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[FT]大学経営は市場主義にそぐわない

高い評価を得ている大学の世界ランキングで、上位10校のうち4校は英国の大学だ。上位20校なら5校、上位50校なら10校がそうだ。これは英クアクアレリ・シモンズ(QS)の世界大学ランキングによる数字だが、ほかのランキングでも同様だ。米国は、規模と豊かさで英国を圧倒するにもかかわらず、上位10校のうち5校、上位50校のうち18校を占めるにとどまる。欧州大陸の大学は上位10校に入っておらず、上位50校においても4校しかない。高等教育の分野では、英国は超大国なのだ。

だとすれば英国政府は改革に慎重に取り組むと思えるが、それは正しくない。英ビジネス・イノベーション・技能省が昨年末に公表した政策提案書「Fulfilling our Potential(潜在能力を開花させる)」には、大胆な新計画が盛り込まれている。その中心にある考え方は、「このセクターに質の高い業者を新規参入させ、これまでよりも激しい競争を促す」ことにある。この計画が実行されれば、民間企業を含む新規参入者はたやすく「大学」になることができ、学位も授与できる。参入もできれば退出もできる。政府は学生ローンを組める人数の制限も撤廃した。だが、こうしたローンを組む学生の学力には条件をまったく設けていない。

ここで問題になるのは、高等教育をビジネスとしてとらえることが理にかなっているかどうかだ。政府はいろいろな問題を認識しているが、それらを過小評価している。

大学というところは、そもそもの成り立ちはもとより、今日においても特殊な機関だ。ここは教師と学者の共同体であり、その目的は、物事の理解を深めてそれを世代から世代へと伝えていくことだ。大学は我々の文明の栄光だ。企業ではなく、訓練校でもない。こうした点について、政策提案書はほとんど分かっていないように見受けられる。ラベルを粗末に扱うことは大した問題ではないかもしれないが、大学の役割を認識していないことは大きな問題だ。

悪徳業者のインセンティブは高くなる

当座の懸念は、競争的な市場になる条件が整っているのか、という点だ。高等教育は長い間、特殊な機関が提供してきた。それにはもっともな理由があった。まず、その定義上、学生は自分が何を購入しているのか理解できない。理解できないからこそ学びに来ているのだ。そこで得るものの価値が明らかになるのは、恐らく何年も先になる。ゆえに学生は評判に頼る。だから学生たちは、大学という機関は自らの評判を気にかけていると考えているに違いない。大学において、その歴史の長さが非常に重要であるのはそのためだ。

また、高等教育のように複雑な活動に対する外部の規制は、利益相反を相殺するのに苦労するのが常だ。高等教育の場合、政府は大学に学費を払い、それを学生へのローンとする。返済の条件は所得に応じて決める。所得が少なければ少ないほど、その学生の返済額も少なくなる仕組みだ。

この結果、学生の観点から見れば、留年のリスクには(適切にも)上限が設けられることになる。ただその一方で、悪徳業者にとって商機も生まれる。学生が留年してもしなくても、政府は学費を負担する。学生が留年すれば、その損失は納税者が負担する。入学者に最低限の学力を求める厳しい基準が存在しない、あるいはローンを組める学生の数に上限がない場合は特に、悪徳業者には学生数を最大化するインセンティブ(誘因)が強く働く。その結果がどうなろうとお構いなしだ。

多くの学生は不十分な情報しか持たないことになるだろう。十分理解していれば、学生は自分の背負うコストが限定されていると知って気持ちが楽になるのに、だ。政策提案書はこの問題について、「リスクベースの」規制をかけることが答えになるとしているが、そのようなリスクを適切に認識できるのかどうかは疑わしい。

納税者のリスクは大きい

納税者にとってのリスクは、かなり大きいはずだ。欧州連合(EU)諸国から来る学生も同じ条件でローンを組む資格があることを覚えておいた方がいい。だが、こうした学生にローンを返済させるのは難しい。だから彼らは悪徳業者にとって格好の餌食になる。また、ジョー・ジョンソン高等教育担当大臣が指摘しているように「大卒者の所得ギャップは縮小しており、大卒者のかなりの数が学位の不要な仕事に就いている」ことも覚えておいた方がいい。これは間違いなく、周縁部で、学生と大学の課程の双方の質が既に低下しているという事実を反映しているはずだ。納税者の費用負担で営利の高等教育提供を無制限に広げることが、なぜこの状況を是正するのだろうか。それはあり得ないように思える。

比較的容易に業者を(市場から)退出させることが可能だとする政府の主張も、やはり信じ難い。そのような退出・撤退は必ず、当該業者が過去に与えた学位を持つ罪なき人に被害を及ぼす。永続性というものは、成功する高等教育機関に欠かせない特徴だ。

特に高等教育にかかる期待の結果として、同セクターが多くの課題に直面していることを否定しているわけではない。だが、金融規制緩和の経験は、たとえ外部の規制の対象であったとしても、リスクを取るビジネスに対する納税者の補助金が、無知な顧客にとってリスクになることを浮き彫りにした。政府の支援を受けていつつも市場志向型の高等教育システムは、悪用されやすい。政府は規制がリスクを管理してくれることを期待している。過去の経験は、政府が失望する可能性が高いことを示唆している。

By Martin Wolf

(2016年2月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(翻訳協力 JBpress)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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