投手と打者、オーラが勝負を決する
宮崎での2軍キャンプは指導者として初めて経験することばかり。「選手たちをどうしたら伸ばせるだろう」と模索する日々ですが、たまたま2軍スタートとなったT―岡田選手と話をしていて、ベテランも若手も関係なく、勝負師として必要なものがあることを思い出しました。それは「オーラ」です。

■センス抜群のT―岡田に足りぬもの
左アキレスけん痛の影響もあり、主力級のT―岡田選手はこのキャンプは2軍からの調整となりました。
私は現役時代、オフシーズンには神戸で自主トレーニングをしており、彼をルーキーの頃から見ています。打撃センスに関しては元から何も言うことがありません。大打者への階段を歩むにあたって、足りないものがあるとすれば、それは「自分を持つ」こと。それだけなんです。それさえできれば、上でしっかりとした結果が残る選手だと考えています。
だから、キャンプ2日目にグラウンドで「いつも受け身だから『1軍に上げろ』と自分から言ってこいよ」という話をしました。結果が伴うことはもちろん必要ですが、彼には結果を出すための姿勢がもっと必要だと思いました。自分から行動を起こしてもらいたいから「口に出せ。そうすれば、人間はそこに向かって動き出す」と伝えたのです。
優しくて、人に気を使える。そういう彼の性格は、人間としてすごく良い部分です。ただ、野球選手は勝負師として、相手と1対1でやり合わないといけません。それに必要なのが「オーラ」です。
グラウンドから一歩外に出たとき、オーラなどなくてもOKです。しかし、いざ打席に立つとなったら、瞬間的にオーラが出てこなければなりません。
マウンドからの18.44メートルの間には、打者と投手、捕手の3人だけが醸し出す空気があります。打者はその空気をどうやって制圧するかを考えないといけないのです。それは立った瞬間に決まります。
どんなにちっちゃいバッターでも、ガッと構えたときにオーラが出るのです。そこで勝負が半ば決まってしまうといってもいいでしょう。体の大きい、小さいとか、調子の良しあしは関係なく、そこが野球の面白さです。オーラが出るか出ないかという、一瞬の「間」が日本人にはぴったり合うから、野球は面白いと言ってくださる方が多いのだと、私は思っています。
■オーラ身につけさせるのが我が仕事
「この選手は何を考えているんだろう」「こっちのほうが打ちそうだな」「いや、ピッチャーが抑えそうだな」とか。球場に来た方にも、その雰囲気はわかるとおもうのです。もちろんそこが選手としても肝心なところで、T-岡田選手にも、今まで以上のオーラを出してほしいと思ったわけです。
彼は順調にメニューをこなし、16日、1軍に合流しました。そこでうれしい話が伝わってきました。合流して即「35本塁打、100打点」と、今季の目標を福良淳一監督に伝えたというのです。
昇格を前に私は「監督に対して目標を口に出せ。そこに向かってぶれるな」と念を押していました。「オープン戦でもレギュラーシーズンでも日本シリーズでも、試合に出続けなきゃあかん。使われなかったら監督のところへ行って『俺を出せ』と言え」とも付け加えました。
そのぐらいの勢いがなければ、シーズンを通して主力で戦うのは無理です。そういう覚悟からオーラも生まれてくるわけで、T-岡田選手の今季がますます楽しみになってきました。
今季プロへの第一歩を踏み出す新人を含む、2軍の面々も当然、オーラが必要です。私の仕事はいかにそれを身につけてもらうか、ということに尽きるような気がします。

選手がオーラを身につけ、2軍からはい上がっていくには、当然ながら厳しさも必要でしょう。1、2軍の「格差」も選手に悔しさを植え付ける材料になるかもしれません。
■もっとギラギラと思っていたが…
オリックスは今春から1軍、2軍とも宮崎市清武町の隣り合った球場でキャンプを張っています。選手が自由に行き来できる環境は何かと便利ですが、選手にとってはいやが応でも「違い」を実感する仕掛けになるかもしれません。
例えば1、2軍の対外試合が重なる日があります。このとき、起こりうることの一つが、1軍戦に出場して自分の打撃に納得できなかった選手が、2軍戦に移動して「俺に打席をくれ」といって打ち直すことです。
アピールできる機会を1打席でも2打席でも奪われたら、2軍の選手はつらいところです。しかし、チーム全体の目標はあくまで1軍が優勝することです。そのために2軍が犠牲になるのは仕方ないことだと、私は思っています。1軍戦でも2軍戦でも上の選手の調整が優先されていいと思うし、競争社会では当然のことなのです。
押し出されて出場の機会を失う選手からすれば「何なんだ」となるでしょうが、置かれた環境に不満があるのなら「上にはい上がれ」という話になるわけです。
2軍に足を運んでくれる関係者の皆さんは「(雰囲気が)明るくなった」と言ってくれます。選手たちも明るくやってくれています。元気があるのは喜ばしいことですが、一方で悲壮感はあまり感じません。
キャンプはもっとギラギラしてやるものだと思っていたので「こんなものなのかな」と戸惑う部分でもありますが、時代が違うのですから、それでもいいでしょう。
みんな練習量は多いし、取り組む姿勢もまじめです。ただ、戦力として1軍に定着するためには、それだけでは不十分です。きっちりと自己を確立し、相手と勝負する強い気持ちを植え付けるにはどうしたらよいか。そんな課題と向き合う毎日です。
(オリックス・バファローズ2軍監督)