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肉弾戦のスコットランド GK川島、進化の好機

フットボールライター 森昌利

「サッカー発祥国」のイングランド人は、自国のフットボール精神をよく猛犬ブルドッグに例える。相手が誰であろうとひるまないどう猛さ。たたかれてもたたかれても前に出る愚直なまでの猪突(ちょとつ)猛進さ。そんなスピリットを尊ぶのだ。

イングランドのフットボールは、かつてノーガードの果たし合いだった。両チームがひたすらゴールを目指すゲームだった。殴られても殴られても前に出る。5-1、5-2どころか、6-3、6-4なんてスコアも珍しくなかった。

1960年代までのイングランド1部リーグの優勝チームは年間100ゴールを奪い、一方で70失点を記録した。FWがずらっと5人並ぶサッカー。最終ラインは現在のSBにあたる2人がやや間隔を詰めて守る寂しいもので、DFは毎週辱められる存在でしかなかった。

しかし、昨今のプレミアリーグは守りが堅い。4人、もしくは5人のDFに、守備的に優れたセントラルMFも加わり、組織的に守る。

24クラブがひしめくチャンピオンシップ(2部リーグ)に降格すればクラブ収入は激減する。とすれば、引き分けの勝ち点1はまさに値千金。残留争いには当然、得失点差が絡むので、プレミアリーグの監督たちは失点を防ぐことに苦心する。

「いにしえ」の打ち合いサッカー健在

ところがスコットランドには、現在のイングランドからすると「いにしえ」ともいえる打ち合いのサッカーが存在している。金満で負けを極端に恐れるイングランドのスター軍団をせせら笑うように、打たれても打たれても前に出るフットボールをいまだに展開する。

日本代表GK川島永嗣のホームデビュー戦はまさにそんな試合だった。

1月15日。スコットランド最強のセルティックを本拠地タナダイス・パークに迎えた一戦。最下位にあえぐダンディー・ユナイテッドは1-4の大差で敗れた。

そんな点差で負ければGKはうなだれるものだ。しかし、報道陣が待ち受ける談話室に姿を現した川島の表情は、本当に生き生きとしていた。肌つやが良く、その瞳は大きく見開かれ、輝いていた。

もちろん川島は「自分のパフォーマンスには全く納得していない」と話し、悔しさをにじませた。しかし、時折うれしそうな笑顔も浮かべた。

それはたぶん、果たし合いのようなストライカーとの1対1の勝負の連続に、「オレはまた欧州の真剣勝負の場に戻ってきた」という思いがにじみ出た笑顔だったのだろう。

この試合の8日前、川島は晴れてダンディーUへの入団会見を開いていた。

昨年11月初旬に契約の合意はなされたが、就労ビザの取得に2カ月もかかった。昨年末にビザがようやく下りて、12月30日に英国入り。元日の練習に参加しただけで翌2日のリーグ戦に先発した。

この川島デビューは在英の日本人記者を大いに慌てさせた。誰ひとりとして現場には行っていなかった。岡崎慎司のレスターの試合に訪れていた日本人記者は、テレビモニターに映し出された川島の姿を見てぼうぜんとした。

まさか練習に1日合流しただけで、デビューするとは思わなかった。まだ入団会見も開かれていなかったのである。しかもこの試合は地元ダンディーとのダービーマッチだ。まさか半年も実戦から遠ざかっている川島が登場するとは思えなかった。

監督の目では若手2人より川島が上

ダンディーUはこの試合、1点を先行しながら2点を失い、1-2の逆転負けを喫した。川島は41分の同点弾の元凶とされた。ゴール前へのFKに対応し、川島は前に出たが、パンチングが弱く、こぼれ球をヘミングスに決められた。英BBC電子版はこの失点を「川島のミス」と伝えた。

いいプレーもあった。6分には味方のバックパスにヘミングスが飛びつきそうになったところを間一髪でクリア。68分には1対1の状況からマックゴエンが放った至近距離のシュートをはじき出すスーパーセーブもあった。

ところが62分、これもまたFKからの流れだったが、ロスが放ったシュートが味方に当たって角度が変わり、シュートコースにしっかり反応していた川島をあざ笑うかのようにゴールネットを揺らした。この2点目が決勝点となりダンディーUは敗れた。

この敗戦の5日後、すでにデビューしてしまった後に開かれた異例の入団会見。「なぜ川島のデビューを急いだのか」の問いに、パーテライネン監督はこう答えた。

「その決断は難しくもあり、また難しくもなかった。試合から遠ざかっていたが、プロ意識の高い彼が『できる。100%フィットしている』と言った。彼の経験はこの試合で重要だったし、エイジのクオリティーを考えれば決断は難しくはなかった。もちろん、先発の入れ替えはいつでも難しい面がある。これまで先発だった選手には面白いことではないからね」

48歳のフィンランド人監督が、チームの不振の原因に若手GK2人の経験不足があると考えているのが明確に伝わってきた。ダンディーUはこの会見の時点で21試合を消化して41失点。もちろんリーグ最多の失点数で、得失点差もリーグ最悪のマイナス23だった。

「メンバーチェンジは難しい」と言いながら、半年間実戦から離れている川島を先発させたのは、監督の目から見て、日本代表GKと2人の若手GKの能力差が歴然としていたからだろう。

ダービーマッチ、ひるむことなく臨む

一方、川島に不安はなかったのか。「不安は一切なかった。試合から遠ざかっていても『やれる』という感覚があった。それに、時間をかけて自分の状態をもう少しいいものにしてから試合に出る、と考えるチーム状況でもなかった」

2010年からベルギーのリールス、スタンダールで経験を積み、ハイレベルの試合を多数こなしてきた川島は、積み重ねた試合勘が「急になくなるということはない」と感じたという。だから、ダービーマッチにもひるむことなく臨んだのだ。

ただし、スコットランドのセットプレーで体験した肉弾戦は、多少予想を上回るものだったらしい。「想定外といえば、最初のCKから相手が密着してきて、前に出られない状況にしてきた。その時点で、こういうもんなんだなと思った」

このスコットランドの激しさが今後の自分を鍛えることになるという。「GKとしては打たれ強くなる。ダンディー戦でペナルティーボックス内の強さは他のリーグにないものだと思った。それに、シュートは練習でもスキあらば迷わず打ってくる。そういう意味では、一人のGKとして、(さらなる)強さを身につけられると思う」。川島がスコットランドへの移籍を決断した理由の中には、「さらに強くなりたい」という思いも秘められている。

9日には3部リーグのエアドリーオニアンズとのスコットランド・カップで1-0の勝利を収め、ホームデビューとなったセルティック戦は1-4の大敗。

21分、セルティックのストライカー、グリフィスと1対1の状況となり、至近距離から股を抜く強烈なシュートを決められた。この股抜きゴールで川島はカッとしたのか、6分後にはFKに対応し飛び出したもののボールに触れず、無人のゴールにヘディングシュートを突き刺された。その後、ダンディーUはスコットランド王者を相手に愚直に攻め上がり、1点を返したが、後半に2点を失った。

さらなる強さ備え、日本代表復帰も

川島は「格上相手にスペースを与えすぎた」と話し、ノーガードで攻め続けた味方の戦術に敗因を見いだしていたが、「こういう中でやることにワクワク感もある。このレベルでプレーできることが成長につながる」と続けた。

そんな川島について、パーテライネン監督は「エイジはフィットしている。問題ない。経験あるGKなので、これからチームを助けてくれる」とまくしたて、日本代表GKをかばった。

前掛かりなサッカーを展開し、点を取り合うスコットランド1部リーグでは、どうしても守備に穴ができやすく、GKにとってタフな場所であるのは間違いない。

しかし、川島は実戦を重ね、コンディションを上げていくはずだ。試合勘を取り戻せば、スコットランドの攻撃的な試合の中でヒーローになるだろう。そして、いま以上の強さを備えたGKに進化し、日本代表に復帰するはずだ。

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