チャレンジ!パラスポーツ最前線

フォローする

企業のパラスポーツ支援、まず社内ファンづくりから

(2/2ページ)
2016/2/10 6:30
保存
共有
印刷
その他

西崎は関西の自治体の水道局に勤めていた。もともとパラ陸上をしていたが、東京大会が決まってパワーリフティングに転向。遠征で長期休暇をとるといい顔をされず、「応援されている感じがなかった」。海外の選手を見て、現在の環境では太刀打ちできないと思い、転職先を探していた。

乃村工芸社の大阪事業所勤務となり、週2回、午前9時から午後3時までの仕事だけで、後は練習に専念できるようになった。望んだ生活だったが、時間がたつにつれ、違和感を募らせていったという。「社員というより、お客様という感じだった」。同僚とは週2回しか顔を合わさないし、西崎の支援を決断した会長や社長、役付き部長など偉い人たちと話す機会の方が多く、「どれだけ一般の社員に自分のことが伝わっているのか」と不安だった。

乃村工芸社の社員がたくさん応援に駆けつけた全日本パラ・パワーリフティング選手権

乃村工芸社の社員がたくさん応援に駆けつけた全日本パラ・パワーリフティング選手権

そもそも会社側も雇用率を上げるために採用したので、「その後に何をしたらいいのかわからなかった」と同社スポーツぶんか事業開発室長の原山麻子さん。社内報で入社を大きく取り上げても、直後の15年1月に東京都内であった全日本選手権に応援にいった社員はわずか5人。同年9月に名古屋であった西日本選手権への応援も7人だけ。しかもいまだにルールもわからない社員ばかりである。西崎もそうしたムードが影響してか、名古屋では自身の持つ日本記録133キロに遠く及ばない126キロしか挙げられなかった。

社員大勢の声援受け、日本記録を更新

ここにきてようやく、西崎と原山さんは腹を割って何が必要か、改善策を話し合った。早速、大阪事業所内にトレーニングルームを設置。社員も利用できる形にして、パワーリフティングのベンチ台を置いた。そのベンチ台も国際パラリンピック委員会(IPC)公認のものを購入し、西崎が事業所でもトレーニングできるようにした。すると一般の社員と顔を合わせることが増え、「自分の部署以外の人とも接触できて、会社にもっと貢献したいと思うようになった」と西崎。「不断の向上心」といった、「ノムラマインド」といわれる会社の行動指針も胸にすとんと落ちた。

さらに昨年12月には「パラ・パワーリフティングと西崎哲男選手を応援しよう!」という社内セミナーを開催。西崎に加え、ロンドン・パラリンピックに出場した現役選手による実演、ルールの解説、リオデジャネイロ・パラリンピックに出場する条件の説明をした。セミナーには役員20人、社員79人が参加。パワーリフティングの体験もして、68歳の渡辺勝会長もチャレンジした。

この結果、今年1月に都内であった全日本選手権には社員とその家族74人が駆けつけ、熱心に西崎に声援を送った。西崎も3回目に135キロを挙げ、日本記録を更新。多くの社員を巻き込んでの応援が力になったよう。西崎は「今はリオデジャネイロ、東京での目標が僕一人のものでなく、会社と共有できていると思う。採用してもらって良かったと言ってもらえるように頑張りたい」と迷いない表情で言い切る。

アスナビの交流会で体験談を話す乃村工芸社の原山室長(中央)と西崎(左から2人目)

アスナビの交流会で体験談を話す乃村工芸社の原山室長(中央)と西崎(左から2人目)

お見合いで引き合わされた男女が、互いの利害も絡んで結婚したものの、どうもしっくりこない。胸襟を開いて本音をぶつけあったら、ようやく本当の夫婦になれた。乃村工芸社と西崎のケースは、パラスポーツの支援例としては幸運なものだろう。

アスリート雇用で選手が企業にほれ、社員が選手や競技にほれ、といった良好な関係が成立することは、ことパラスポーツにとってはとても重要だ。そもそも見たことのある人が少なく、ルールについて知っている人はもっと少ないのがパラスポーツ。それが、1人のアスリートを雇うことで、会社全体に認知が広がる可能性があるからだ。ひいてはパラスポーツのファンを増やし、20年東京パラリンピックの会場を満員にするという、日障協の目標にもつながる。

実は乃村工芸社の原山さん、パワーリフティングの世界を知るにつけ、その魅力に引き込まれ、自分も競技を始めた。「夫には何で?と言われましたが」と笑う。また日本パラ・パワーリフティング連盟の事務スタッフが足りないと聞き、ボランティアを志願。仕事に支障がない時間に個人で手伝うから、と会社にことわったうえで連盟の広報・渉外委員の名刺も作り、HPやフェイスブックでの情報発信に取り組んでいる。奇縁というほかない。

(摂待卓)

チャレンジ!パラスポーツ最前線をMyニュースでまとめ読み
フォローする

  • 前へ
  • 1
  • 2
保存
共有
印刷
その他

障害者スポーツのコラム

五輪関連のコラム

電子版トップスポーツトップ

チャレンジ!パラスポーツ最前線 一覧

フォローする
MWCCで初優勝を果たした男子日本代表

 車いすバスケットボール男子日本代表が6月8~10日に武蔵野の森総合スポーツプラザ(東京・調布)で行われた国際大会「三菱電機ワールドチャレンジカップ(MWCC)」で初優勝を果たした。2016年リオデジ …続き (2018/6/19)

合宿で練習する日本代表。日本でアイススレッジホッケーの灯を絶やさないためにも、平昌パラ出場は絶対条件だろう

 28日から北海道苫小牧市の白鳥王子アイスアリーナで、2018年平昌パラリンピック最終予選の出場権をかけたアイススレッジホッケーの世界選手権Bプール(2部に相当)が開催される。
 10年バンクーバー・パ …続き (2016/11/24)

女子で16連覇しているオランダの牙城を崩すには上地の活躍が欠かせない

 車いすテニスの国別対抗戦ワールドチームカップが23日から28日まで、東京都江東区の有明コロシアムと有明テニスの森公園で行われる。健常者テニスの国別対抗戦であるデビスカップ(男子)やフェドカップ(女子 …続き (2016/5/21)

ハイライト・スポーツ

[PR]