18歳の大器・大坂、テニス世界女王へ第一歩 - 日本経済新聞
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18歳の大器・大坂、テニス世界女王へ第一歩

メルボルンで開催中のテニスの全豪オープンで、予選上がりの女子選手が大会前半の話題をさらった。世界ランキング127位の18歳、大坂なおみ。四大大会初出場ながら、男子選手にも引けを取らない速さのサーブを武器に3回戦まで進み、海外の解説者らを「将来、必ず世界のトップ10に入る」と驚かせた。母親が日本人、父親はハイチ系米国人で日米両国籍を持つホープ。目指すは「世界ランキング1位」と「四大大会を何度も勝つこと」だ。

サーブスピードは世界トップクラス

19日の1回戦でドナ・ベキッチ(クロアチア)を6-3、6-2で破り、21日の2回戦は世界ランク21位で第18シードのエリーナ・スビトリナ(ウクライナ)に6-4、6-4で勝つ殊勲。3回戦で2012、13年全豪覇者のビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)に完敗したものの、初出場とは思えぬ堂々たる戦いぶりが光った。

とりわけ見る者の度肝を抜いたのがサーブで、1回戦で最速195キロを記録。女子プロテニス協会(WTA)がまとめた昨年のツアー全体のランキングでは9位タイの2選手が197.9キロだったから、サーブのスピードに関しては既にワールドクラスといえる。

180センチの長身。ただし、プレースタイルはパワー一辺倒というわけではない。ミスをしないことを心掛け、時に緩く、深いボールを丁寧にコートに入れる。ラリーの中で甘い球がくれば、ここぞとばかりに強打を放ってポイントを奪う。3回戦で大坂を下したアザレンカは「正直、驚かされた。強打(ばかり)がくるかと思ったら、違った。慣れるのに少し時間が必要だった」。

「学習能力高い」とコーチが太鼓判

予選では強打が多かったが、本戦では相手ごとに作戦をやや変えてきた。ベキッチの強打にミスが多いと分かると、つなぐ球を多用、スビトリナは相手の力を利用するタイプと見極めると、緩い球でミスを誘った。吉川真司ナショナルチーム女子担当コーチは「大坂は経験から学習する能力が高い。大会を勝ち抜く中でも(いろいろなことを)吸収して、成長していける。予選から何試合もしてきた全豪はその典型」と話す。

まだコートの中央に球が集まる傾向がある。女子トップ級の展開力を持つアザレンカに、そのすきを突かれてしまった。2週間にわたって試合をして、腹筋を痛めた状態で力を出し切れなかったが、「負けた方が学ぶことも多かったと思う」と話した。

日本生まれの大坂は3歳のころ、大阪市のコートで1歳上の姉とテニスを始めた。より良い環境を求めて両親とともに、4歳で米フロリダ州マイアミ近郊のフォートローダーデールに移り住んだ。四大大会18度優勝のクリス・エバート(米国)の故郷でもある。

あえてジュニアの大会には出ず

フロリダ州には数々の有名なテニスアカデミーがあるが、大坂は入らなかった。父レオナルドさんは、ビーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹(米国)の父で、自分と同じくテニス経験のないリチャードさんの姉妹の育て方を参考にした。公営コートを転々としながら、レオナルドさんが特訓。リチャードさんがウィリアムズ姉妹を「思い切り強打しなくなる」からとジュニアの大会に出さなかったように、レオナルドさんも「低いレベルでプレーしてほしくない」と出場させなかった。

大坂が初めて女子テニス界で注目されたのは14年、米スタンフォードで行われた大会で、11年全米オープン女王のサマンサ・ストーサー(オーストラリア)を破った時だ。「その試合は見た。若くて、とても攻撃的で危険な選手だと思った」とセリーナ・ウィリアムズ。

ただ、しばらくは大坂の名が広く知られることはなかった。国際テニス連盟(ITF)とWTAのルールで18歳未満の選手が出場できるプロの試合数が限られるうえ、ジュニアの試合にも顔を出さないからテニス関係者の目にとまる機会が少なかったのだ。吉川コーチは「1試合でかかるプレッシャーが大きく、結果が出にくかった」と振り返る。

昨年10月に18歳になってからは「のびのびとプレーできるようになり、良さが出ている」と同コーチ。ここに来ての飛躍の理由について、大坂も「新しいことはしていない。18歳になってたくさん試合に出られるようになったのが大きい」と話す。

全米協会に支援要請も断られる

ジュニアの大会に出ず、いきなりプロ大会から始める考えは、ウィリアムズ姉妹が16、17歳当時、「クレージー」と言われた。姉妹の活躍で一理あることは証明されたが、まだまだ皆無に等しいケースだ。「自分のレベルを知り、人々に注目されるためにはジュニアに出た方がいい。スポンサーやコーチを見つけるためのコネクションを得られる。父は優秀なコーチでいろいろと考えている人だから、私はラッキーだったけれど」とセリーナが話すように、ハンディもある。

レオナルドさんは大坂がツアーを回り始める前、全米テニス協会(USTA)にサポートを打診したが、けんもほろろだったという。ならばと東レ・パンパシフィック・オープンの予選で来日した13年、母とともに「日本人でやっていきたい」と日本テニス協会(JTA)に伝えた。JTAの関係者が品定めにと大坂のプレーを見たところ、将来性の高さに「全員が『既にすごい』とサポートを決めた」(吉川コーチ)。

日本代表で全面サポート受ける

環境が整った味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)で定期的に練習できることに加えて、何より大きいのは遠征先でのサポート。ツアーを回るには多額の費用がかかるだけに、JTAがツアーに定期的に派遣するコーチ、トレーナーらで編成されるサポートチームの存在は心強いものとなっている。

ストーサーを倒したころは「がむしゃらに打つだけで安定感がなかった」と大坂。最近は父から「(確実に)コートに入れろ」と口うるさく言われ、気をつけている。

もっとも、安定を求めるあまりこぢんまりしては、せっかくのパワーが持ち腐れになる。「昨年末、1カ月くらい目を離したら、迫力がなくなっていた。彼女の魅力はスピードとパワー。それを損なってはいけない」と吉川コーチ。大坂は「安定とパワーのバランスが大事」とのアドバイスを心にとめ、全豪での躍進につなげた。

大坂が憧れるのはスタイルの似たセリーナだ。ただし「セリーナと正反対の、冷静で感情の起伏が少ないロジャー・フェデラー(スイス)も好き」という。コートでの落ち着いた雰囲気は、むしろフェデラーと同じタイプかもしれない。「怒りを見せて何かが変わるわけじゃない。勝っても大興奮するタイプじゃない。喜んではいるけれど」

リオ出場の可能性に「プレーしたい」

Jポップを好み「心情的には日本人に近い」こともあってか、日本代表は「自分には合っている」と感じる。「みんな親切で居心地がいい。街はきれいで、食事もおいしいし」。日本語での会話は上達してきているものの、記者会見は「English Only(英語だけ)」と依頼する。「速いスピードで話しかけられると、質問が聞き取れないことがある。間抜けな答えをしそうだし、間抜けに思われるのは嫌なの」

かつては大坂サイドからの支援の打診を断ったUSTAだが、全豪での活躍を受けて姿勢が一変。ここに来て米国女子代表のメアリー・ジョー・フェルナンデス監督らがものすごい攻勢をかけてきているという。

「でも、彼女が日本を選んだ。今の日本は選手にとって、一番フレキシビリティー(融通性)が高い国だと思う」とJTAの川廷尚弘常務理事は話す。「錦織圭選手のように海外を拠点にしてもNTCを利用できるし、それほどランキングが高くなくてもスポンサーは他の国よりは見つけやすい。その点、米国はケガなどで少しでも成績が下がるとシビアですからね」

今季の目標を「世界ランキングのトップ100入り」にしていた大坂だが、全豪の活躍で実現が目前になり、「トップ50入り」に上方修正した。6月6日に発表される全仏オープン直後のランキングまでに達成すれば、「ニューカマー」向けの例外規定の適用でリオデジャネイロ五輪の出場も見えてくる。

「えっ、本当? 知らなかった。希望が広がった。プレーしたい」と大坂は目を輝かせた。

(原真子)

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