術を一つ一つ分けて評価すれば、スピードとかヘディングとかシュート力とか、岡崎よりすごい選手も何人もいる。才能で比べたら釜本邦茂さんの足元にも及ばない。それでも私は岡崎を日本サッカー史で最高のストライカーだと思っている。100試合で48点という得点率だけでなく、ボールのないところでのクオリティーが素晴らしく高いからだ。

常に前向きに何か新しいことに挑戦

ある意味、岡崎ほど自分の可能性を信じている選手もいない。常に前向きに何か新しいことに挑戦してないと落ち着かないのだろうか。生まれながらの性質なのか、育った環境がもたらしたものなのか。とにかく、満足したら終わりを地で行く男だ。

プロの世界で生きていく上でそれは「良い習慣」を身につけているということ。試合に出るか出られないかの危機感が常にある。おそらくそれは小学校から今にいたるまでずっとトップランナーではなかったことと関係があるのだろう。常にお山の大将で競争する習慣を持たない選手とは対照的なサッカー人生を歩んできた。試合に出られない、でもあきらめられないから頑張る。努力のための努力ではなく、結果を出すための努力を成長過程で繰り返してきた選手だけが持てる良い習慣。

レスターがこのままプレミアリーグで奇跡の優勝を遂げたら岡崎もさらに一回り大きな選手になるのだろう。そこからどう伸びていけるかで次の岡崎のステージが決まってくる。今でもプレーのスピード感が周りの選手と全然違うのだから、岡崎が身につける自信は当然、W杯アジア最終予選で日本の大きな武器になる。

できることなら「世界が岡崎を警戒する」というか、世界レベルで嫌がられる選手になってほしいもの。相手チームのミーティングで本田でも香川でもなく「まず岡崎」と注意が喚起されるような選手に。そういう選手が最前線にいてくれると他の選手のマークが緩むので戦略はもっといろいろと立てやすくなる。

「あきらめるな」というメッセージ

岡崎を褒めすぎたのかもしれない。彼を見ていると、日本代表でコーチ、選手として一緒に戦った中山雅史を思い出してしまうせいかもしれない。中山という男も常に挑戦する男であり、周りから見るとあきらめの悪い男だった。往生際の悪さは天下一品。中山がJリーグで初めてハットトリックをしたのは30歳になる3日前である。30歳を超えてからギネスブックに載るほどハットトリックを連発し、初めてW杯にも出た。中山や岡崎のような、あきらめの悪い選手は常識では計り知れないエネルギーを持っている。それゆえにどこまで行けるか誰にも分からない。おそらく本人にも。

次のロシアのW杯でも岡崎の代名詞であるダイビングヘッドやオーバーヘッドを見てみたいもの。存在自体が子供たちに「あきらめるな」という強烈なメッセージになっている岡崎のような選手には、とことん自分を燃やし尽くしてほしい。

(サッカー解説者)

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