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独ボルシアMG、奇跡の復活劇 新監督がかけた魔法

スポーツライター 木崎伸也

歴史に名を刻む、奇跡の復活劇だった。

サッカーのドイツ1部リーグでボルシア・メンヘングラッドバッハ(MG)は昨季3位に躍進したが、今季は開幕から5連敗を喫し、スイス人のファブレ監督が辞任に追い込まれてしまう。急きょ、2015年9月21日、同クラブのU-23(23歳以下)チームを率いていたアンドレ・シューベルトが臨時監督を務めることになった。

欧州チャンピオンズリーグ(CL)の出場権を勝ち取ったチームが、過密日程に苦しんで力を発揮できなくなるのはよくあることだが、まさか最下位に沈むとは誰も予想できなかっただろう。

ところが、ここからボルシアの逆襲が始まる。

臨時指揮官、新監督の連勝記録に並ぶ

アウクスブルクに4-2で快勝したのを皮切りに、一気に6連勝。ブンデスリーガにおける新監督の連勝記録に並んだ。そしてさらにドイツ中を驚かせたのが、12月5日のバイエルン・ミュンヘン戦である。今季リーグで無敗だった王者相手に、3-1で圧勝したのだ。

その手腕が評価されないわけがない。臨時という肩書が取れて、晴れて正式監督となった。この44歳の監督が就任してからウインターブレークに入るまでに9勝2分け1敗という好成績を残し、気がつけば順位は4位にまで上がっていた。

シューベルトは選手としては4部止まりで、プロ経験はない。監督としてパーダーボーンを3部から2部へ昇格させたことはあったが、ザンクトパウリでは途中解任されている。この無名の指揮官は、いったい選手たちにどんな魔法をかけたのだろうか。

そもそも前監督のファブレの下で歯車が狂ったのは、主力の移籍が原因だった。パスのつなぎにたけたFWクルーゼがウォルフスブルクに引き抜かれ、1試合で16キロ走るMFクラマーがレンタル元のレーバークーゼンに呼び戻され、センターラインの顔ぶれが変わってしまったのだ。

その混乱を強めたのが、ファブレの細かすぎる指導だ。状況に応じて右足と左足のどちらで止めるかまでこだわり、ビデオミーティングでは選手の細かいミスを注意した。チームがうまくいっているときには効果的なアドバイスになるが、うまくいってないときは責任逃れのように聞こえてしまう。次第に雰囲気が重苦しくなって、選手が萎縮してしまった。ファブレが「自分はチームにふさわしくない」と言って自ら辞めたのも、選手の反発を感じたからだろう。

開き直り「本当に大切なことをやる」

辞任はケルンに敗れた翌日(9月20日)のことで、次のアウクスブルク戦(23日)までに実質的に約48時間の準備期間しかなかった。だが、時間がないがゆえに、逆にシューベルトは開き直ることができた。「やれることは限られている。その分、本当に大切なことをやるしかない」

21日の月曜日はオフの予定だったが、選手たちに連絡してクラブハウスに集めた。うまくいったプレーの映像を見せながら、前任者とは正反対に、とにかく褒めまくった。「君たちには、こんなに優れたところがある。自信を持ってやろう。局面の1対1での勝利、守備でのシュートブロック、相手ゴール前でのチャンスメーク、そのすべてが君たちに自信を植え付けるんだ」

また、選手たちに対して"タメ口"で話すことを認めた。通常、監督はヒエラルキーをはっきりさせるために、「Sie」(あなた)で呼ぶことを義務付けるが、シューベルトは「du」(君、おまえ)でいいと伝えたのだ。

さらに攻撃では「発想を生かしてほしい」と自由を強調した。セットプレーに関しても、ある程度のやり方を示すだけで、あとは自分たちで決めるように導いた。

この結果、アウクスブルク戦では攻撃陣が大爆発して前半だけで4-0に。後半に2点を返されたが、選手たちが自分たちの力を再認識する大きな勝利になった。

もちろんシューベルトがやったのは、選手を褒めたり、自由にしたりするといった、手綱を緩めることだけではない。戦術に関して、重要な規律を2つ求めた。

1つ目は、アグレッシブな守備だ。ブンデスリーガ公式サイトのインタビューで、シューベルトはこう説明した。

「今季のボルシアは守備のとき、あまりに受け身になりすぎていた。だから選手たちに、いつでもどこでもアグレッシブな守備をしようと訴えた。とにかく高い位置からプレスをかける。それによってDFラインを自分たちのゴールから40メートル離れたところまで押し上げる。どこからプレスをかけるかは、ちょっとした差のように思われるかもしれないが、大きな違いがもたらされるんだ」

試合途中の選手への「メモ」が話題に

2つ目は、速い切り替えである。「選手たちはせっかくボールを奪っても、確実につなごうとしすぎていた。そうではなく、まずは最前線の選手を見る習慣をつける。そして前に仕掛けている選手にパスを出す。もたもたしたら、切り替えのチャンスを生かせない」

ファブレ時代、ボルシアは正確なパス回しから、テンポアップして相手を圧倒する魅力的な攻撃を見せていた。だが、主力の移籍によって、そのサッカーを再現できなくなっていた。そこでシューベルトは、今いる選手に合った戦術に微修正したのである。

この2つの変更に順応した選手たち、MFのジョンソンや右サイドバックのコルプが急に輝き始め、特に20歳のMFダフードは運動量とパスセンスを兼ね備えた新時代のボランチとして頭角を現した。両親はシリアからの難民で、その生い立ちから取材が殺到したが、クラブは難民に関する質問を一切禁止し、政治的な騒動から守った。

11月28日のホッフェンハイム戦では、シューベルトの「メモ」が話題になった。

ボルシアは後半早々に追加点を決められ、1-3とリードを許した。中途半端な策では、状況を変えられない。そこでシューベルトは新たな陣形が書かれたメモを選手に渡し、システムを4-4-2から3-4-3に変更。これで流れが変わり、サイドからセンターFWに回ったドルミッチが1点を返し、さらに終盤にジョンソンが決めて3-3の同点で試合を終えることができた。

この同点劇が、翌週のバイエルン戦で生かされることになる。ボルシアは同じく3バックで臨み、相手のセンターバック、アンカー、インサイドハーフの5人に対して、マンマークをつけるという大胆な守備戦術を採用した。

監督のパーカー、ショップで売り切れ

この作戦はうまくいかず、前半はバイエルンにビッグチャンスをつくられてしまい、GKゾマーの好セーブがなければ3失点していてもおかしくなかった。

ハーフタイムでロッカールームに戻ったとき、シューベルトは選手たちに「もし君たちが希望すれば、4バックに戻してもいい」と相談した。すると選手たちはこう答えた。「いやホッフェンハイム戦ではうまくいった。このまま3バックでやらせてほしい」

自分たちで決断すれば、責任感はさらに強くなる。アグレッシブさを取り戻した選手たちは、バイエルンのパスワークを分断し、混乱する王者に対して立て続けに3点を奪った。

バイエルンのグアルディオラ監督は、素直に対戦相手を称賛した。「ボルシアにおめでとうと言いたい。後半、私たちはあまりにもボールを失い、それを利用されてしまった。失点して、私たちの秩序が壊れてしまった」

ちなみにこの1週間後、グアルディオラはインゴルシュタット戦の途中にメモを選手に手渡し、システムを変更。見事にこう着状態を打破して2-0で勝利した。シューベルトのまねをしたわけではないと思うが、何かしらのヒントを得たのではないだろうか。今後も「伝達メモ」を使う監督が増えそうである。

ボルシアはリーグ戦では絶好調だが、欧州CLでは立て直すことができずに死の組となったD組で最下位に終わり(1位マンチェスター・シティー、2位ユベントス、3位セビリア、4位ボルシア)、ドイツ杯は第3ラウンドで打ち合いの末にブレーメンに敗れた。それでもリーグで最下位から4位まで急上昇させた手腕は、色あせることはない。

シューベルトが試合でよく着ている緑色のパーカーがファンの間に人気になり、ショップで売り切れてしまった。44歳の無名監督がピッチ内外でブームを生み出し、ブンデスリーガの魅力を高めている。

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