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ワイルドレース戦記 海渡り、山をさまよい…「大人の冒険」レースに達成感

ランニングブームが続く2015年の日本。長距離レースの舞台は、硬い舗装路やトラックだけではない。街を飛び出し、山・森・海といった自然の中を本能のままに駆け回るランナーが増えている。トレイルランニング、トライアスロンなど自然そのままを競技コースにした「ワイルド」な大会に記者自身が参加し、その熱気と魅力を伝えたい。第9回は地図を頼りに山を越え、海を渡ってゴールをめざすチーム戦「アドベンチャーレース」だ。

徳島県海陽町で開かれた「エクストリームチャレンジin四国の右下」。3人1組のチームは男女混合が多かった=エクストレモ提供、以下同

「え、ここを進むの?」。スタートから10分、3人の足が固まった。目の前の砂浜が、幅10メートルほどの浅瀬で遮られている。水深は腰くらいか。レースでなければ遠回りするところだが、「海岸に沿って進め」という指示が出ている以上、最短距離で突っ切らねばなるまい。

前を行く選手はちゅうちょなく海に入り、じゃぶじゃぶ歩いて渡っていく。私も恐る恐る腰まで水につかる。秋の海は当然冷たい。レース前に海岸も走ると聞き「靴がぬれたら嫌だなあ」などと心配していたが、まるで甘かった。

スタート直後に海を渡って下半身がずぶ濡れに

砂浜やゴツゴツした岩の上を慎重に走ると、今度は足がつかないほど深い海が進路を阻む。なるほど、泳げということですね。観念して首までつかってクロールで進む。20メートルほど泳いで陸に上がると、ぬれた長袖のシャツがずしりと重い。海風が当たって体が冷える。まさか全身ずぶぬれになるとは……。初めてのアドベンチャーレースでいきなり強烈な洗礼を受けた。

急斜面を四つんばい、これは「道」か

子どもの頃、漫画やアニメで触れた「冒険の世界」に憧れた人も多いだろう。雄大で厳しい自然を舞台に、仲間と数々の困難を乗り越えるアドベンチャーレースはまさに「大人の冒険」。地図上のチェックポイントを順に通ってゴールをめざす。特に決まったルートはなく、道なき山を突き進んだり、ボートで海や川を渡ったり。各種目をこなす技術や長く動ける持久力はもちろん、地図を読む力、冷静な判断力、そしてチームワークといろんな力が求められる。

10月31日、11月1日に徳島県海陽町で開かれた「エクストリームチャレンジin四国の右下」はその中級編。3人1組で、2日に分けてレースを行う。2日とも出場する部門に参加するのは、我々を含めてわずか14チーム。記者のチームは、徳島県内に住む友人2人を含め、無謀にも全員がアドベンチャーレース初体験だった。

序盤、3人1組で砂浜を走る

午後1時にスタートしてから1時間で、海岸の4つのチェックポイントを回った。人がいるポイントでは係員にサインをもらう。無人のポイントでは、設置されたポストにチーム番号を記したカードを入れる。

海岸エリアをクリアするとライフジャケットを脱ぎ、預けていた小さなザックを受け取った。水・食料、救急用品、ライト、雨具、防寒着など必要装備が入っている。安全のため、レース中は常にヘルメットを着用する。

次は山だ。地図を見ると、山道を示す点線沿いに3つポイントがある。道をたどれば大丈夫、と考えていたがやはり甘かった。小走りで進むと、地図にはない分岐が次々と現れる。右か左か、3人で地図を見て話し合う。

次のポイントは僅か300メートル先。地図で見る限り、沢沿いの道を登れば着くはずだ。だが水が枯れた沢の跡をたどって進むにつれ、道は細くなり、人の踏み跡が減っていく。気づけば四つんばいで急斜面を登っていた。果たしてこれは「道」と呼べるのか。

レース中はヘルメットが必須。地図は手放せない

前方から他のチームが引き返してきた。進むか戻るか、迷いどころだ。このルートで合っている自信はない。さりとて間違っているという確信も持てない。進路は険しくなる一方。とはいえ、あと3分も進めばポイントがあるかもしれない。気持ちが揺れる。もう進めないほど奥深くまで達したところで、やっと引き返す決断をした。

暗闇の山中で右往左往、最後は迷子に

こうして進んでは戻ることを繰り返し、3本目の沢でやっとポイントを見つけた。300メートル進むのに1時間かかった。やれやれ。次のポイントへ向かうが、またもや道を見失う。山道は無視して、最短距離で斜面を強引によじ登ることに。ところが木々をかき分け急坂を登るのに苦戦し、またも1時間かかってしまった。万事「急がば回れ」が正解なのだ。

「おかしいな。なんでだろう」。暗闇の中、何度つぶやいただろうか。午後8時、ライトを照らしながら3人で山をさまよっていた。2時間前に第9ポイントを出た後、林道を外れて左の黒い山に取り付いた。急斜面を登ると地図に従って尾根沿いに進むが、途中にあるはずのポイントがなかなか姿を現さない。30分ほど登り続け、草木が深い急斜面に突き当たった。行き止まりだ。

係員がいるポイントでは、カードにサインをもらう

考えられるミスは、ポストを見落としたか、分岐に気付かず別の尾根に迷い込んだか。慎重に左右を照らしながら引き返す。しかしどこに向かっても、結局は急な下りに突き当たってしまう。

「もしかして地図と違う場所にいるのかも」。頭の片隅に生じた疑念が、むくむくと膨らんできた。「いや、地図の通り左の山を登ったはずだろう」。人間誰しも、自らの誤りを簡単には認めたくないもの。しかし現実にポイントが見つからないことに、どう説明がつくのか。

それにしても、ボタン一つで現在地がわかるスマートフォンのなんと便利なことか。もちろん全地球測位システム(GPS)が使える機器は使用禁止だ。

ついに進路の選択肢がなくなり、尾根の途中で立ち往生。もう正直に認めよう。「どこにいるのかわからない。迷子だ」と。山中に残るポイントは3カ所。時間内のゴールは難しいため、結局ここであきらめて下山する。舗装路をとぼとぼ走って、午後9時半にゴールに着いた。

下山後、迷子の原因がはっきりした。なんと最初から見当違いの山を登っていたのだ。2時間さまよった尾根は、めざした尾根と地形は似ているが、まるで別物だった。なんとアホらしいことを。初めてのアドベンチャーレース、初日は完敗だ。「明日こそ完走しよう」とリベンジを誓い合って眠りについた。

海岸沿いをカヤックで進む。陸から見るより波が高く感じた

心細さに耐え、カヤックで海を2キロ

「あれ、波高いじゃん」。翌朝のレース序盤、1人乗りカヤックで海へこぎ出すと、迫力ある波が寄せてきて驚いた。陸から見るのと、海上まで目線を下げるのとでは、印象が随分と違う。プラスチックの黄色い船体が上下に激しく揺られ、海水が浸入してきた。まずい、転覆する。慌ててオールを回す。ちなみにカヤックをこぐのも人生2回目、ほぼ素人だ。

海は孤独である。海岸も、仲間2人が乗った船も、走ればすぐの距離なのに、ずいぶん遠くに感じる。オールの推進力なんて微々たるもの。もし強い潮に流されたら、バランスを崩して転覆したら、オールを落としたら……。広大な海に対峙すると、小さな船に乗って波に揺られる自分は、あまりに不安定で、ちっぽけだ。心細さに耐えながら、45分かけて約2キロのカヤック区間を終えた。

途中のポイントで、ボードに3人で乗って海を進むという変わったミッションもあった

午前10時半、標高400メートルの山を登り切った。ここで登山道は途絶え、山頂から先は尾根に沿ってルートを探しながら進まねばならない。

初日も通った「尾根」とは、山の高い部分の連なりのことだ。くねくねした等高線の地図を見ると、標高が低い方に向かって波が張り出した尾根と、逆に高い方へ張り出した谷が多数存在する。目印の少ない山を進む場合、尾根は道代わりになる。というのも、両側が下りになって見晴らしがよく、起伏がゆるやかで歩きやすいからだ。尾根上にいれば、地図で現在地も特定しやすい。

「おかしい。標高が下がりすぎている」。進むこと30分、案の定、道に迷った。何も生えていない山なら進むべき尾根はすぐわかる。だが実際は、背丈を超す草木や岩、急斜面が進路と視界を塞いでいる。別の尾根に迷い込んだに違いない。すぐに引き返した。

2日目、山頂についた。ここから先は道がなくなり、一気に難しくなる

歩きやすい尾根の北側を進んできたため、南側にあった分岐を見逃した可能性が高い。草木を強引に押しのけて南側に回ると予想通り、枝分かれした別の尾根を見つけた。よし、宝につながる隠し扉だ。

ミスしたら引き返す、早めの決断大事

「あった!」。第6ポイントを見つけた時、うれしさのあまり、周りのライバルチームの存在も忘れて叫んでしまった。長い時間をかけて難問に挑み、初めて自分たちの力だけで正解を導き出せたような幸せな気分だ。

迷い続けた初日から一変、ここからは順調に進めるようになった。正しいルートを進むには、とにかくやるべきことが多い。周りの地形をよく見てコンパスで方角をチェック、腕時計で標高を確認し、それらの情報が首にぶら下げた地図と一致しているか照合しながら、険しい山を足早に進む。

常に現在地を把握し続けることが大事だ。道を間違えていないか、少しでも不安を感じたら立ち止まる。次第に会話も増えた。私は3人の最後尾で地図を見ながら「20メートルくらいゆるやかな下りで、登り返しがある」「左に曲がるはず」などと情報を伝え続けた。

狙い通りに山中のポイントを3つ回ると、走って下山。制限時間の10分前に第9ポイントに着いた。難所は越えた。残りは舗装路のポイントを回るだけだ。

海と山、きれいな景色を楽しんだ

こうして午後1時半、3人で手をつなぎ笑顔でゴールテープを切った。6時間半のタイムは2日目に限れば4位。時間内に全ポイントを回り、初日のリベンジを果たした。

レース後、ぶっちぎりで1位だったチームにコツを聞いてみた。経験豊富な彼らでも、道を間違えることがあるという。それでも「地図を見て早めにミスに気づき、すぐ引き返すことが大事」。なるほど、早めの決断か。2時間も山をさまよった前夜の苦い記憶が頭をよぎった。

漫画でも現実でも、楽な冒険は存在しない。何度も転んだり、木の枝で頭を打ったり。ズボン、シャツは木の枝に引っかかれてボロボロになった。体力と頭脳を駆使した長い戦いの末に得たものは、「自分たちでやりきった」という満足感。それは、今まで体験した様々なレースでは味わったことがない類いのものだった。他のアドベンチャーレースの大会ではランニングやカヤックに加え、マウンテンバイクの区間もあるという。次の冒険が楽しみだ。

(伴正春)

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