2019年8月23日(金)

オフィスに現代アートを 文化支援でビジネス活性化

2016/2/5 6:02
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 社員が働く空間に斬新な現代アートを置く。人が働くオフィスから芸術文化を支援するマネックス証券の松本大氏とドイツ銀行グループの桑原良氏に、現代アートとビジネスとの意外な接点を語ってもらった。(司会は野村総合研究所の綿江彰禅氏。以下、敬称略)

「ART IN THE OFFICE 2015」に選ばれた蓮沼昌宏氏の作品を展示する現在のプレスルーム

「ART IN THE OFFICE 2015」に選ばれた蓮沼昌宏氏の作品を展示する現在のプレスルーム

綿江 一般的に、金融の仕事といえば左脳を使う堅い印象。現代アートはその逆で、右脳を使って楽しむという柔らかい印象がある。その接点はどこにあるのか。まずはそれぞれの文化活動について教えてください。

松本 2008年から毎年、「ART IN THE OFFICE」というアートコンペを企業の社会的責任(CSR)活動の一環で開いている。会社のプレスルームの壁を使って、選ばれた1人の作品を1年間展示する。毎回、およそ100点の応募があり、私や美術専門家、ビジネス界のゲストら5人ほどで審査します。

予算は賞金や材料費を含めて総額300万円ほど。社員厚生費として処理している。12年にはグッドデザイン賞に選ばれた、継続的な取り組みです。

桑原 ドイツ銀行は約36年前から、同じくCSRの一環でアートと音楽の分野を支援している。金額にして年間で25億円ほど。柱は6万点以上の現代アートコレクション。その90%はベルリンの展示施設やフランクフルトの本社をはじめ、日本を含む世界40カ国のドイツ銀行オフィスに常設している。最近では、アジア各国を巡回する「そこにある、時間―ドイツ銀行コレクションの現代写真」展を企画し、原美術館(東京・品川、2015年9月~2016年1月)で開催しました。

「NIKKEIアートプロジェクト」ではドイツ銀行東京オフィス内の展示を巡るツアーを開催(2015年12月)

「NIKKEIアートプロジェクト」ではドイツ銀行東京オフィス内の展示を巡るツアーを開催(2015年12月)

ゲルハルト・リヒターの作品が飾られたドイツ銀行東京オフィス

ゲルハルト・リヒターの作品が飾られたドイツ銀行東京オフィス


ドイツ銀行コレクションから約300点を東京オフィスで展示

ドイツ銀行コレクションから約300点を東京オフィスで展示

綿江 文化支援を始めたそれぞれのきっかけとは。

松本 以前のオフィスでは、壁が湾曲した円柱形のプレスルームを作った。取材を受ける時に使うその部屋で、世間ではあまり知られていない現代アートを紹介したい、と考えたのが始まり。移転後の現在も、同様に活動を続けています。

私にアートの面白さを教えてくれたのは中学、高校、大学の同級生であり、木村伊兵衛賞をとった写真家、松江泰治君。実は、高校では私が写真部部長、彼が会計だった間柄なんです。彼に勧められ、色々な展覧会を見るうち、同時代の表現に魅力を感じました。

桑原良(くわはら・まこと)ドイツ銀行グループチーフ・カントリー・オフィサー。2013年4月よりドイツ銀行グループの日本のチーフ・カントリー・オフィサー、ドイツ証券代表取締役社長兼CEO、及びドイツ銀行東京支店日本における代表者を務め、14年7月よりドイツ銀行東京支店長を兼任

桑原良(くわはら・まこと)ドイツ銀行グループチーフ・カントリー・オフィサー。2013年4月よりドイツ銀行グループの日本のチーフ・カントリー・オフィサー、ドイツ証券代表取締役社長兼CEO、及びドイツ銀行東京支店日本における代表者を務め、14年7月よりドイツ銀行東京支店長を兼任

桑原 ドイツ銀行と現代アートとの接点は1970年代。現代美術家ヨーゼフ・ボイスとドイツ銀行役員との出会いがきっかけで、現在まで続く方針「Art at work(職場にアートを)」が生まれた。今はコレクションを核に、いかに社会貢献するか、というステージに変わった。「Art works(アートを生かす)」を新たなキーワードに、若手美術家の支援や教育プログラムを展開しています。

綿江 社内の展示作品に対し、社員はどんな感想を持っていますか。

桑原 関心の持ち方は様々なので、普段から作品について議論するわけではない。ただ、数年前、東京のオフィスで展示替えをした時、新たに飾った作品に対して文句が出たり、賛同する声が出たり、予想以上に多くの社員から反応があった。見ていないようで見ているんです。長い年月をかけて活動すれば、企業文化に与える影響は少なくないと思います。

綿江 マネックスのプロジェクトでは、社内のどんな反応がありますか。

松本 コンペの審査員は、過去に作家の林真理子さんや、カルチュア・コンビニエンス・クラブ社長の増田宗昭さんが参加するなど、様々な業界から招待する。毎回、違う趣向の作品が選ばれるので、「これは好き」「これはわからない」と社員がそれぞれに感想を持ち、展示を楽しむようになった。次第に社内のサポーターも増えました。

綿江 アートを支援することの具体的な効果とは。

「ART IN THE OFFICE 2011」に選ばれた渡邊トシフミ氏の制作風景

「ART IN THE OFFICE 2011」に選ばれた渡邊トシフミ氏の制作風景

マネックス証券社内でアーティストがワークショップを開く

マネックス証券社内でアーティストがワークショップを開く


松本大(まつもと・おおき)マネックス証券代表取締役会長CEO。1999年、マネックス証券を設立。2015年11月より現職。カカクコム、ジェイアイエヌ社外取締役

松本大(まつもと・おおき)マネックス証券代表取締役会長CEO。1999年、マネックス証券を設立。2015年11月より現職。カカクコム、ジェイアイエヌ社外取締役

松本 普段と違う風景が目に入ることで、凝り固まった思考にいい刺激を与えると感じている。また、完成までアーティストはオフィス内で制作するので、ワークショップを開くなど、社員と交流もする。そうしたイベント時は、意外な社員が能力を発揮することがありますね。

桑原 営利目的ではないので、投資に対するリターンは期待しないが、それなりの費用をかけている以上、社会貢献の規模を知るために、展覧会の訪問者数などの成果を数値化している。本社がある欧州のビジネスシーンでは特に、芸術は対話のきっかけとして重要な役割を果たすもの。日本においても、社を訪れた顧客との対話のきっかけになることは多い。

綿江 現代アートとビジネスとの共通点、相違点とは何ですか。

桑原 現代アートの独自性や革新性は、長い目で見れば金融ビジネスのアイデアにもつながる。日々、必要とされるサービスや環境がめまぐるしく変わる中、顧客が抱える金融ポートフォリオ等の問題に対応する時には、我々も革新的な発想が求められます。

文化支援から得たものを見える形で反映するのは難しいが、アートを通して新たな対話を生み、多様性を受け入れる土壌を育むことはできるのではないでしょうか。

松本 私も両者の同時進行性に共通するものを感じます。基本的にアートと金融とは直に関係するものではないが、顧客へのサービスの見せ方など、ビジネスを組み立てる上ではあらゆる面で「デザイン」が重要。その意味で、ビジネスとアートには交わる部分があるといえるでしょう。

綿江彰禅(わたえ・あきよし)野村総合研究所社会システムコンサルティング部主任コンサルタント。過去の担当事業は、文化庁「社会課題の解決に貢献する文化芸術活動の事例に関する調査」など

綿江彰禅(わたえ・あきよし)野村総合研究所社会システムコンサルティング部主任コンサルタント。過去の担当事業は、文化庁「社会課題の解決に貢献する文化芸術活動の事例に関する調査」など

綿江 文化支援活動において、今後の構想はありますか。

桑原 日本は欧州に比べ、まだ現代アートの一般的な認知度が低く、特に若手美術家の発掘、支援において遅れているという印象がある。今後もCSRの中でその支援を進め、現代アートに触れる機会を増やしていきたいと考えています。

松本 「ART IN THE OFFICE」は少ない予算で運営でき、継続性があるので、ぜひ他でもやってもらいたい。かつての審査員である増田さん、ジェイアイエヌの田中仁さんは自社や店舗で展開してくれた。こうした方法で、社会に良い刺激が増え、現代アートの裾野が広がっていけばいいなと思います。

[2015年11月30日のNIKKEIアート・プロジェクトセミナー2015「オフィスに現代美術―企業とアートの新たな地平」の内容を再構成]

(構成 生活情報部 柳下朋子)

◎NIKKEI アートプロジェクト
日経電子版では、現代アートの楽しみ方を提案するとともに、同時代のアーティストを側面支援する「NIKKEIアートプロジェクト」を毎年実施しています。2015年秋は「オフィスにアートを!」をテーマにセミナーやイベントを開きました。詳しくは、http://pr.nikkei.com/ART/

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