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独サッカーでヘルタ躍進 粘りの監督、独特の存在感

スポーツライター 木崎伸也

目を引く戦術があるわけではない。世界的なスターもいない。だが39歳のパル・ダルダイ監督率いるヘルタ・ベルリンは、サッカーのドイツ1部リーグで3位(2月29日現在)につけている。

今年1月のウインターブレーク明けからは5試合勝利がなかったものの、それでも4分け1敗としぶとく勝ち点を積み重ね、6試合目のケルン戦(2月26日)で勝利をあげた。ドイツ杯でも準決勝に勝ち上がっており、4月20日にドルトムントに勝利すれば、地元ベルリンで開催される決勝に進出できる。もはやヘルタの躍進は偶然とはいえない。

やることがシンプル、戦術に柔軟さ

昨年2月、ダルダイ監督が就任したとき、ヘルタは17位に沈んでいたのだ。このハンガリー人監督は、どうやってチームを生まれ変わらせたのだろう? 今回は3つのポイントに注目したい。

1つ目は「戦術の柔軟さ」だ。

日本代表の原口元気は、ダルダイ監督の下でレギュラーの座をつかみ、躍進に貢献している一人だ。ヘルタの練習場で質問すると、原口は好調の要因をこう答えた。

「攻撃も守備もある程度決まっているというか、やることがシンプルなので、それをうまく表現できているかなと思う。つなぐときはつなぐし、守るときは守って1対0で勝つ力がある。ひと言で言えば、相手によって攻め方も守り方も変えるということ。すごく相手を分析していて、具体的な指示を出してくれる監督です」

相手によってやり方を変える――。戦術的なフレキシビリティーはダルダイ監督の特徴の一つだ。

前半の途中でヘルタが先制したとしよう。すると監督は、後半からガラリとやり方を変えて守備を固め、自分たちがボールを持ってものらりくらりと後方でパスを回して時計の針が進むのを待つ。決してエキサイティングな展開にはならないが、終了のホイッスルが鳴ったときに歓喜を味わうのはダルダイのチームだ。

「監督が『今から守るぞ』とは言わないが、意図的にそういう交代をするので、今から守るんだなとわかる」

スカウティングの力で正しい戦術選択

そういう戦術の柔軟さを支えているのが、優れたスカウティング能力だ。たとえば16節のダルムシュタット戦では、「相手はロングボールを放り込み、偶然に頼るサッカーをする」と分析。意図的に混乱状態をつくって、フィジカル勝負に持ち込むやり方である。

これに対してダルダイ監督が用意したのは「あえて前線から激しくプレスをかける」という戦術だった。いつもならば低い位置に構えてカウンターを狙うところを、トップ下に守備的MFのダリダを起用してガツガツ前から圧力をかけたのである。ヘルタは完全に試合を支配し、4-0で勝利することができた。

ダルダイ監督は独ターゲスシュピーゲル紙のインタビューでこう説明した。「試合までの1週間、コーチたちと徹底的に相手を分析し、どんな戦術を採用するかを考えるんだ。ダルムシュタット戦では試合前日に敵地に移動するまで決まらなかったが、ついに夜に策を思いついた。正しい戦術を選ぶことがものすごく大事だ」

ダルダイはヘルタで14年間プレーしたレジェンドだが、指導者としてはヘルタU-15(15歳以下)の監督にすぎなかった。2014年に突然ハンガリー代表監督を任されたが、あくまで暫定監督だ。トップリーグの指導経験はゼロだったのである。

だが、ダルダイ監督にとって経験の少なさはあまり問題にならない。なぜなら「スタッフの力を借りるのがうまい」からだ。それが2つ目の特徴だ。

「ダルダイの頭脳」と名トレーナー

分析をするうえで最も頼りにしているのが、コーチのライナー・ヴィドマイヤー(48歳)だ。もともとは独ダイムラー・ベンツ社の技術者だったが、鬼軍曹で知られるマガト監督にスカウトされて指導者の道に進んだ。これまでコーチとしてシュツットガルト、ヘルタ、ホッフェンハイムを渡り歩き、その過程でダルダイと知り合い、戦術眼を見込まれていた。あらゆる戦術に通じており、今では地元紙から「ダルダイの頭脳」と呼ばれている。

ケルン戦の後半、シュートを放つ原口(左)=共同

また、フィジカル強化で重要な役割を担っているのがヘンリク・クヒーノ(41歳)だ。

もともとクヒーノはヘルタの名トレーナーとして、ダルダイら選手たちに愛されていた。だが、12年にオランダ人のルフカイ監督が就任すると冷遇され、翌夏にシャルケへ旅立っていた。ダルダイ監督は今季を迎えるにあたって、このトレーナーの力が必要と考え、シャルケとの契約を解消させて連れ戻したのである。アイデアが豊富でバイアスロンや丸太投げを取り入れ、選手を飽きさせずに限界まで追い込むことができる。

原口は言う。「チームメートたちは、今季シャルケから来たトレーナーがすごく走らせると冗談交じりに愚痴を言っているが、チームとして走力が上がっているのを感じる。個人的にもそこは昨年から意識して取り組んでいるところ。僕のポジションでは、守備をしてから前に出て行くときに走力が必要になるから。かなり鍛えられています」

DFのルステンベルガーが「70分を過ぎたときに違いを実感する」と言うように、ヘルタの粘り強さは大きな武器になっている。

限界まで駆り立てる厳しい生存競争

そして3つ目は、競争原理の植え付けだ。ダルダイ監督はこんな哲学を持っている。「ロッカールームの空気が良くなれば、おのずとチームがまとまり、それが勝利をもたらす。大事なのはチームに正しい競争があることだ。競争で戦えないヤツに用はない」

ダルダイ監督は選手と距離が近い兄貴分タイプに見えるが、冷徹な一面を持っている。見切りをつけた選手を徹底的に干すのだ。その犠牲者になったのが細貝萌だった。ルフカイ前監督の下では完全な主力だったが、ダルダイにバトンが渡った瞬間、紅白戦のメンバーにも入れてもらえない日が出てきた。細貝はトルコのブルサスポルへの移籍を余儀なくされた。

こういう経緯があったため、原口は「最初は疑問だった」と振り返る。だが一部の選手が理不尽な扱いを受けることで、他の選手に危機感が芽生えるのは事実だった。原口は続ける。「結果を出した人を使うという意味で、すごくはっきりした監督です」

厳しい生存競争が、チームを限界まで駆り立てている。

柔軟な戦術、優秀なスタッフとの協力体制、競争原理――。派手な戦術でドイツ人の若手指揮官が頭角を現す中、ダルダイは外国人監督らしい粘り強くしぶといやり方で独特の存在感を示している。

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