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原発事故の健康影響、被曝より長期の避難生活がリスク

相馬市立中央病院内科医長に聞く

再生への闘い(3)

東京電力福島第1原子力発電所事故は周辺地域に生活する人々の健康にどのような影響を与えたのか。福島県の相馬市立中央病院で診療にあたる越智小枝医師(内科医長)は、放射線被曝(ひばく)による直接的な健康影響より、急な避難や長期の仮設住宅での避難生活が健康にもたらすリスクの方が大きかったとみる。

――相馬市などに住む住民の健康影響を語る上で何が課題か。

「ここに暮らす人々の視点が欠けがちだ。放射能汚染でがんの発生が何%増えるとかの議論があるが、暮らすと決めた人にとってどんな情報が必要なのか考えたい。その点でいくつかの自治体で実施されてきたホールボディーカウンター(内部被曝を測る装置)やガラスバッジ(外部被曝を記録する装置)で個々人の被曝量を測って、本人に情報をフィードバックする試みは意味がある。被曝を見いだすのが大事ではなく、測りに来た人たちと医師が話をする機会をもつのが何より大事だと感じてきた」

「福島から遠くに住む人たちにあまり知られていないのは、安全性を高めるための避難が危険性を高めたという事実だ。十分に準備をしないで避難したために高齢者に大きな精神的・身体的ストレスを与え、健康を損なわれた方がいた」

「避難の前は高齢の人々も農作業や家事を担って日ごろから体を動かし地元で採れた野菜などを口にしていた。避難後は仮設住宅で運動不足になり食生活が変化して糖尿病や骨粗しょう症など慢性病を患う方が増えた。5年が過ぎると、すでに健康を崩された方は施設に入り、今は丈夫な人が仮設住宅で暮らしているというのが現実だ」

――福島県や県内の病院が実施してきたホールボディーカウンターの検査結果などをみると住民の内部被曝はほとんどない。

「放射能以外の健康被害がむしろ深刻だと、地域に住む人々は体感している。放射能が怖いという気持ちが消えることはないが、野菜をしっかり食べ運動習慣をつけるなど健康意識の高まりは感じられる。ただ私自身は安心だと思っていても、心配する人を置き去りにして安心が先行するのは避けたい。心配事を抱えた患者さんたちから相談を受ける臨床の現場と、客観的な数値に基づく科学との間では常に葛藤がある。健康影響に関して医師の見方も分かれている。私は事故直後のいちばんひどい状況をみていないよそ者だから、そのことに負い目もあると同時に、よそ者だから言える部分もある」

――今の病院の状況はどうですか。

「相馬、双葉地域では医師数が一時は3割くらい減ったが、次第に戻りつつある。看護師やパラメディカル、医療事務を担う人々も減って、こちらはなかなか元には戻りそうにない。こうした仕事を担うのは8~9割が女性だ。子どもへの配慮や夫の仕事がなくなり転居するなどの事情がある」

(聞き手は編集委員 滝順一)

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