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アマゾンが今さらリアル書店を大量出店するワケ

VentureBeat

米インターネット通販大手アマゾン・ドット・コムが実際の書店400店を出店することを計画している。既存の書店との戦いの最前線に切り込む動きだ。

400店舗が目標

アマゾンの計画を認めたのは、米ショッピングセンター運営大手ゼネラル・グロース・プロパティーズのサンディープ・マスラニ最高経営責任者(CEO)。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが2日付で報じた(注:マスラニ氏はその後、自らの発言はアマゾンの計画を反映していたわけではないと訂正している)。マスラニ氏は決算発表で客足について質問され、「アマゾンは実際の書店を出店する計画だ。私の理解では、300~400店舗を目標に掲げている」と答えた。

だが、こんなことが本当にあり得るのだろうか。米ボーダーズなど老舗の書店チェーンを経営破綻に追い込んだに等しい企業が、デジタル時代以前の遺物が残したギャップを埋めようと考えるだろうか。実際には、それほど不自然な考えでもない。

アマゾンは数カ月前にシアトルに初の書店を開店したばかり。1月にはオンラインで注文した商品を受け取り、同社の最新の機器もチェックできる有人の拠点をカリフォルニア大学バークレー校に開設した。年内に他の大学にもこうした拠点をオープンする方針を明らかにしている。

アマゾンがオフラインの世界への浸透に価値を見いだしているのは明らかだ。逆の傾向(オンラインの世界への傾倒)が示唆されているにもかかわらず、ほとんどの人はなおオフラインの世界で生活しているからだ。

高い成長率維持の手段

つまり、アマゾンの狙いはこうだ。アマゾンは上場企業であるため、成長し続けて投資家のために企業価値を高めなくてはならない。しかも、規模が大きくなるほど成長は難しくなる。同社はオンライン小売業という自らのルーツをとうに超えている。例えば、米動画配信大手のネットフリックスと競合する動画配信プラットフォームでもあり、タクシー配車サービスの米ウーバーや宅配サービスの米ポストメイツなどに対抗し、レストランに食材を配達するサービスも手掛けている。同社の事業の大半にはなお成長の余地があるものの、実際の小売業は最もけん引力のある分野なのだろう。

米書店チェーン大手のバーンズ・アンド・ノーブル(B&N)は米国で苦戦しているかもしれないが、英書店チェーンのウォーターストーンズは最近、金融危機後では初めて通年で黒字になったことを明らかにした。同社は2011年には経営破綻寸前の状態にあった。確かに、人々は相変わらず店に足を運んで本を立ち読みするのが好きなようだ。これにいわゆる「デジタル革命」の減速が重なり、一部の従来型書店が復活を遂げている。

 ウォーターストーンズのジェームズ・ドーント社長は英紙ガーディアンのインタビューで「デジタル読書と自然にバランスが取れる点があるはずだと常に確信していた。(デジタル読書へ)行き過ぎても、戻ってきて落ち着くと思っていた」と説明。「これは直感的に分かっていたし、実際にそうなった」と語った。

ウォーターストーンズはB&Nのようにチェーンを縮小するのではなく、拡大しつつある。成功は核となる存在理由、つまり書籍を中心としているようだ。昨年撤退した電子書籍ではなく、実際の書籍の方だ。一方、B&Nは塗り絵のイベント開催や画材の販売、さらにはプログラミングや3D印刷のワークショップまで宣伝している。店がどんな状態にあるかは想像がつく。

アマゾンが本当に400店もの書店の出店を計画しているのなら、大きな影響を持つ事態だ。1世紀近く前に1号店をオープンしたB&Nは、全米でなお約650店を持つ。このため、アマゾンはライバルが維持している最後の生き残りに包囲網を敷くことになる。

アマゾンがB&Nよりもやや有利な点はもう一つある。アマゾンは電子書籍から得た消費者の読書傾向に関する数百万のデータを自由に使えるため、はやり廃りを熟知し、それに応じて本を陳列することができる。現にシアトルの店舗ではアマゾンの書店がどんな構成になるかをうかがい知ることができる。アマゾン・ドット・コムでのベストセラーや、星4.8以上の評価を得た本を集めたコーナーが設置され、オンライン書店での読者のレビューももちろん掲示されている。アマゾンの電子書籍リーダーやタブレット(多機能携帯端末)を宣伝する役割も果たしている。

人は外でモノを買うのが好き

アマゾンがショッピングモールに大型書店を出店するのか、それとも大学構内に専門書店を開設するのかは定かでない。だが、方針を180度転換して実店舗に目を向けるオンライン企業はアマゾンが初めてではない。

米グーグルは昨年、ロンドンに初の自社ブランドをそろえた実店舗を出店。化粧品の定期購入型通販サイトの米バーチボックスもニューヨークのマンハッタンに1号店をオープンした。米アップルや韓国サムスン電子、米マイクロソフトなどIT(情報技術)大手が実店舗に多額の資金を投じているのだから、このアイデアに価値があるのは明らかだ。これは要するに(ブランド名を印象付ける)マインドシェアで、商品を抱き合わせ販売したり、消費者に実際に(製品を)操作させたり、専門家がアドバイスを提供したりすることができる。オンラインの環境でこの体験を再現するのは難しい。

しかも、これはアマゾンがなぜ大量の書店出店を検討しているかを説明する重要な最後の点につながる。あくまでも推測にすぎないが、人々はインターネットがつくり出したとされる「非社交的な世捨て人」にはなっていないのだろう。実は外出し、店に歩いて入り、他人と交流し、モノを買うのが好きなのだろう。

By Paul Sawers

(最新テクノロジーを扱う米国のオンライン・メディア「ベンチャー・ビート」から転載)

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