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五輪後の新国立、稼げる施設に まず大胆な決断を

編集委員 北川和徳

2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の大会後の運営管理を検討する、関係省庁によるワーキングチームの初会合が今月10日、文部科学省で開かれた。約1500億円を投じて整備する新国立を、ビッグイベントの後も有効活用して収益を上げる施設にするのが最大の検討課題。初会合では資料として国内の主要スタジアムの運営状況なども披露された。それを見るとほとんどのスタジアム施設の収支は赤字続き。新国立の黒字運営も生半可な取り組みでは実現できないことが改めて分かる。

02年サッカーW杯会場の14年度の利用状況
スタジアム名所在地稼働日数収入(億円)支出(億円)
札幌ドーム札幌市13437.232.3
ひとめぼれスタジアム宮城宮城県利府町1193.4
カシマサッカースタジアム茨城県鹿嶋市762.42.9
埼玉スタジアムさいたま市525.98.8
日産スタジアム横浜市782.37.5
デンカビッグスワンスタジアム新潟市811.23.1
エコパスタジアム静岡県袋井市1422.28.1
ヤンマースタジアム長居大阪市108
ノエビアスタジアム神戸神戸市926.1
大分銀行ドーム大分市790.13.8

02年サッカー・ワールドカップ(W杯)の舞台となった10会場。14年度の収支がプラスなのは札幌ドーム(札幌市)だけだ。同ドームの年間収入は37億2000万円とこの中では群を抜いている。プロ野球の日本ハムファイターズが本拠地としていることが大きい。Jリーグのコンサドーレ札幌のホームでもあり、スポーツ以外の催しであるコンサートでも14年度は10日間の使用で約46万人を集めている。

札幌ドームでは「札幌モーターショー」も開催された(1月22日)=共同

大半の施設、年間収入が10億円未満

W杯会場となった各施設を建設し、所有するのはいずれも自治体。現在ではどこも運営を指定管理者に委託して民間のノウハウを活用している。とはいえ、実際は半官半民で官に頼った運営にとどまっている。札幌以外の9スタジアムはすべてランニングコストなどの支出が収入を上回り、自治体が負担する指定管理料によって赤字を埋めている。それぞれJリーグクラブがホーム、または準ホームとしているが、1チームの試合数が少ないサッカーだけでは、とても帳尻はあわない。

そもそも、札幌以外では年間収入が10億円を超える施設がない。収支のマイナスが最も大きいのは、エコパスタジアム(静岡県袋井市)、続いてひとめぼれスタジアム宮城(宮城県利府町)。この2施設には共通点がある。交通アクセスの不利や採算面からJクラブの準ホームにとどまり、陸上競技などの使用が中心になっていること、スタジアムを含む運動公園全体を運営する必要があることだ。一方で稼働日数はエコパがトップで年間142日、ひとめぼれも同119日で札幌ドームに続いて3位となっている。利用料が格安となる入場無料の地域のイベントなどによく使われているようだ。ビジネス利用を考えず、利便性よりも公共性を重視して建設された国内スポーツ施設の典型といえる。

建設費が当初予定の2倍以上に膨れあがったことで計画が白紙見直しとなった新国立も、当初の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)による管理運営という方針を見直し、20年大会後は民間事業として黒字化を目指す方向が固まっている。全天候対応を可能とする開閉式屋根の設置を見送ったこともあり、機能面では赤字が続く国内のW杯スタジアムと目立った差異のない平凡な施設となった。これでは民間が運営に手を挙げないのではと、心配する意見もある。

杞憂(きゆう)だと思う。

利便性と周辺人口で圧倒的に有利

新国立は他の国内のスタジアムと比べて圧倒的なアドバンテージを持つ。利便性と周辺人口だ。世界有数の都市のど真ん中にある緑豊かな環境に建つ。JR、地下鉄の複数の駅から徒歩でアクセスが可能で、新宿や渋谷というターミナル駅からも近い。国内で対抗できる立地条件を持つ巨大スポーツ施設は約5キロ離れた位置にある東京ドームしか思い浮かばない。以前のこのコラムでも触れたが、東京ドームを中心にホテル、遊園地、スパ施設などを展開する株式会社東京ドームの売り上げは年間800億円を超える。

新国立競技場は世界有数の都市のど真ん中にある緑豊かな環境に建つ(技術提案書よりJSC提供)=共同

世界的にみても、新国立よりも利便性が高いスタジアムはほとんどない。隣接する神宮球場や秩父宮ラグビー場の建て替えを含めた神宮外苑の再開発計画も存在する。こうしたスポーツ施設の集積は都市の郊外では珍しくはないが、東京の中心という立地を考えたら意味はまったく違ってくる。将来、あの場所に緑豊かな環境を生かしながら、スタジアムやボールパーク、ホテルやショッピングモールが集積したにぎわいの空間が出現するとしたら……。中核は五輪の記憶に彩られたスタジアム。公共施設としての制約の少ないビジネスベースでの運用が許されるなら、大きな価値を見いだして投資する企業は必ずあるだろう。

だが、新国立の後利用についての政府のスタンスは、どうにも中途半端な印象を受ける。例えば、Jリーグやプロ野球のチームの本拠地となる可否について。W杯会場となったスタジアムの現状からみても、収益を上げる施設にするには、観客動員力のあるプロチームの試合をより多く開催することが絶対条件だ。ところが、旧計画の段階から「新国立は(サッカー、ラグビーなど)日本代表の本拠地にはできても、特定のプロチームはできない」が大前提。その方針は新たな計画になっても変わった様子がない。

公共性と商業利用のはざまで揺れる

陸上競技場としても使い続けるかについては、すでに結論が出ている。昨年8月に新たに策定した新整備計画で、陸上の大会開催に不可欠なサブトラックの常設を断念し、サッカーのW杯招致を目指す場合はメーントラックの上に観客席を増設する方針を明示した。サブトラックがなければ、どんなに立派なメーントラックとスタンドがあっても陸上の公認大会は開催できない。だが、20年以降のどの時期にメーントラックを撤去して球技専用スタジアムとするかは未定のままだ。

もちろんそれをワーキングチームで検討するのだろうが、のんびりしすぎではないか。本気で新国立を稼げるスタジアムにするつもりなら、すでに五輪後の施設の概要を固めて、10年先ぐらいまでのイベント招致に動き出していてもおかしくない。

結局、最初に下すべき根本的な決断がされていないのだと思う。巨額の公金で整備した施設を民間のビジネスに丸投げすることは妥当なのか。国民の理解は得られるのか。公共性と商業利用のはざまで今も揺れている。ワーキングチームでやることは、まずはその問いへの解答を用意することだろう。

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