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一寸先は解任? 欧州の大クラブ、「名監督」使い回し

欧州サッカーを代表するビッグクラブのチェルシー(イングランド)とレアル・マドリード(スペイン)で監督交代が続いた。チェルシーはモウリーニョを解任し、経験豊富なヒディンクを暫定監督とした。レアルはベニテスから元大スターのジダンにスイッチ。

バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)もグアルディオラ監督が今季限りで退任し、元レアル監督のアンチェロッティを迎えることが決まっている。グアルディオラは来季からマンチェスター・シティー(イングランド)の指揮を執る。少し格下のクラブに目を移すと、リバプール(イングランド)、ローマ(イタリア)でもシーズン中の監督交代があった。

いまや監督は完全な雇われの身。アーセナル(イングランド)のベンゲル監督のように、チーム編成も含めた全権を与えられている監督はほとんどいなくなった。フロントがビッグネームの選手を集め、監督は勝負の部分だけを請け負っている。

結果のみ求められ、負ければ戦犯扱い

サッカーが産業化し、欧州チャンピオンズリーグ(CL)をはじめとしたタイトルを取るかどうかでクラブの実入りが大きく変わる。だから監督が求められるのは結果のみ。選手育成などは期待されていない。いいサッカー、きれいなサッカーもいらない。

問題は一番になれるかどうか。タイトル奪取に失敗すれば、すぐに解任の憂き目に遭う。結果として、名のある監督がビッグクラブをぐるぐる回る使い回し状態が起きている。

大きなクラブほどプライドの高い大物選手がそろっているから、束ねるのは簡単ではない。選手が監督に負けないくらいのパワーを持っている。最初のうちは実績のある監督がカリスマで抑えられるが、そのうち必ず不満が出てくる。

うまくいっているうちはいいが、勝てなくなると監督と選手の間のバランスが崩れる。そういう場合、戦犯扱いされるのは監督で、フロントもサポーターも選手側につく。結局、監督が切られ、選手が残る。

モウリーニョ監督はポルト(ポルトガル)監督時代の2003~04年に欧州CLを制覇し、名を上げた。チェルシーを率いるのは2度目で、1度目は1年目からプレミアリーグ連覇を果たしている。インテル・ミラノ(イタリア)では09~10年に欧州CLを含む3冠。レアルを3年率いた後、再びチェルシーの監督を務めていた。

通訳からスタートしたたたき上げの指導者だが、プロ選手としての実績がないことから劣等感に近いものを抱いているのかもしれない。自分は「スペシャルな存在」と発言するなど、虚勢を張っているようなところもある。

自分が選手の上に立っていることを強調し、「オレの言うことを聞いていれば勝てるんだ」というチームマネジメントをする。相手はプライドの高い選手ばかりなのだから、その気持ちをくんであげなければいけないのに、力でねじ伏せようとする。どこのクラブを率いても、いつもロープの上でバランスを取っているような状態で、そのバランスが崩れると真っ逆さまに落ちる。

ジダン監督、今は歓迎されているが…

代わりにチェルシーを率いているヒディンク暫定監督は文字どおり、つなぎ役だろう。クラブは来季に向けてネームバリューのある監督を探しているはずだ。

しかし、その間に2部リーグに降格するようなことがあっては困る。だから、オランダ代表、韓国代表、ロシア代表などを指揮し、実績を残してきたヒディンクに任せ、保険をかけているのだろう。チェルシーには09年にシーズン途中でヒディンクが暫定監督に就き、イングランド協会(FA)カップを取った過去がある。

レアルの監督を解任されたベニテスはあのクラブを率いるほどの器ではなかった気がする。バレンシア(スペイン)、リバプール、インテル・ミラノ、チェルシー、ナポリ(イタリア)の監督を歴任し、リバプール時代では04~05年に欧州CL優勝を果たした。

優れた戦術家であるのは間違いないが、ロナルド、ベイル、ベンゼマらレアルの大物選手たちを束ねるのは荷が重すぎたのではないか。残念ながら、そこまでのカリスマはない。

後を継いだジダンは華麗なテクニックで世界中のファンを魅了した元スーパースター。フランス代表として1998年ワールドカップ(W杯)、00年欧州選手権を制し、レアルでは01~02年に欧州CL優勝に貢献した。

かつてクラブに栄光をもたらしたジダンをサポーターは歓迎している。選手も文句の言いようがない。しかし、監督としての力量は未知数だ。もし勝てなくなればジダンといえども逆風を受ける。

指導者としての経験が浅いことが問題視され、「選手に任せているだけじゃないか」とか「戦術がない」とか言われ始める。選手も不信感を抱くだろう。選手、サポーターの不満が募れば、フロントはジダンを擁護しきれなくなる。

「いつでもクビにしろ」と開き直りも

下位の中小クラブと違い、ビッグクラブの監督に与えられた猶予期間はきわめて短い。監督が受けるプレッシャーは計り知れない。普通の神経ではとても耐えきれない。

しかし、レアルやチェルシーといったビッグクラブを率いるような監督は何とも感じていないのかもしれない。失敗を恐れず、クビになるのも平気。「クビにするなら、いつでもしろ」と開き直っているような感じがする。

監督になりたてのころは「クビになったらどうしよう」と不安になるものだ。「ダメ監督と思われているんじゃないか」とか「選手に信用されていないんじゃないか」とか考えてしまう。ビッグクラブの監督はそんなことを気にしていたら務まらない。

その点で優れているのがアンチェロッティなのかもしれない。のらりくらりとしながら、選手と対立しないすべを知り尽くしている。

元イタリア代表選手で、ACミランで欧州チャンピオンズカップの2連覇に貢献した。監督としてはユベントス、ACミラン(ともにイタリア)、チェルシー、パリ・サンジェルマン(フランス)、レアルを率いて欧州CLで3度優勝している。

元名選手であるからなのか、選手の扱い方がうまい。不平を口にする選手がいても、知らんぷりで相手にしない。モウリーニョは自分が選手より上だと言い聞かせないと気が済まないが、アンチェロッティは「文句があるやつには言わせておけばいいんだ」という感じで、気にしない。「どうせ自分は2、3年でこのクラブを去ることになるんだから」という達観もあるような気がする。

「渡り鳥」のような監督生活送る例も

元名選手で名監督といえば、かつてバルセロナで黄金期を築いたバイエルンのグアルディオラも同じ。毎年、斬新なサッカーに取り組み、ファンを驚かせる。ハインケス前監督が3冠を成し遂げた後を継いだというのに、一からチームをつくり替えるようなことをしたのだから恐れ入る。

常にもっと違うことができるんじゃないかと考えている。だからこそ、3年で区切りをつけてバイエルンを去るのだろう。もうこのメンバーでできることはやりつくしたという思いがあるのかもしれない。

自分自身がもっと上に行きたい、もっと自分を高めたいという野心を持っている。その前にバイエルンでの最後のシーズンである今季、何としても欧州王者になりたいはずだ。

マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)のファンハール監督は批判を受けながらも指揮を執り続けている。この監督も「クビにするのはクラブの勝手」と開き直ったようなことを言っている。

アヤックス(オランダ)、バルセロナ、バイエルンなどの監督を務めてきた戦術家だが、自分の考えを選手に押しつける傾向がある。

オランダ代表を率いた14年ワールドカップ(W杯)ブラジル大会のように、他のチームがうらやむような戦力を持っていながら古典的なマンツーマン守備を徹底し、きわめて現実的な戦いを平気でする。たぶん、やっているほうは面白くないであろうサッカーを押しつける。

利己主義の塊のような監督だから、どん底にあるチームの監督に就けば劇薬になる。不振にあえいでいたマンチェスターUにとっては適任だったのだろうが、「ついてこない選手はいらない」というチームマネジメントなので長くは続かない。だから「渡り鳥」のような監督生活を送っている。

(元J1仙台監督)

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