動の阪神・金本、静の巨人・高橋 対照的な若き新監督 - 日本経済新聞
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動の阪神・金本、静の巨人・高橋 対照的な若き新監督

監督の若返りが進むプロ野球で、今季も40代の監督が相次ぎ誕生した。中でも注目を集めているのが、ともにスター選手で、中心打者としてチームを支えた阪神・金本知憲監督(47)と巨人・高橋由伸監督(40)。1日に始まった春季キャンプでは、チームの練習法や意識を変えようと積極的に動く金本監督に対し、高橋監督は落ち着いた雰囲気でじっと練習を見守っている。指揮官としての始動はまるで対照的なものになった。

とんでもないことをやる選手期待

「開幕に合わせるキャンプでなく、鍛えるキャンプになる」と沖縄県宜野座村での春季キャンプに入った阪神の金本新監督。主軸打者として2003年と05年のリーグ優勝に貢献した新監督が就任以来、物足りないと感じていたのが、おとなしく従順な選手が目立ち、かつてのチームを象徴したような「やんちゃ者」がいないことだ。「とんでもないことをやらかすような選手を期待している」と望む指揮官が、信条として掲げたのが「厳しく、明るく」野球に打ち込む姿勢。アメとムチとを巧みに使い分ける金本流の人心掌握術で、前向きな雰囲気をチーム全体に浸透させようと腐心している。

「表情を作ることなく、ただし緩むことなく、素でいきたい」と船出したキャンプ初日。雨天の中、室内練習場で選手たちを見守った金本監督に笑顔はほとんどなかった。「思った以上に(みんな)状態がいい。ちゃんと準備してくれている」と仕上がり具合には納得したものの、ほんの一瞬、緩んだ空気には見逃すことなく反応した。

選手の自主性に委ねていたのを改め、今春からメニューの中に組み込まれたのが、筋力トレーニング。肉体を鋼のように鍛え上げ「鉄人」と呼ばれた監督が、攻撃的な野球を目指す上でまず重視した基礎部分だ。初日、トレーニングルーム内を視察した監督は、私語の飛び交うだらけた雰囲気を一掃するため、トレーナーを叱りつけたという。

スクワットなど下半身の強化メニューで、個々の体重に見合った重量を持ち上げられない選手が多かったことに、監督は「初日からフルにできるように用意してこいと言っていた」と不満をあらわに。トレーナー陣に「厳しくビシッと追い込みなさい」と注文をつけたという。選手に対し、一歩引いて遠慮がちに指導する姿勢を問題視。なれ合いを許さない発言で、緊張感が一気に高まった。

フルスイング徹底、猛虎打線復活へ

グラウンドでは、片岡篤史打撃コーチらとコミュニケーションを図りながら、時に自ら手本を示して若手に直接、打撃を指導している。テーマにしているのが、速球に振りまけない力強いスイング。優勝を逃し続けた近年は、長打力に欠ける打線が投手陣を援護できず、勝負どころの試合を落としてきた。かつての猛虎打線を復活させるためにも、まずは相手に脅威を植え付けられるフルスイングを体に染み込ませることが、チームの課題だ。

飛距離に定評のある2年目の右打者、江越大賀には、打撃ケージのクッションを右拳で殴りつけるように指示。「ジャブじゃなくて、カウンターパンチぐらいの気持ちでやらないと」と右手で押し込むことの重要性を説いた。「体つきやスイングスピードに器の大きさを感じる。糸井や柳田のようになってほしい」と将来性を買う3年目の左打者、横田慎太郎には、投球とのタイミングを取る際に「ため」を作れるよう、ステップの仕方を実技を交えて何度も教えた。「迷路に入って迷うのもOK。パニックから生還した時に自分のモノになる」

熱っぽい打撃教室は若手にとどまらず、チームリーダーの鳥谷敬にまで及んだ。実績十分の鳥谷を首脳陣が直接指導するのは、宜野座では異例ともいえる光景。右肩が早く開かないようなバットの出し方を助言したようで、「彼の能力や体の強さ、筋力を考えたときに、もう少しバットに力を伝えられる打撃のきっかけをね」と監督。ベテランといえども聖域ではないことを、身をもって示した。

基礎強化に厳しく取り組む中で、ユニークな練習メニューも採り入れた。毎クールの最終日に行われる対抗リレーも、金本タイガースの特徴だ。外野の芝生に設けた1周約300メートルのコースを5チームに分かれた選手が各2周走って順位を競い、下位の3チームにはもう1周が科される。鳥谷、西岡剛、岩田稔ら主力級はもちろん、ゴメス、ペレスら助っ人も参戦。息を切らして倒れ込む選手が続出するきつさの一方、大差でリードした組の走者を監督が自ら妨害し、接戦を演出して爆笑がわき起こる場面も。球場には、運動会の徒競走でおなじみのクラシック音楽「クシコス・ポスト」がBGMで流され、笑顔のあふれる中で、全体練習が締めくくられる。戦う集団としてチームに一体感を求めたい金本流の手法が、まずは順調に滑り出していると言えそうだ。

選手と体を動かすこともない高橋監督

そんな「動」の色を強く打ち出す金本監督に対し、巨人の高橋監督の姿勢は「静」そのもの。昨年10月に監督就任要請を受けた際には現役続行へのこだわりを口にしていた指揮官は、今ではその思いを完全に断ち切ったようだ。キャンプでは選手と一緒に体を動かしたり、熱心に技術指導をしたりといった光景はほぼゼロ。ノッカーや打撃投手は務めない?と水を向ける報道陣にも「たぶんないんじゃないかな」と素っ気ない。

昨年まで自らも実践してきた練習法にも大きな不満はないと見え、大きく変えたメニューは練習最後に行っていたランニングを午前中に採り入れたことぐらい。緊張感がいや応にも高まるはずの初日から「気持ちの変化はそんなにない」「初日ですからまだまだ」と落ち着き払っている。

ドンと構えた指揮官から要請を受け、代わりに連日若手らに熱心な指導をしたのが、14日までの宮崎キャンプで臨時コーチに入った1学年上の先輩、元米大リーグ・ヤンキースの松井秀喜さんだ。1~3軍の練習場を渡り歩いては「青空教室」を連日開催し、軸足に体重を置いたスイングの大切さを力説。一緒にプレーした大リーガーらの名前を挙げて、「素晴らしい打者に共通していた点を伝えた」と話す。3日に視察に訪れた小久保裕紀日本代表監督とは打撃ケージ裏で高卒2年目の岡本和真の打撃を見つめ、将来のスラッガー候補が持つ独特の「間」を「良い形で打っている」とほめる場面もあった。1軍打撃コーチに復帰した名伯楽の内田順三コーチと、この球史に残るホームランバッターの教えがあれば「新任の自分があれこれ言って混乱を呼ぶよりも」との思いがあるのかもしれない。

もっとも、静かな立ち上がりとなった高橋監督も、チームを見る目は金本監督同様、厳しい。昨年まで一緒にプレーした選手たちにも「イメージはあるが、固定観念はなるべく持たずに見たい」。キャンプでも最大のテーマに掲げるのは「個々のレベルアップ」で、チームの一体感よりも、まずは強い「個」の集合体を作り上げたいとの思いがのぞく。多くを語らない指揮官だけに選手はかえって緊張感を高めているとみえ、投手陣も初日から競うようにブルペン入りし、目の前で見つめる監督にアピールした。

12球団最年少でも「結果がすべて」

12球団最年少で、昨季打撃コーチ兼任だったとはいえ本格的な指導経験がない指揮官に対し、球団側は、「短兵急に成果を求めているわけではない」(白石興二郎オーナー)と猶予を与える考え。しかし、当の高橋監督は退路を断つように「結果がすべて」と繰り返す。キャンプイン直前の全体ミーティングでは「まだどのような野球をするかは考えていない。誰がレギュラーにふさわしいかしっかり見極めて、勝ちに一歩でも近づける野球をする」と訓示した。実戦が増えてくる16日からの第4クール以降、どんな「色」の野球をするのか、興味は尽きない。

(常広文太、西堀卓司)

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