B8には何が… 知られざる地下の背比べ

B1、B2、B3、B4……。エレベーターの文字盤が、地下へ地下へと延びていく。地上部分は4階なのに、地下は8階まである。東京・永田町の国立国会図書館新館は、地下約30メートルと東京で最も深いビルだ。
中央の吹き抜けが目を引く。その名も「光庭(ひかりにわ)」。天井の窓から光が差し、地下空間を照らす。地下で作業する人に安心感をと設計された。地下8階から見上げると、神殿のような趣がある。

地下はすべて書庫で、新聞や雑誌を中心に1600万点以上の資料を収容している。1986年の完成から30年。既に棚の9割が埋まった。
紙の資料は水が大敵。外壁などに大がかりな防水工事を施し、漏水に備えトイレもない。火災時には水が出るスプリンクラーではなく不活性ガスで消火する徹底ぶりだ。
地下深くに作ったのは、景観に配慮するため。固い地盤に囲まれ、地震にも強い。東日本大震災では地上の書庫から大量に本が落下したのに、地下は無事だったという。
東京都港区にある都営地下鉄大江戸線の六本木駅。地上から階段やエスカレーターを乗り継ぐこと7回で、ようやくホームにたどり着く。階段だと166段もある。
深く潜る後発の路線

大江戸線六本木駅は、東京で最も深い駅だ。地上からホームまでの深さは42.3メートル。ビルに換算すると、10~14階分に相当する。駅の開業は2000年と後発で、他の路線を避けるため地中深くに潜った。
駅ではなく地下鉄のトンネル全体ではどうか。最深部はやはり大江戸線の飯田橋駅―春日駅間で、49メートルにもなる。
地下鉄以外の路線でも地下にホームのあるところは少なくない。例えばつくばエクスプレスの秋葉原駅は地下33.6メートル。東京駅はJR京葉線が32メートル、総武線が24メートルだ。
ただ、深さの数字は基準で変わる。都営地下鉄やJR、つくばエクスプレスは地表からホームまでを測っている。一方、東京メトロはレール面まで。このため結果が1メートルほど違ってくる。
地表からではなく海抜で考えると、結果はさらに変わる。海抜で最も深い駅は、半蔵門線の住吉駅でマイナス33メートル。路線全体だとりんかい線大井町駅から品川シーサイド駅間に同43.76メートルの場所がある。海抜ベースではここが最も深い。これに対して大江戸線六本木駅は同11メートルにすぎない。新宿の損保ジャパン日本興亜本社ビルの地下6階も、海抜でみるとプラスだ。

地下事情に詳しい都市地下空間活用研究会の主任研究員、粕谷太郎さんは「東京は意外に起伏が激しい。六本木など小高い場所にある駅は、地表面からの深さでは大きな数字になる」と話す。普段は高低差を感じにくいが、地下の数字が隠れた地形をあぶり出す。
一般の人が体験できる深さはどこまでなのか。調べてみると、東京の最深部は道路だった。首都高速中央環状品川線に、地上から55メートルの場所がある。東京ではないが、川崎市と千葉県木更津市を結ぶ東京湾アクアラインは、最深部が海面から57メートルある。どうやらこのあたりが限界のようだ。



「大深度」に計画も
人類は古くから地下を利用してきた。有名なのがトルコの世界遺産、カッパドキア。深さ80メートルに及ぶ地下都市だ。日本でも江戸時代、貯蔵場所として地下が使われた。
バブル期、地下は時代の最先端に躍り出た。建設各社はこぞって地下都市構想を発表。「ジオフロント」と呼ばれ、地下200メートルに数十万人が居住するプランなどが打ち出された。
バブル崩壊とともに消えた開発構想は、形を変えて動き出している。地下40メートルより深い「大深度地下」を使って、道路や鉄道を建設する計画だ。

代表格がリニア中央新幹線。路線の大半が地下を走り、品川駅は地下40メートルに設置する予定だ。周辺住民の反対で凍結していた東京外かく環状道路(外環道)の練馬―世田谷間も20年の完成を目指して動き出した。地下40メートル超を通る計画だ。
まだまだ深まりそうな地下の背比べ。その先にどんな未来が待っているのだろうか。
(河尻定)
[日本経済新聞朝刊2016年1月14日付]
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