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静かなブーム「薪ストーブ」 後悔しないための心得

冬に備える家づくり 2015-2016(6)

日経アーキテクチュア
昔懐かしい薪ストーブを自宅に置きたい――。情緒豊かで環境にやさしい薪ストーブが静かなブームになっている。しかし、実は薪ストーブは"手ごわい"暖房器具だ。住宅の省エネルギー性能を客観的に調査・分析している気鋭の科学者である東京大学准教授の前真之氏が、薪ストーブの使いこなし方を2回に渡って解説する。

かつて家の中のエネルギーの担い手は、なんといっても「薪(まき)」だった。囲炉裏の火が、煮炊き・照明・給湯・暖房といった住宅のすべての用途を賄っていたのである。

木は大気中の二酸化炭素(CO2)を光合成により炭素として固定化し、幹や枝をつくっている。それを切り出した薪は、いわば「太陽の缶詰」だ。幸いにして、日射に恵まれ湿潤な日本において木は容易に成長してくれるので、薪の入手に困ることはなかった。実は現在でも中国やインドなどの農村において、薪は依然として主要なエネルギー源である(図1)。決して、過去の遺物などではない。

図1 燃料種別に見た各国の世帯当たりエネルギー消費量(住環境計画研究所調べ)

こうした、薪や藁(わら)といった植物由来の燃料のことを「バイオマス」と呼ぶ。バイオマス燃料を燃やすとCO2が排出されるが、そのCO2 はもともと植物が吸収して光合成により炭素として蓄えていたもの。「木が大気中のCO2を吸う⇔薪が燃えてCO2を出す」というプロセスを繰り返すので、植物が元気に育っている限り大気中のCO2 が増えることはない。これを、「カーボンニュートラル」と呼ぶ。

最近では、薪を燃料としたストーブが静かなブームになっている。環境にとって優しいことは間違いない。何より、薪が燃えて揺らめく様が醸し出す、あのなんとも表現できない「豊かさ」こそ、最大の魅力というものであろう。

こうした情緒豊かな薪ストーブを、ぜひ自宅に置いてみたいという人もいるだろう。ただし、一見原始的に見えるイメージに反して、薪ストーブはなかなかに手強いのだ。

薪かペレットか、それが問題だ

図2 木を粒状にした「ペレット」

木質バイオマスとして広く用いられているものには、薪のほかに「ペレット」がある。薪の「大きくてかさばり、燃やすのが大変」という欠点を解決し、使い勝手を石油に近づけるため、木をあらかじめ細かく砕いて小さな粒に整形したものがペレットである(図2)。

燃料を薪とペレットのどちらにするかは、大きな分かれ道だ。この違いはなかなかややこしいが、ここでは単純に一点、「電源の有無」で整理してみよう(図3)。

図3 同じバイオマスでもこんなに違う

多くの薪ストーブは電源が不要だ。着火の際にはマッチやライターで火をおこして新聞紙や小枝に種火をつけ、その上に薪を上手に並べて火を移していく。部屋の暖め方も、熱くなった本体の表面から「放射」と「自然対流」により自然と広がっていく。薪ストーブの表面が真っ黒なのは、放射率を上げて放射を効率的に行うためである。黒は、最も効率良く赤外線を放出できる色なのだ。燃料の補給も「手動」ということになるので、燃え尽きる前に新たに薪を追加する必要がある。

つまり、それなりに「手間がかかる」のだが、家族だんらんには最高だし、調理にも応用できたりと、幅広い楽しみ方ができる。

一方、大抵のペレットストーブは電源が必須だ。着火は電気ヒーターでペレットを加熱することで自動的に行う。燃料補給も自動で、電気モーターによりペレットが燃焼皿にコロコロと落ちる。電気ファンにより温風が吹き出すので、熱は主に「強制対流」で伝えられることになり、ストーブと名乗ってはいるものの、実態は「ファンヒーター」である。

対流メーンで放射の割合が少ないから、本体の色がホワイトやシルバーなど放射率が低いものでもOKなのだ。小さくハンドリングが良いペレットの粒を、電気で半自動的にコントロールでき、燃やした後に残る灰も驚くほど少ない。毎日の「メーン暖房」としても利用できそうである。

薪の用意は計画的に

図4 水分に熱を盗まれないよう、薪はカリカリに乾燥させるのが鉄則。それなりの保管場所が必要になる

使い勝手の面だけ考えれば、ペレットストーブがやや有利だ。ただし、薪に比べればペレット燃料は高価。ペレットを生産する工場が近くにないと燃料の入手も難しい。何より、炎を燃やしているという「満足感」が弱いのは否めない。情感という意味では、やはりリアルに木を燃やす薪ストーブが優っている。薪ストーブを選ぶのであればペレットと電気の恩恵を受けずに、「独力」で上手に木を燃やす必要が出てくることを覚えておこう。

最初のハードルは、薪を「計画的」に入手するコネの確保。そして薪は遅くとも「1年前」に割っておくこと。木はしっかり乾燥させることが不可欠なのだ。しけっていても薪は燃えるが、せっかく得られた熱の多くが薪の水分を水蒸気にするのに使われてしまい、薪を燃やした割には室内に熱が出てこない。効率が悪いのだ。薪を割って軒下に積んでおくのは、カリカリに乾燥させて水分に熱を"盗まれない"工夫なのだ(図4)。

1日の必要量は10kg以上

それでは、事前に割っておくべき薪の量を考えてみよう。薪1kg当たりの燃焼熱量は、20MJ(メガジュール)弱。同じ1kgの灯油の熱量は40MJ 以上なので、薪は灯油の半分程度の熱量しかない。つまり灯油1 缶(18L=14.4kg)分の熱量を得るには、約30kgもの薪が必要になる。

次に1日の暖房にどれくらいの薪が必要になるのだろうか。暖房に必要な熱量は家の断熱性にもよるが、冬であれば200MJ程度が一つの目安。前述の通り薪1kg の熱量が20MJ 弱なので、1日に10kg以上の薪が必要ということになる。

冬が何カ月も続くことを考えれば、10kg×100日=1000kgということで1トンのストックは必要ということになる。それだけの薪を前の年に割っておいて、ちゃんと乾燥する場所に保管し続けるということが、可能な家(と家族)は限られそうだ。

そもそも薪を割る作業自体、相当な重労働。三日坊主になったら、薪を「買ってくる」のも一案だ。ただし、薪は買うとなると結構高い。「どこかからもらって」「自分で割って」こそ薪はコストパフォーマンスが良い。

本当に楽をしたかったら、きちんと暖房負荷を減らす工夫をすること。外皮(外壁や窓など開口部)の断熱・気密は、薪ストーブにも同様に有効だ。熱負荷を半分に減らせば、必要な薪の量も半減する。薪ストーブの火が消えても、急には寒くならず安心だ。楽に快適に過ごしたければ、やっぱり断熱・気密の確保は不可欠なのだ。

イラスト:ナカニシミエ
前真之(まえ・まさゆき) 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。博士(工学)。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2003年東京大学大学院博士課程修了、2004年建築研究所などを経て、2004年10月、東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

(書籍『エコハウスのウソ[増補改訂版]』の記事を再構成)

[参考]「エコハウス」と聞いて思い浮かべる住宅のデザインや暮らし方の多くが、真の省エネにはつながっていない。東京大学で省エネ住宅を研究する気鋭の研究者が、実証データやシミュレーション結果をもとに、一般ユーザーや住宅関係者が信じて疑わない"エコハウスの誤解"をバサバサと切っていく。初版発行後に明らかになった新たな知見や、2020年の「省エネ基準義務化」などについて大幅に加筆した。

エコハウスのウソ[増補改訂版]

著者:前 真之
出版:日経BP社
価格:2,484円(税込み)

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