2019年1月20日(日)

相手に応じ融通むげ 柔道・高藤直寿(上)

2016/1/30 6:30
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全7階級制覇――。今夏のリオデジャネイロ五輪で柔道男子の日本代表監督の井上康生が掲げる壮大な目標には裏付けがある。前哨戦である昨年の世界選手権で金3つを含むメダル7個という充実の戦果を得たこと。しかもその中に、頂点に近い一人の男が含まれていないことが上積みの根拠なのだろう。

12年5月以降の国際大会で敗北はわずか2度しかない

12年5月以降の国際大会で敗北はわずか2度しかない

60キロ級の2013年世界王者、高藤直寿(22、東海大)。160センチの小柄な体に秘めるのは跳ね回るようなバネ、臨機応変の反射神経、そして外国人への無類の強さだ。

相手を徹底研究、畳の上で動き予測

12年5月以降の国際大会で敗北はわずか2度。昨年は世界選手権代表を逃したが、強豪が集うマスターズとグランドスラム(GS)パリ、東京両大会を圧勝し、世界ランク1位に君臨する。

「一言でいえば天才。高藤の柔道は誰にもまねできない」。数々の名手を指導してきた東海大監督の上水研一朗をして、そのスタイルは特異なものと言わしめる。

両手で相手の襟と袖をしっかりつかみ、間合いをとって「いざ勝負」というのが日本柔道の伝統的な型だ。高藤はそんな常識にとらわれず、奇襲やオリジナル技を織り交ぜて相手を攻略する。

といっても単なる変則とは違う。本人いわく「相手のちょっとの動きで次の技まで予測して、その先にいけるのが自分のストロングポイント(長所)」。相手の出方に合わせて最適の対応を導き出す融通むげの柔道だ。

そのための重要な資質がある。「相手を研究するのが大好き。試合をやるより見る方が好きなんです」。ライバルの強みと弱みを見極め、いかに戦うべきかイメージを膨らませて畳に上がる。

「こういう感じになったら絶対こっちに来る、というのが思い浮かぶ。それで、こう来たらこうする、駄目ならこっち、という引き出しをたくさんつくっておく。手詰まりになったら勝てないので」。昨年12月のグランドスラム東京大会決勝でもそれは発揮された。

肩越しに背中をつかまれる不利な組み手になった瞬間、高藤の体がグッと沈み込む。「相手はチャンスと思うから防御がゼロになる。ピンチだけど、僕にとってもチャンス。力を入れて技を掛けてくる一歩先に入れば投げられると思っていた」。想定通りの大内刈りでバタンと押し倒した。

やったことない技もいきなり実戦で

相手も研究してくる中で、裏の裏をかく作戦まできっちり立てておく。そこまでは常人でも考えつくところだが、驚くべきはその後だ。「(考えた作戦は)乱取りでも試さないですね。試合でパパッとやっちゃいます」

「やったことのない技を試合でいきなりやるのは勇気がいる。でもそれができるのが僕の強み」。頭で描くイメージと実戦で決めてみせること。その間にある大きな溝を軽々と越えてしまうところに天賦の才がある。

代表監督の井上も驚嘆する。「相手が右に力を入れるなら左に瞬時に切り返して投げる。ああいう動きは彼特有の勝負勘、柔道スタイル」。次元の違う強さというべきだろう。

(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊1月25日掲載〕

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