空へ泳げ 筆躍る 手描きの鯉幟工房(ここに技あり)
堺市

2016/4/5 6:00
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5月5日は端午の節句。発祥の中国では古来、菖蒲(しょうぶ)を門に掛け、病のもとの邪気を追い払った。日本では鎌倉時代に入り、室内に兜(かぶと)や武者人形を飾り、男の子の成長を祝うようになった。江戸時代以降は庭先に鯉幟(こいのぼり)を立て、子の立身出世を願う風習も広がった。

「ぶんまわし」という手作りの道具を使い、目を描く

「ぶんまわし」という手作りの道具を使い、目を描く

堺市の「堺五月鯉幟 高儀(たかぎ)」は大阪府内で唯一、手描きの鯉幟をつくる工房だ。今や、国内販売される鯉幟は、ナイロンなど化学繊維に機械で印刷したものがほとんど。職人が刷毛(はけ)や筆で綿布に鯉を描いて製作するメーカーは、全国でも5社ほどしか残っていない。

■下絵なしの勝負

創業150年の高儀の5代目、高田為八さん(93)は今も現役で工房に立つ。「1本1本のヒゲにも手描きならではの勢いがある。機械ものとの違いは一目瞭然だ」と胸を張る。次男で6代目の武史さん(61)も「軽い化繊の鯉幟はパタパタとなびく。少し重い木綿の方が悠然とした泳ぎ方になる」とうなずく。

国産の真っ白な綿布に、秘伝の調合の顔料で鯉を描く。機械印刷で使う染料に比べ、顔料は耐水性や耐候性に優れ、色があせにくいという。刷毛は京都の専門店にしかつくれない特注品だ。下絵はなく、やり直しもきかないから、一筆一筆が真剣勝負。「祝い事に使うだけに、ほんのわずかな汚れが付いても商品にならない」(武史さん)

■「7代目」修業中

高儀の鯉幟は真鯉(まごい)の背中に金太郎が乗っているのが特徴。金太郎の足の人さし指が親指より長いのは「親より出世するようにとの思いを込めたから」(為八さん)。戦前は真鯉の長さが12メートルの商品もあったが、現在は9メートルが最大だ。生地をたっぷり使い、口元より胴回りを太くしているのは、風をはらみやすくするための工夫。安価な大量生産品では、筒状に設計してコストを抑える場合が多いという。

最近、孫娘の恵さん(31)が小物の製作を手伝うようになった。大学で日本画を学んだが、「家業に触れるうち、しっかり修業して鯉を描きたくなった」。将来の7代目の力強い言葉に、武史さんは目を細める。

文 堺支局長 小島基秀

写真 伊藤航

〈カメラマンひと言〉
 大きく広げた布の上。筆を勢いよく動かしたかと思えば静かに止まる。にじみやかすれのある線、生乾きの布に触れないよう背筋を伸ばした姿勢――。絵を描くというより書を書いているようだ。漂う緊張感も、書家の仕事場と錯覚させる雰囲気十分の現場だった。
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