/

いよいよ日本へ 買収防衛の"軍師"が語る心構え

森・浜田松本法律事務所の石綿学弁護士

 企業のM&A(合併・買収)が空前のブームを迎えている。なぜ今、企業は我先にとM&Aに動くのか。証券会社のアドバイザーや弁護士、公認会計士など、大型案件の裏表を熟知するスペシャリストがM&Aの現場を語る。

わたしは上場企業の大型再編や、投資ファンドによる買収案件などに長年関わってきました。経済産業省の委託をうけて敵対的買収を受けた場合の防衛策ガイドラインをつくった経緯もあって、企業を守る側につくことが多いですね。例えば2007年に米投資ファンドのスティール・パートナーズが天龍製鋸にTOB(株式公開買い付け)で買収をしかけようとした時は、天龍製鋸の代理人をつとめました。スティールとアデランスの委任状争奪戦の際はアデランス側を手伝いました。

アクティビストますます日本へ

敵対的買収は日本の企業風土にはなじまないと長らくいわれてきました。ですが、海外勢による日本企業への敵対的買収は今後、確実に増えるでしょうね。理由は株の持ち合い解消が進み、安定株主がどんどん減っているからです。その株を買っているのが海外勢です。日本企業の外国人株主比率はすでに3割を超えました。メガバンク3行は今後3~5年で長期保有の株を合計2兆円程度売る見通しですが、その受け皿は海外の機関投資家やアクティビスト(物言う株主)になる可能性が高い。敵対的買収がますますやりやすくなっていくでしょう。

今年はアクティビストの運用資産残高が世界で20兆円を超えました。金融危機前に約5兆円だったのと比べても急増ぶりはすごい。そのお金がどこに向くか。追加の投資先として米企業はもうそんなにありませんから、少し前は韓国のサムスン電子などが人気になりました。そして次はいよいよ日本企業に向かおうとしています。アクティビストが大株主になると、その企業はM&A(合併・買収)をする時、彼らの声にちゃんと耳を傾けないといけません。彼らが統合比率などを納得してくれないと、株の買い取り請求などを使って反対に回るかもしれませんからね。

現在、ブリヂストンが買収しようとしていた米企業にカール・アイカーン氏が待ったをかけて話題になっています。ブリヂストンよりも高い買収額を提示して対抗する構えです。ブリヂストンも応戦するようですが、アクティビストの台頭で、このようにM&Aが会社側の思惑通りにいかないケースが増えていくでしょう。

アクティビストたちの行動原理には「自分たちがもうけたい」という考えが根底にあります。でも、一流のコンサルタントなどを雇って徹底的にデューデリジェンス(資産査定、DD)をしたり、提案内容もどんどん洗練されてきていますね。

緊張感が経営に規律

だからといって私は敵対的買収を全面的に肯定しているわけじゃありません。敵対的だと買う側、買われる側ともに余計なコストがかかりますし、企業も本当に疲弊します。そんな例をたくさんみてきました。だけど「敵対的買収をかけられるかもしれない」という緊張感が、経営に一定の規律を与える効果があるのも事実です。アクティビストの声が大きくなる今後は、これまで以上にマーケットの意見を重視した経営が求められるでしょう。

最近では成長期待の高いアジア企業を買収したいという相談も増えましたが、これについては経営者の方々に一言申し上げたい。日本の常識がアジアでは通用しないことが往々にしてあるということです。そのリスクにきちんと備えるのはもちろん、場合によっては買収をやめる勇気も必要です。

デューデリ「一切応じない」

例えば07年にダイキン工業がマレーシアのエアコン大手OYLインダストリーズを買収する案件を手がけました。当時OYLの筆頭株主は華僑系の財閥グループで、実質的に1人の個人が議決権の半分程度を握っていました。売ってもらうために交渉するのですが、そもそも買収の際に当たり前のDDにも相手は「一切応じない」という構えでした。私が毎週末、1泊2日の強行軍でマレーシアに飛んで交渉をしましたが、なかなか納得してもらえない。

結局は「このまま一切情報を出さないつもりなら、私自身が買収に反対する。だがDDに応じるのなら不合理なことは一切いわない」と強く主張し、ようやく納得してもらえました。結局、問題のある資産内容ではありませんでしたが。こういうケースでは日本企業の方は買収を成功させたいと思うあまり、相手にあまり強い事を言えないことが多い。でもそれじゃあダメです。現実に中国やインドの企業を買った後、会計不祥事などの大きな問題が発覚したケースはたくさんあります。「こんな問題を隠したままで売ろうとはしないだろう」という日本の常識は通用しません。粘り強く交渉して丁寧に調査をし、仮に「いかがわしい」と思えば思い切ってやめれば良い。でないと後から大変なことになりかねません。

私はよく思うのですが、M&Aって人の心の形をしているんですよ。買う側、買われる側それぞれの意思とか感情が形になって表れる。だからお手伝いする弁護士も会社に出向いて企業の風土を感じ取ることは大切ですね。私自身は今後もマーケットの声と向き合うような案件をやりたい。M&Aは一般の株主が納得しないと成立しません。株主の考えや要求を予想しながら、彼らが受け入れてくれるようなストーリーをマーケットに投げていく。そして読みがばっちりと当たるような提案を出していきたいですね。

(取材・構成 中藤 玲)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン