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サッカー日本、リオは120分戦える選手が求められる

23歳以下(U-23)のサッカー日本代表が8月のリオデジャネイロ五輪の出場権を6戦全勝で見事に勝ち取った。五輪予選を兼ねたU-23アジア選手権でライバルたちを次々になぎ倒していく日本の快進撃には久しぶりに胸のすく思いがした。カタールのドーハでテレビの解説をしながら痛快だったのは優勝に「オールジャパン」の底力を感じたことだ。手倉森監督と選手、コーチ、スタッフ、全員で勝ち取った出場権だった。

U-23日本代表の快進撃に「オールジャパン」の底力を感じた=共同

大きな自信を手にした北朝鮮戦

正直なところ、1月13日の北朝鮮との初戦を戦う前までは先行きを不安視していた。今回のチームの主力は2012年、14年のU-19アジア選手権でイラク、北朝鮮にともに準々決勝で敗れ、世界の舞台に立てなかったメンバーだった。2年前にオマーンで開催されたU-22アジア選手権の準々決勝でイラクに敗れた選手もいた。そこで抱えたコンプレックスを五輪予選というシビアな場所で払拭しながら勝ち抜けるのか。そこが気になっていたわけである。

そういう意味で北朝鮮との初戦を1-0で乗り切ったのは大きかった。CKから開始5分で植田(鹿島)が先制した後の試合運びはとても褒められたものではなかった。相手のロングボール攻撃に苦しみ、青息吐息の白星発進となった。もし、北朝鮮に昨年夏の東アジアカップ(中国・武漢)で日本代表のDF陣を高さで圧倒した190センチの長身FWパク・ヒョンイルがいたら(ケガで今大会は不参加)、結果は違ったものになっていたかもしれない。

勝負事は「内容」よりも「結果」で大きな自信を手にすることがある。この初戦の白星がまさにそれで、ここでモノにした勝ち点3は続くタイ、サウジアラビアとの試合に余裕を持って日本を臨ませることになった。

初戦で私が注目したのはゴールを決めた植田がベンチに向かって一目散に駆けた行為である。それからはゴールが決まる度に日本のチームは選手全員で喜びを分かち合うようになった。

北朝鮮戦の植田をはじめゴールを決めた選手はベンチと喜びを分かちあった=共同

また、試合前のウオーミングアップが終わった後は、そのままロッカールームに引き揚げるのではなく、選手全員で円陣を組んで早川フィジカルコーチから活を入れられるのがルーティンになっていた。どちらもチームに一体感を醸しだし、競争と団結の精神を貫くための作業だった。このあたりは02年ワールドカップ(W杯)日韓大会から歴代の代表監督に仕え、4回のW杯を経験してきた熟練の早川コーチならではの仕事だったと思う。

大胆な選手入れ替えで疲労分散

第2戦のタイ戦(16日)は先発メンバーを第1戦から6人も入れ替えた。五輪予選のピッチに初めて立ったCB奈良(川崎)、左SB亀川(福岡)はこなれるまでに時間がかかり、立ち上がりはそこを突かれてあたふたした。ここで失点していたら大誤算になっていたところ。しかし、序盤をしのぐと守備はぐっと安定し、4-0の完勝につなげることができた。第2戦の相手がタイで良かったというのが正直な感想だった。

これで勝ち点を6に伸ばした日本は1次リーグ最終戦のサウジ戦(19日)を前にして早々と決勝トーナメント進出を決めた。それを元手に手倉森監督はサウジ戦の先発を第2戦からさらに10人も入れ替える大胆な手を打つことができた。この時点で登録23人のうち、ピッチに立っていないのはGK牲川(鳥栖)だけになった。13日の初戦から30日の決勝まで18日間で6試合をこなす過密日程を思うと、積極的にターンオーバー制を採用し、疲労の分散を図ったことは、決勝トーナメント以降の戦いを見据えた英断だったように思う。

サウジアラビア戦では先制ゴールの大島ら先発10人を入れ替えて疲労を分散した=共同

実際、各チームが過密日程に苦しむ中で日本のコンディションは間違いなく参加チームで最良だった。ターンオーバー制を採用したことだけが理由ではなく、昨年12月の沖縄合宿での選手の状態に応じた調整、ドーハ入りした後の全員を戦える状態に持っていく仕上げ、そして大会中のリカバリー、それらのすべてに隙がなかったということだろう。

それはスタッフがいい仕事をしたということである。早川コーチは唾液や血液を採取しながら選手の疲労度を細かくチェックし、それぞれの状態に応じて選手に課すフィジカルトレーニングの強度を加減した。

最高の準備と万全の環境を用意

また今回、コックの西芳照さんを同行させたのも大きかった。連戦が続く中で疲労からの回復はチームの命運を左右する重大事だが、そこで一番のポイントになるのは栄養補給だ。試合後のロッカールームにはおにぎりが用意され、すぐに食べられるようになっていた。疲れで食が細りがちな選手もスパイスのきいたカレーライスならばくばく食べられる。「代表の料理人」として長年チームのために腕をふるってきた西シェフは、外国に長期滞在して連戦するとき、どんなタイミングでどんなものを出せばいいのか熟知していた。引き出しの数が違うのである。

「どうなんだ、西さんのつくる料理は?」と私が聞くと「やばいっす。おいしくて太りました」と答えた選手がいた。常とは違う扱いを受けて、若い選手がそれを発奮材料に変えたのは想像に難くない。所属チームによっては代表の方が待遇はいいので、コンディションがどんどん良くなった選手もいただろう。他のチームはホテルの食事に飽きて外食に出かけたりしていた。それで大渋滞にはまったら無駄に疲れるだけである。

練習や親善試合の段階では選手を厳しい環境に置いてタフに育てるのは当然だろう。が、国際舞台への出場権を懸けた大会では最高の準備と万全の環境を用意して戦わせることは決して「甘やかし」ではない。それもまた選手を追い込む材料にすればいいのである。

日本のコンディションの良さは全員でハードワークする守備に表れていた。前からボールを追えていた。それでいて他のチームのように足をつる選手は出なかった。連戦で一番困るのは動けない選手が出てくること。W杯はその典型だ。どんなに技術があっても、戦術眼に優れても、動けなくなったらアウト。今回の日本はそこがタフだった。

対戦相手の分析も的確だった。弱点を見抜いて確実に突けていたように思う。そういうスタッフの仕事を信頼し、任せるところは任せ、最後にしっかり集約してみせた手倉森監督の手腕も本当に素晴らしかった。拮抗した相手との戦いは、試合中の采配はもちろんだが、試合前の準備の差で明暗が分かれることも多い。そういう意味で、今回の日本の優勝は、緻密な準備力のたまものだったように思う。

遠藤はワンタッチで前にいる選手へ出すパスが優れている=共同

非凡なスルーパスが光った遠藤

ピッチの中に目を転じると、今回の日本はディフェンシブサードでファウルが多いのは気になった。それが致命傷にならなかったのはCBの岩波(神戸)、植田、ボランチの遠藤(浦和)という守りのトライアングルが強固だったからだ。

この3人はただ跳ね返すだけではない。岩波はパスのセンスがあってラインコントロールも気が利いていた。植田はナーバスになってラインを上げすぎるきらいがある。が、この選手のヘディングの強さは圧巻だった。

遠藤は、苦しい展開の時に相手をいなしたり、味方を落ち着かせたりするようなプレーができるようになったら、さらにランクが上の選手になれる。本人はもっとゲームメークの能力を上げたいらしいが、私は今でも十分に光っていると思っている。特にワンタッチで前にいる選手につけるパスがいい。攻撃に推進力が出る。香川(ドルトムント)なんかが喜びそうなパスである。

今回のチームにはスルーパスに合わせてDFラインの背後を突ける良さがある。決勝の韓国戦で2得点した浅野(広島)は飛び出しの象徴だ。その起点になっているのが実は遠藤であることが多い。「ゲームをつくれなくて」なんてことを気にするなと言いたい。今はどんどんワンタッチで前につける良さを磨けばいい。

アタッカーでは久保(ヤングボーイズ)が良かった。ペナルティーエリア内でシャープなシュートが打てる上に守備にも献身できる。FWの軸だろう。

手倉森監督は言葉や態度で選手を上げたり落としたりするのがうまい。人心掌握にたけた監督なのだろう。

選手交代も神がかり的に当たっていたが、決勝の韓国戦は一つ失敗した。ハーフタイムでオナイウ(千葉)に代えて原川(川崎)を投入、大島(川崎)を残して4-3-3にしたのが裏目に出た。韓国に追加点を奪われて0-2にされる原因になった。遠藤をアンカーに置いて三角形にするつもりの中盤がスリーボランチになってしまい、前線の久保を孤立させもした。3点目、4点目を取られてもおかしくなかった。

五輪も今回の戦い方をベースに

韓国の猛攻にさらされた手倉森監督は60分まで我慢して大島を浅野に代えて4-4-2に戻した。韓国が終盤失速するのは調べ済みだったので2点差なら十分に追いつけると思っていたとしても、最初の交代は大島を引っ込めて原川で良かった。

韓国は2列目の攻撃陣が素晴らしかった。変化をつけてボールを運べたが、最後に足が止まった。韓国も1次リーグ3戦目はターンオーバーを採用し選手を休ませたのだが……。決勝で感慨に襲われた。日本と韓国が入れ替わったみたいに思えたからだ。10年前なら、いいサッカーをするのが日本で、勝負強いのが韓国だった。それが今回は逆だった。

韓国戦では日本の勝負強さが際立った=共同

韓国の敗戦は守備の弱さにあったと思う。体を寄せてつぶせる間はいいが、足が衰えると日本ほど組織的に守ることができないので、特長である球際の強さも消えてしまった。

リオ五輪の男子サッカーは開会式に先立って8月4日に始まる。引かれた相手の崩し方など課題はあるが、戦い方のベースは今回のものでいいだろう。守りを強みにして縦の速さ、スルーパスと裏への飛び出しで勝負する。

早くもちまたを騒がすオーバーエージ問題は手倉森監督がどう考えるか、それに尽きる。監督が何を目指すのか、何を見せたいのか。監督が腹を決めたら、それに必要な戦力をそろえることに協会の技術委員会は最大限の努力を払う。そこの関係を間違え、納得がいかないと、監督のやる気をそいでしまいかねない。

五輪は8月にあり、欧州のサッカーシーズンはオフ。Jリーガーよりも海外組の方がオーバーエージで呼びやすいのかもしれない。23歳以下の選手に関しては7月まで成長が期待できるし、逆にケガをする選手も出てくるだろう。エントリーぎりぎりまで手倉森監督は頭を悩ませるのではないか。

目線高くした育成年代強化が必要

今回の予選はターンオーバーがうまくはまったが、五輪本番は18人しか選手を集められない。決勝(3位決定戦)まで行くと18人で6試合を戦うことになる。予選よりもっとタフであることが要求される。簡単にいえば、120分戦える人間しか選んではいけない。正念場の4、5、6試合目でいいプレーができる選手しか選んではいけないということ。今回のメンバーでそのハードルをクリアしている選手は数人しかいない。

選手の頑張りと選手の能力をフルに引き出した監督、スタッフの120%の努力には称賛を惜しまない。しかし、アジアを勝ち上がるのにぎりぎりという現状では胸を張ってメダルを取りにいくとはいえない。もし、アルゼンチンやブラジルがアジア予選に参加していたら大勝の連続だったろう。

優勝したといっても、北朝鮮戦と決勝トーナメントに入ってからの3試合はすべて紙一重の勝負だった。4強に残った韓国、イラク、カタールは育成年代で結果を出したチームだった。今回の優勝で日本の若い選手たちがプライドを回復したのは喜ばしいが、アンダーカテゴリーの最後の戦い(U-23)で勝ったからといって、それで万々歳とはまったくならない。そこは真摯に受け止めたい。帳尻が合ったからこれでよし、ではなく、もっともっと目線を高くして育成年代の強化を考えていくべきだろう。

(サッカー解説者)

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