/

[FT]シリコンバレー、もはや最強の起業都市にあらず

Financial Times

米国で開かれる、この季節の企業パーティーで場を和ませたいのであれば、「へえ」と言わせるこんな質問を投げかけてみるといい。起業の割合が最も高いのは米国のどの地域かという質問だ。

「シリコンバレー」というのが、予想できる、もっともな答えだろう。何しろ近年、サンフランシスコ地域が米国のイノベーションの震源地だった。フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏は起業家の夢を体現しているように見える。莫大な資産の大半を社会的大義に寄付する計画を明らかにした最近の発表以降は特にそうだ。

だが、ここに今日の米国経済に関する奇妙な詳細がある。起業活動の本質を理解したいのであれば、目を向けるべき先は、シリコンバレーやザッカーバーグ氏ではない。シンクタンク、カウフマン財団の調査によれば、住民1人当たりの小規模企業の数で測ると、都市部における起業の最大の源は、今や西海岸ではなくニューヨークだ。「起業家精神」の点では、ボストンが2位につけ、ロードアイランド州プロビデンスが続く。一方、サンフランシスコは4位で、辛うじてフロリダ州マイアミとオレゴン州ポートランドの上を行く程度だ。一般的な米国都市がシリコンバレーに接戦以上の激しい戦いを挑んでいるのだ。

20~34歳の若年層は縮小傾向

地理だけが唯一の驚きではない。「スタートアップ」という言葉は大抵、ザッカーバーグ氏のように童顔でパーカを着た若者のイメージを呼び起こす。だが、カウフマン財団のデータによると、起業家および小企業のオーナーの平均年齢はずっと高く、しかも上昇している。現在、経済活動と雇用創出のエンジンである小企業の32%を、45~54歳の人たちが所有しているという。

こうした中年起業家は、事業主の間で最大の年齢層だ。その後に続く20~34歳の層――ザッカーバーグ氏の年齢層――が所有している小企業はわずか16%で、この調査シリーズが始まった1997年の28%から低下している。起業活動も、中年層の間で活発化する半面、若い年齢層では減退している。一方、起業家の学歴は高くなっており、今では過半数が大学院の学位を保有している。また、移民は現在、小企業全体の20%を所有しており、その割合は97年の2倍に上っている。

こうした傾向の原因は何なのだろうか。小企業の活動に関するデータは全般的に、そして起業家に関するデータは特に、不完全なことで知られる。だが、カウフマン財団は、学生ローン債務の重い負担が若者に起業家になることを思いとどまらせている可能性があると示唆している。より全般的な米国の人口高齢化も統計に影響を与えている。

起業家の年齢が上昇するパターンが、変わりゆく仕事像も反映しているのかどうかはさらに興味深い問題だ。デジタル化で、かつて安定していた会社勤めの中間層の仕事の大部分は消滅し、中年従業員を放り出した。実際、オックスフォード大学マーティン・スクールは、米国のすべての仕事の半分が向こう20年間でロボットに取って代わられると予想する。

米国人は寿命が延び、年金受給額が減っている。言い換えると、この中年の起業活動の一部は恐らく、積極的な選択と同じくらい、必要に迫られて生じたものだ。つまり、経済的な自由のみならず、経済的な不安の結果でもあるのだ。

年齢の高い起業家の支援策必要

それが今度は、政策に対して一段と大きな意味を持つ可能性がある。所得格差が拡大していることを考えると、特にそうだ。一連のデータで一つ心強いニュースは、全体的な起業が大金融危機の最中に減退した後、昨年上向いたことだ。だが、数十年前に見られた水準をまだ下回っている。そうした起業家精神のレベルを引き上げるために米国の政策立案者にできることはたくさんある。

大企業の税率引き下げだけについて語る代わりに(ワシントンではここに議論が集中している)、悪夢のように複雑な米国の小企業税制を合理化するために、もっと努力する必要がある。保険医療の提供も簡素化されるべきだ。小企業には、今より幅広い資金調達のチャネルも必要だ。銀行は今、中小企業向けの融資に非常に後ろ向きで、これは特に、2008年以降の金融改革がもたらした非常に残念な結果だといえる。

文化的な変化も必要だ。何より重要なのは、今日の成功した起業家が皆、パーカを着ていたり、カリフォルニアの太陽を浴びたりしているわけではないことを米国の政策立案者(および有権者)が理解する必要がある。実際、大半の起業家はそうでない。そして、比較的年齢層の高い起業家を擁護、支援する方法を見つけることは、伝統的な会社勤めの消滅、つまり、粉々に打ちのめされた中間層の呪いに対処するための重要な一歩となる。そうすれば、より健全な経済とより楽しい季節の祭典につながるだろう。

By Gillian Tett

(2015年12月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(翻訳協力 JBpress)

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン