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前田健太の米ドジャース移籍で考えたこと

広島・前田健太の米ドジャース移籍が決まった。長年の希望がかなったことは喜ばしいし、日本代表としてぜひとも成功してほしいところだが、厳しい世界であることにも変わりはない。出来高払いの比率が高い契約にもドジャースの期待と懸念が表れている。

ドジャースの入団会見で、ロバーツ監督(左)と握手する前田=共同

相次ぐ故障、日本人投手への不安呼ぶ

前田は8年契約。ベースとなる年俸総額が日本円で30億円弱なのに対し、出来高払いの部分が満額で5倍近くもあるという。「イレギュラー」な部分があったという身体検査に加えて、ダルビッシュ有(レンジャーズ)や田中将大(ヤンキース)といった日本を代表するエースが渡米後に相次いで故障していることも、日本人投手への不安を膨らませているのだろう。

故障が起きる理由はいろいろと考えられる。ボールの違い、硬いマウンド、中4日が基本の登板間隔などはよく指摘されている。僕が大きいと思うのは、日本と比べた相手打者の力量の差だ。日本にいた頃の田中はメリハリの効いた投球をしていた。走者のいない場面や下位打線では力をセーブしておいて、勝負どころで全力を出す。よく「ギアを上げる」といわれた。ボールの違いはチームメートの僕たちにもはっきりと見て取れた。

ところが、大リーグではギアを落とせる局面が極端に減る。下位打線でも日本のクリーンアップに勝るとも劣らないパワー自慢の米国では、日本なら単打で済む甘い球が簡単に長打やホームランになってしまう。時速300キロを出せる1万回転のエンジンを積んでいても、ずっと300キロでは走れない。それでもスピードを落とせなければ、故障が起きやすくなるわけだ。

前田の契約形態、日本の球団も参考に

前田の契約形態には賛否両論あるかもしれないが、僕はいいと思っている。長年の実績がある選手にはその分のベースアップがあっていいが、大リーグでの前田のキャリアはこれから。ローテーションをきっちりと守れば取り分が大きく増えるのだから、これはやりがいがある。日本の球団が外国人選手を取るときにも参考にしてほしいぐらいだ。ベースは5000万円、活躍すれば2億円。ハングリー精神旺盛な外国人には持ってこいだし、球団からしても可能性を感じる選手を積極的に発掘できる。日本でそこそこ実績のある外国人が複数チームを渡り歩く「リスク回避最優先」のチームづくりより、よほど面白いではないか。

前田のドジャース入りは移籍のルールについて改めて考える機会にもなった。海外フリーエージェント(FA)を取得していない前田は、米国の獲得球団から広島に譲渡金2千万ドルが入るポスティング制度を使った。ポスティングの問題点は、移籍を認めるか認めないかのスタンスが球団ごとにバラバラなことだ。

現在のドラフトでは選手が球団を選べない。ポスティングを認めてくれる球団と認めない球団に入る可能性が運任せというのは、やはりフェアではないだろう。ポスティングにかけるタイミングが球団の裁量に委ねられているということにも違和感がある。例えば広島は前田の渡米希望を今オフも拒否する権利があったが、仮にそうした場合、前田は高いモチベーションを持ってシーズンに臨めただろうか。簡単ではないと思う。本人の移籍願望が周知の事実となれば、チームメートとの間に溝が生まれる恐れもある。

ドジャースのシャツを着た広島の大瀬良大地(左)と、和やかな雰囲気で練習する前田=共同

ポスティング制度に明確なルール必要

ドラフトの逆指名制度を復活させろ、などという気はさらさらない。逆指名は「戦力の均衡」というドラフトの趣旨に反した札束による争奪戦を生む。望ましいのは、ドラフトでは大リーグのように下位球団から優先権が与えられるウェーバー方式を採用したうえで、球団次第のポスティング制度に明確なルールを設けることだ。例えば「在籍5年以上で出場試合数などの規定を満たした選手がポスティングを希望した場合、球団に拒否権はない」といった具合。これなら球団ごとの不公平はなくなるし、FA前に移籍する代償として譲渡金という"お土産"が球団にも入ることになる。

FAについても触れておきたい。今オフ、長年ロッテの主力として活躍してきた今江敏晃がFAで楽天に移籍した。残るか移籍するかは本人の決断だからどちらでもいいのだが、ロッテが事前に「FAしての残留は認めない」と公言していたのは明らかにおかしい。同じスタンスの球団はほかにもあるが、これはつまり「選手の権利行使を認めない」と主張しているわけだ。

僕も中日時代、FA宣言をして横浜ベイスターズ(現DeNA)と交渉したことがある。当時の僕はチームからの期待度が薄くなってきたのを感じ、居心地が悪くなっていた。頼られ、期待されることはプロ野球選手にとって大きな力になる。自分を必要としてくれる球団がほかにあるのなら、その話を聞いてみたいというのは至極まっとうなこと。少しでも多く年俸をくれるチームでプレーしたいという動機も当たり前のことだ。

禁止されるべきは「FA残留禁止令」

当時の山田久志監督に「一緒にやろう」と声をかけてもらった僕は、最終的に中日に残留した。FA残留を認めない球団からすれば「残るなら宣言する必要はないだろう」という言い分なのだろうが、宣言したくてもできずに残留するのと、いろいろな球団の話を聞いたうえで残留するのとでは意味合いがまるで違う。禁止されるべきなのは選手の「FA残留」ではなく、球団の「FA残留禁止令」の方だろう。

(野球評論家)

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