2019年9月18日(水)

苦労した当局への情報開示 統合破談のケースも
岩倉正和・西村あさひ法律事務所弁護士

2015/12/29 3:30
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岩倉正和(いわくら・まさかず)
1985年東大法卒。87年に弁護士登録、西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。93年ハーバード・ロースクール卒業。94年ニューヨーク州弁護士登録。三菱UFJ証券と米モルガン・スタンレー日本法人の統合、伊勢丹と三越の統合、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合など大型M&A案件を手がけてきた。一橋大学院教授。53歳。

岩倉正和(いわくら・まさかず)
1985年東大法卒。87年に弁護士登録、西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。93年ハーバード・ロースクール卒業。94年ニューヨーク州弁護士登録。三菱UFJ証券と米モルガン・スタンレー日本法人の統合、伊勢丹と三越の統合、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合など大型M&A案件を手がけてきた。一橋大学院教授。53歳。

 企業のM&A(合併・買収)が空前のブームを迎えている。なぜ今、企業は我先にとM&Aに動くのか。証券会社のアドバイザーや弁護士、公認会計士など、大型案件の裏表を熟知するスペシャリストがM&Aの現場を語る。

■日本郵政の案件手がける

2015年は日本郵政グループによる豪物流大手のトール・ホールディングス買収、東日本銀行と横浜銀行の統合など数千億円規模の大型案件を手伝わせてもらいました。忙しい1年でしたが、良いM&Aは社会の効率を上げてくれる効果がある。だからやりがいもありますね。企業の皆さんには過去の経験を生かし、一見しただけではわからない思わぬM&Aの落とし穴について助言させてもらうことがあります。

例えば日本企業がM&Aをやるとします。自社が米国市場に上場していないなら、普通は米国市場のことは気にせずにすむはずですが、米国人株主が一定比率いると、米当局にも情報を開示しなければならない「フォームF4」というルールがあります。意外なことに日本企業同士の経営統合でも開示を求められる時がある。それも米国で新規上場するくらいの手間がかかるんです。米国会計基準にのっとった財務諸表も作らないといけないし、とにかく膨大なお金と時間がかかって大変です。

実はこれ、ストラクチャー(取引形態や手法)によってはF4を出さない経営統合のやり方があるんです。わたしは三菱UFJフィナンシャル・グループとUFJホールディングスの合併時にF4の提出で本当に苦労しました。だから出さないで済むなら、出さないにこしたことはない。このルールが一因になって経営統合が破談になったケースも実際にあるんですよ。「F4は必ず出すもの」という先入観もあるようですが、そんなことはない。ストラクチャー次第なのです。

M&Aではあらかじめ障害を取り除いておいたり、事前の準備は大切です。だから買収を検討し始めたらすぐに証券会社やコンサルタント、弁護士をチームに入れておくことをお薦めしています。日本郵便が6000億円を投じたトール社買収は、最初から外部人材を入れてチームを作ったので、スケジュール通りにうまくいきました。

オーストラリア企業の買収はまだ日本では珍しく、法律の違いに戸惑うことが多い。オーストラリアの会社法と上場企業の規則法を学ばないといけません。例えばオーストラリアでは裁判所の承認がおりれば「スキーム・オブ・アレジメント」という英国の手続きに沿って相手先の全株をTOB(株式公開買い付け)で取得できます。日米ではTOBで全株はとれません。でもプレミアム(上乗せ幅)を乗せて全株式を買って対象会社の株主が喜ぶのであれば、全て買った方がいいですよね。社会経済的にも効率があがります。

■買収後、法令違反のケースも

トール社の買収について記者会見する日本郵政の西室社長(2015年2月)

トール社の買収について記者会見する日本郵政の西室社長(2015年2月)

弁護士はビジネスマンやFAではありません。だからこそ客観的な目線で、依頼者が何を求めているのか、そのM&Aがその後の経営にどういう影響を与えるのかをちゃんと考えて見極めないとダメです。その上で、デューデリジェンス(資産査定)などの事前調査も責任を持って手掛ける必要があります。依頼者から言われた通りに事務手続きだけをやるのが弁護士ではないと思っています。

最近では、買収後に相手に法令違反などの問題が見つかってしまい、株主が「こんな欠陥があったじゃないか」と損害賠償請求をするケースが増えています。少し前になりますが、上場企業同士の経営統合で、最終合意直前に相手企業にちょっとした問題が見つかったことがありました。その場合は急きょ、相手に再発防止策を立ててもらい、その件で障害が生じたら保証してもらう契約をまとめた、なんてこともありました。

依頼者の希望に沿いつつも、ベストな結論に持っていくのが弁護士の仕事です。そういうことをやっていると当然責任は重くなる。でも本当に難しい案件こそ、そういったスタンスで臨む必要があると思いますね。「弁護士のやることではない」という意見もありますが、ディールを成功させるためになるべく手伝いたいですよね。皆で議論していくことで、より良い形も作れます。

私はM&Aが増えているからと言って、やみくもに「買収しろ」と言うつもりは全くありません。でもM&Aはたとえ失敗しても確実に得るものがあります。全部が成功するわけはなくて、失敗も当たり前。高い授業料を払ったとしても失敗を糧に成長していけばいいと、私は思いますね。

(取材・構成、中藤玲)

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