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東京五輪大型施設 「新国立騒動」の裏でひっそり進行

東京大改造マップ2016-2020(1)

日経アーキテクチュア
2015年12月、ひとたび白紙撤回となった新国立競技場の設計内容と整備事業者が改めて決定した。一方で2020年の東京五輪は、試算によると大会など全体の運営費が予算を大幅に超過するとされる。その右往左往に注目が集まる陰で、東京五輪関連の大型施設の建設が"ひっそり"と進行している。

新設される五輪競技会場のうち、最も整備が進んでいるのが武蔵野の森総合スポーツ施設だ(図1)。メーンアリーナ棟とサブアリーナ・プール棟から成り、延べ面積は約4万9100m2(平方メートル)。五輪では、バドミントンと近代五種のフェンシングが、メーンアリーナ棟で行われる。

メーンアリーナ棟は曲面を描く金属パネルで全体を覆い、サブアリーナ・プール棟は陸屋根の上に屋上広場を設ける(図2)。「く」の字を描く形で2棟を配置し、道を挟んで東側にある既存の東京スタジアム(味の素スタジアム)とデッキで結ぶ。東京スタジアムも五輪会場の1つで、近代五種とラグビー、サッカーが行われる。

この施設は、五輪の開催決定前から東京都が「多摩地域の拠点となる総合スポーツ施設」として建設を予定していた。進行が早いのはそのためだ。設計は公募型プロポーザルで選ばれた日本設計。施工はメーンアリーナ棟が竹中工務店・奥村組・株木建設・白石建設・東起業JV、サブアリーナ・プール棟が鹿島・東急建設・TSUCHIYA・京急建設JVが担当する。総工事費は351億円だ。

両棟とも躯体の鉄骨がほぼ全貌を現した。2017年1月竣工を目指し工事が進んでいる(図3)。

[注]この原稿は2015年10月中旬時点の取材を基に、以降の動きを加筆した。

「減築」が目玉の水泳会場

いつの間にこんなに進んでいたのか──。そう思った方は多いだろう。「新国立競技場問題」に関する報道が過熱する一方で、それ以外の競技施設にはこれまでほとんど世間の関心が払われてこなかった。施工段階に入っているものは取材時点でこの武蔵野の森総合スポーツ施設だけだっただが、調べてみると、工事予算が上位の10件は、すべて基本設計者が決まっていた(図4)。まずは東京都が建設するものから現況を見ていこう。

都は2015年10月16日、恒久の競技施設となる「オリンピックアクアティクスセンター」「有明アリーナ」「海の森水上競技場」の3施設について、実施設計・施工一括(デザインビルド、DB)方式による一般競争入札を公告。3施設の基本設計の概要を明らかにした(図5)。さらに2016年1月14日には、それぞれの落札者を決定した。

なお、DB方式はいずれも技術提案型の総合評価落札方式を採用している。設計段階から建設会社の技術力を活用し、工期内に確実に工事を完了させる狙いだ。入札に参加するには、異業種による建設共同企業体(JV)を結成する必要がある。専業の設計事務所は、協力会社として設計業務をJVから受託できるが、 構成員にはなれない。基本設計を担当した企業は、発注者支援の業務などを手掛ける「DBアドバイザリー業務」を担うため、設計協力会社にはなれない。

いずれも資機材の調達や労働力の確保で異業種JVを生かした提案が求められる。12月に技術提案書の提出者に対してヒアリングを実施し、学識経験者の意見を踏まえて2016年1月に落札者を決定する方針だ。

オリンピックアクアティクスセンターは、50×25mのメーンプールや、同規模のサブプール、25×25mの飛び込みプール、トレーニングルームなどを備える水泳会場だ(図6)。大会時の座席数は約2万席で、五輪開催後は5000席に減築する。落札額は予定価格の538億円(実施設計費も含む)から469億円に低減。工期は2019年12月まで。基本設計は山下設計が担当した。

五輪開催後は、国際水泳競技場としてだけでなく、都民のための水泳場としても活用する。多様な目的に使えるよう、メーンプールとサブプールの床や壁を可動式にする。

五輪後の用途に配慮

バレーボール会場の有明アリーナはバレーボールコート4面を配置できるメーンアリーナとバスケットボールコート2面を設置できるサブアリーナなどから成る(図7~8)。落札額は予定価格の361億円とほぼ変わらず。工期は2019年12月まで。基本設計は久米設計が担当した。

五輪開催後は国内外の主要な大会の会場として利用するほか、コンサートなどの各種イベント会場としても活用する。そのためメーンアリーナの床はコンクリート製とし、機材搬入用の大型車が通れるようにする。

ボート・カヌー会場となる海の森水上競技場は、基本設計をパシフィックコンサルタンツが担当。両端に締め切り堤をつくることで競技に適した静かな水域を確保する(図9)。落札額は予定価格249億円とほぼ変わらず。工期は2019年3月まで。大会後は競技大会だけでなく、水辺を生かしたイベントやレクリエーションにも活用する方針だ。

3施設の整備費は2013年の招致段階では計663億円と試算していたが、建設物価の高騰などによって2000億円以上に膨らんだ。舛添要一都知事は2014年6月に五輪会場の計画見直しを表明。2014年11月時点でオリンピックアクアティクスセンター683億円、有明アリーナ404億円、海の森水上競技場491億円の計1578億円と見積もっていた。

2015年10月16日の定例会見で舛添都知事は、「工事中のセキュリティー対策費や追加工事が発生した場合の予備費などを含め、それぞれ683億円、404億円、491億円の範囲内で収まるようにする方針だ」と述べた。

専門家や民間企業に意見聞く

都の施設も工事費増で新国立競技場の二の舞になるのではないか──。新国立競技場の実施設計案が撤回されてからは、そんな報道もちらほら出始めた。

それもあってか、都は2015年10月に入り、これから工事を予定している7つの競技施設の基本設計・実施設計に関して外部の意見を聞く「都立競技施設整備に関する諮問会議」を設置した。委員は建築家の工藤和美東洋大学教授や土木分野の岸井隆幸日本大学教授など7人。

都はそれとは別に、新設する競技施設の「後利用」について民間の知恵を借りる検討作業も始めた。DB方式を採用する3施設にカヌー・スラローム会場(葛西臨海公園)を加えた4施設を対象に、施設運営計画策定支援事業者を民間から公募(図10)。10月2日、有明アリーナの支援事業者に東京ドームを選定するなど、それぞれの支援事業者が決まった。

(日経アーキテクチュア 宮沢洋・橋本かをり)

[『東京大改造マップ2016-2020』の記事を再構成]

[参考]日経BP社は2016年1月6日、ムック「東京大改造マップ2016-2020」を既刊シリーズの全面刷新版として発行した。東京五輪開催に向けて活気づく東京の都市改造の最新動向を詳細な地図を交えて分かりやすく解説。「晴海・豊洲・有明」を含む都内10エリアと横浜における大規模プロジェクトの建設状況などを整理した。

東京大改造マップ2016-2020 (日経BPムック)

著者 :
出版 : 日経BP社
価格 : 1,296円 (税込み)

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