列島が抱える矛盾 原発反対、値上げも反対
(あの時)
原発どこへ

大震災から5年を迎え、原子力発電に対する日本人の心理はなお揺れ動く。福島原発事故を受け放射線情報などの読み解きについて共著があるコピーライターの糸井重里氏は「安全か経済かの二者択一でなく『生きていく』という視点での長期戦略が必要だ」という。
糸井氏はウェブサイトなどで情報を発信し、被災地の宮城県気仙沼市を拠点に活動もしている。震災発生当時、東京にいた糸井氏。被害が大きく拡大する中で意識したのは「不安をあおらず、なるべくデータに則して情報発信する」だった。
原発を巡り日本人の心の葛藤を示すデータがある。時事通信が大震災から約1年後の12年4月に実施した世論調査によると、原発再稼働に57%が反対した一方、電気料金の引き上げにも70%が反対した。原発の再稼働には反発する一方で、行き過ぎた「脱原発」で石炭火力などへの依存度が高まり電力料金が上昇するのも困る、という板挟みの心理を示している。
糸井氏は「僕も含め多くの日本人は今でも原発との付き合い方に迷っている」とみる。「安全と経済のどちらを選択するのかという議論になりがちだが、経済も生きていくためにある」。原発は適切に制御すれば比較的廉価に大量の電力を供給できる利点がある。原発に背を向ければ日本経済に及ぼすダメージも深まりかねない。糸井氏は「将来的な廃炉を想定し、日本にいま必要な電力構成を考えるという長期視点が欠かせない」と説く。