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原発事故5年、賠償巡り住民分断 同じ町で異なる救済

2016/3/2 3:30
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 東京電力福島第1原子力発電所事故を巡る損害賠償問題は今も着地点を見通せない。避難生活が続く被災者側は賠償金の上乗せや格差是正を求めているが、賠償額の膨張を懸念する東電は慎重な姿勢を崩さず、両者の溝は依然として深い。暮らしの先行きに不安を募らせる被災者による訴訟の動きも広がっている。

避難指示は解除されたが、仮設商店街の買い物客はまばら(2月16日、福島県楢葉町)

避難指示は解除されたが、仮設商店街の買い物客はまばら(2月16日、福島県楢葉町)

2月17日、福島地裁いわき支部の第1号法廷。昨年9月に避難指示が解除された福島県楢葉町から今なお避難を続ける男性(73)の声が響いた。「(自宅周辺の)山は除染されておらず、生活は無理。孫は(仮設住宅がある)いわき市にも来ない」

避難者586人が総額278億円の支払いを東電に求めた訴訟の口頭弁論。高齢者が仮設住宅に取り残されている現状を語った同県浪江町の女性(79)は退廷後、「きちんと実情を訴えたかった」と心境を吐露した。

損害賠償訴訟は全国に広がっている。国や東電を相手取って15地裁・地裁支部に提訴した各地の原告団は2月13日に全国連絡会の結成集会を開いた。東電への直接請求や、国の原子力損害賠償紛争解決センターの裁判外紛争解決手続き(ADR)では打開できない実態が浮かび上がる。

避難指示区域内の浪江町が町民約1万5000人の代理人となって申し立てたADRも行き詰まっている。東電が避難者に支払う精神的損害への賠償金である慰謝料(1人当たり月額10万円)に一律25万円を上積みするよう求めた同町は、センターが示した5万円の和解案に同意したが、東電は拒否した。

■一律増額、東電は慎重

「個々人の具体的な事情に応じて増額を検討したい」。東電は一律の増額を受け入れれば、同様の事態が他地域にも波及しかねないことに神経をとがらせている。

同町が一律増額を求めるのは、東電が避難指示区域のうち放射線量が最も高い「帰還困難区域」のみに1人当たり700万円の一時金を支払い、町内には格差に対する不公平感が生じているためだ。同町は「放射線という見えないリスクの線引きで住民の分断を引き起こす原発災害の現実を訴えたい」(産業・賠償対策課)という。

避難指示区域に指定されている商店街(昨年12月20日、福島県富岡町)

避難指示区域に指定されている商店街(昨年12月20日、福島県富岡町)

土地・建物や家財などへの損害賠償は慰謝料以上に千差万別だ。福島県飯舘村から避難している農家の60歳代男性の場合、築4年の自宅への賠償額(一時金)は700万円ほどで、仏壇や農機具などは250万円程度。「住宅ローンは完済できた」という。

避難指示区域に指定され、人影のない同県富岡町に商店を構える60歳代男性は店舗の土地・建物への賠償などで「1億5000万円を受け取り、4000万円の借金を返済できた」と打ち明ける。ただ、「避難指示が解除されても住民は元に戻らないだろう。店は畳むしかない」とこぼす。

国は2017年3月までに、避難指示区域のうち「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」で避難指示を解除する方針。これらの区域では18年4月に慰謝料が打ち切られる見通しだ。土地・建物への賠償金で住宅ローンなどの負担は軽減できても、住み替えなど新たなコストが生じる世帯もある。避難者には慰謝料打ち切り後の不安が募る。

避難指示区域外から自主的に避難している被災者への賠償も大きな課題だ。2月18日には京都地裁が福島県から京都市内に自主避難した家族について、東電に賠償額の大幅な増額を命じる判決を下すなど、一定の司法判断が示され始めている。

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