ナウいぜ! レトロゲーム 21年ぶりファミコンに新作

昔のソフトが遊べる互換機/ファミコン模したゲームカセット…
1本数百円から、数万円のレアなゲームまで扱うスーパーポテト秋葉原店(東京・千代田)。あるカセットの裏を見ると「よしだ」と元の持ち主の名前が書いてあった。42歳の記者もファミコン第1世代。分かるぞこの気持ち。借りて返さないやつとかいたもんなあ。

店頭では意外に若者が多い。「任天堂のゲーム機はぜんぶ持ってます。友達にはなんで? と聞かれるけど、制約があるなかで作り込まれてるのがいいんです」(河村拓哉さん、20)。「クリスマスに彼の実家にあったスーパーファミコンをもらいました。私には最近のゲームは難しいから、昔のマリオで遊ぼうって」(渥美千紘さん、29)
同店はここ3年、売上高が5%ほど伸び続け過去最高を更新している。「ゲームの攻略動画でファン層が広がっていますね」と北林洋平店長。その先駆けが芸人、よゐこの有野晋哉さんが10年以上続けるレトロゲーム番組「ゲームセンターCX」だ。CXでの紹介後、価格が7倍ほどに高騰したゲームもある。

ついにはレトロ風の新作も登場している。1月初旬、なんと21年ぶりのファミコンカセットが、アマゾンのゲーム部門で人気度1位に躍り出た。この「8BIT MUSIC POWER」(希望小売価格約4000円)は音楽アルバムで、ファミコンに差すと動画と楽曲が流れる。音質は懐かしいが、ダンス調など曲のレベルはファミコンとは思えない。
制作したイラストレーター・漫画家のRIKIさんは、ゲーム好きが高じ「ゼビウス」「迷宮組曲」など伝説的なゲームの作曲家ら11人に新曲を依頼した。「プログラミング言語は超低級、容量は1メガもない」カセットの限界にあえて挑み、ファンの心をつかんだ。
今春にはスマートフォン(スマホ)用のカセットも登場する。サイバーエージェント傘下のシロク(東京・渋谷)が開発中の「ピコカセット」。親指ほどの大きさで、イヤホンジャックに差すとゲームが楽しめる。
まずファミコンなどのゲーム5本を2000円前後で発売する計画。スマホならアプリのダウンロードが普通だが、あえてカセットを選んだ。「友達との貸し借りとか、酒のつまみになるほど楽しい思い出ですよね」(石山貴広取締役)
実はレトロゲームの多くは、任天堂などの配信サービスで最新のゲーム機でも遊べる。それでも昔のカセットの手触りを求めるファンは多い。

ファミコン、PCエンジン、メガドライブ…。昨年10月にサイバーガジェット(東京・千代田)が発売した「レトロフリーク」(同2万5000円弱)は、11機種もの古いゲーム機のソフトを1台で遊べる。家電量販店などで軒並み予約分が完売するヒットとなった。
一度差したカセットのゲームは本体のSDカードに記録でき「市販された全てのファミコンゲームが余裕で入る」(同社)。ボタン連射や好きな場面でのセーブ機能も搭載。購入した埼玉県の会社員(35)は「段ボールに保存していたカセット103本を引っ張り出しました」
レトロフリークなどは「互換機」と呼ばれ、特許権が切れた古いゲーム機のソフトに対応する。かつて「マジコン」という、ソフトをネットから不正入手できる機体が問題になったが「互換機は正規のカセットを使う点で根本的に違う」(知財に詳しい大江耕治弁護士)。レトロフリークはゲームを記録したSDカードを転売しようとしても、別の本体では動かない設計にしている。

東京・高田馬場の夜8時。ゲームセンター「ミカド」に23人の猛者が集まり、20年前の格闘ゲーム「ストリートファイターZERO2」の大会が始まった。「おお、かわしてからの波動拳!」。池田稔代表の実況を交えてネット中継する。
ミカドのゲームは大半が1980~90年代。3年ほど前から大会の連日中継を始め、客数は平日で200人に倍増した。中心はかつて腕を磨いた30代だ。「ここならヒーローになれる。パチンコやキャバクラよりずっといい趣味」と池田代表。
年に3回ある長期大会では、入賞者が次回の採用ゲームを指定できる。この日、優勝したフェアさん(31)は、短命だった某格闘ゲームを推す。「自分が勝ち続ければずっとこのゲームが動きますから」。埋もれた名作・迷作が息を吹き返す。

秋葉原では外国人マニアも急増している。「モダンなゲームと違うノスタルジーがある。欧州ではオタク的に集める人が多いですよ」とフランス人のケビンさん(26)。
ミカドの池田代表によるとアーケードゲームのソフトは、海外の需要で価格が5~10倍に高騰。スーパーポテトには、希少作を何本も持つ桁違いの海外コレクターが訪れる。北林店長は言う。「浮世絵みたいに、いずれは買い戻すのに何十倍もかかるかもしれませんね」
(石森ゆう太)
[日経MJ2016年2月17日付]
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