未来見えぬ「なでしこ」 粘り健在も貧弱な攻撃力
サッカージャーナリスト 大住良之
佐々木則夫監督率いるサッカー女子の日本代表「なでしこジャパン」は、11月29日にアウェーでオランダと対戦、1-3で敗れて2015年の全活動を終了した。17戦して11勝6敗、得点26、失点22。16年2月には、リオデジャネイロ五輪出場を懸けたアジア最終予選(大阪)に臨むなでしこジャパン。この1年間を振り返る。
■若手登用のチーム活性化策は実らず
07年の終わりに佐々木監督が就任して8年。この間、なでしこジャパンは08年北京五輪4位、11年女子ワールドカップ優勝、12年ロンドン五輪銀メダル、15年女子ワールドカップ準優勝と、輝かしい成績を残してきた。
15年の6月から7月にかけてカナダで開催された女子ワールドカップでは、1次リーグでは苦戦続きだったものの決勝トーナメントに入ると急激に調子を上げ、オランダ、オーストラリア、イングランドに3連勝。2大会連続で米国との決勝戦に臨んだ。
決勝では日本対策を練りに練った米国のスピードに圧倒され、16分までに4点を先行されるショッキングなスタートだったが、27分にエースの大儀見優季が1点を返し、52分には相手オウンゴールで2点差に迫った。なでしこジャパンらしい粘りとあきらめない精神力はさすがだったが、ここで冷静さを取り戻した米国に突き放され、結局2-5の完敗。連覇はならなかった。
12年にオリンピックで銀メダルを獲得した後、佐々木監督はチームの活性化を図ろうと何回も思い切った若手登用を行った。しかし結局は、11年以来大きくは変わらないメンバーで15年ワールドカップを戦わざるをえなかった。
この間に新たに主力となったのは右サイドバックの有吉佐織ただ一人。有吉は決勝トーナメント初戦のオランダ戦で先制ゴールを挙げてチームを勢いづかせ、MF宮間あや、MF阪口夢穂、そしてMF宇津木瑠美とともに大会の「オールスターチーム」に選ばれた。
前回は6試合中2試合に短時間出場しただけにとどまった宇津木も、ボランチ、あるいは左サイドバックとして15年にしっかりと地位を築いた選手だ。宇津木は07年に18歳で女子ワールドカップ(中国)に出場し、左サイドバックとして日本の全3試合に出場、うち2試合はフル出場だった。佐々木監督の下では、26歳になって、ようやくポジションを確保した形だ。
■監督の信頼、やはりベテランたちに
だが、その他はすべて優勝した4年前のドイツ大会と同じメンバー。GKの海堀あゆみ、センターバックの岩清水梓、熊谷紗希、左サイドバックの鮫島彩、MFの阪口、宮間、川澄奈穂美、そしてFWの大野忍と大儀見。FW菅沢優衣香とFW岩渕真奈が交代選手として活躍したが、15年も佐々木監督が信頼したのはベテランたちだった。
11月のオランダ戦(フォレンダム)はゴールキックが大きく戻ってきてしまうような強風下の試合。なでしこジャパンは序盤にMF宮間とDF鮫島に大きなミスが出て、そこから連続失点を喫した。ワールドカップ後になでしこジャパンに加わったFW有町紗央里がエースの大儀見と絡んだ攻撃は悪くはなかったが、調子の出てきた後半にあまりに多くの選手を代えたためリズムが崩れ、結局PKで追加点を奪われて1-3で敗れた。
ワールドカップ後にはベテランを思い切って外して東アジアカップ(中国・武漢)に挑んだ。その大会でGKとして落ち着いたプレーを見せたのが山下杏也加、中盤をリードしたのがMF川村優理、攻撃面で活躍したのがFW有町、MF杉田亜未、MF増矢理花ら。これらの選手は11月のオランダ戦にも選ばれたが、有町はハーフタイムで交代となり、他の選手たちはすべて交代出場にとどまって力を発揮しきることはできなかった。
来年2月、なでしこジャパンはリオ五輪出場を懸けてアジア最終予選を戦う。
出場は6チーム。全チームが総当たりをする大会だ。しかし女子の国際サッカー連盟(FIFA)ランキングを見ると、4位の日本を筆頭に、北朝鮮6位、オーストラリア9位、中国15位、韓国17位、ベトナム33位と、アジアのレベルは男子とは比較にならないほど高い。しかも五輪の女子サッカーは出場わずか12チームで、アジア枠は2つしかない。厳しい戦いになるのは必至だ。
■五輪予選後、大幅な選手入れ替えも
心強いのは「セントラル方式」の最終予選が地元で開催されること。大阪の長居公園内の2つのスタジアム、キンチョウスタジアム(収容約2万人)とヤンマースタジアム長居(同4万7000人)が会場となる。良いコンディションのピッチでなでしこジャパンのパスワークを発揮したいところだが、どのチームも「打倒なでしこ」に全力を注いでくるに違いない。
結局のところ、佐々木監督はこの予選も経験豊富な選手たちに頼ることになるだろう。すなわち、11年のワールドカップ以来ほとんど変わらない選手たちである。そして予選を突破できれば、そのチームは佐々木監督の契約期限であるリオ五輪まで続くことになる。
だがこのチームに「未来」はあるのだろうか。
リオ五輪の次の世界大会は19年の女子ワールドカップ(フランス)、そして20年の東京五輪である。これまで8年間続いてきたチームのレベルをそのままさらに4年間保ち、さらに成長させることなど、どんな監督にも不可能だ。
今年のワールドカップでは、なでしこジャパンらしい粘りで準決勝まで6試合連続1点差勝利を飾り、準優勝を成し遂げた。しかしFCバルセロナを思わせるパスワークで世界を驚かせて優勝を飾った11年女子ワールドカップと比較すると、12年のロンドン五輪も含めて、世界の強豪がなでしこ対策をたて、試合は苦しくなる一方だった。準決勝まで6試合連続1点差だったことは、「なでしこらしさ」を表すものであると同時に、なでしこジャパンの攻撃力の貧弱さを物語るものでもあった。
世界大会で3大会連続決勝戦に進出しているといっても、その3つの決勝戦で当たった米国との差は開く一方だ。
この状況を打破するには、たとえばリオ五輪の最終予選を勝ち抜いたら、そこで大幅にメンバーを入れ替え、3年後、4年後を目指したチームをリオに送り込むなど、思い切った手を打つ以外にないように思う。
月日 | 対戦相手 | 結果(得点者) | 開催地 | 試合 |
3/4 | デンマーク | ●1-2(安藤) | パルシャル | アルガルベ杯 |
3/6 | ポルトガル | ○3-0(川村、横山、菅沢) | ファロ | アルガルベ杯 |
3/9 | フランス | ●1-3(川澄) | パルシャル | アルガルベ杯 |
3/11 | アイスランド | ○2-0(宮間2) | ファロ | アルガルベ杯 |
5/24 | ニュージーランド | ○1-0(澤) | 丸亀 | 親善試合 |
5/28 | イタリア | ○1-0(大儀見) | 長野 | 親善試合 |
6/8 | スイス | ○1-0(宮間) | バンクーバー | 女子W杯 |
6/12 | カメルーン | ○2-1(鮫島、菅沢) | バンクーバー | 女子W杯 |
6/16 | エクアドル | ○1-0(大儀見) | ウィニペグ | 女子W杯 |
6/23 | オランダ | ○2-1(有吉、阪口) | バンクーバー | 女子W杯 |
6/27 | オーストラリア | ○1-0(岩渕) | エドモントン | 女子W杯 |
7/1 | イングランド | ○2-1(宮間、オウンゴール) | エドモントン | 女子W杯 |
7/5 | 米国 | ●2-5(大儀見、オウンゴール) | バンクーバー | 女子W杯 |
8/1 | 北朝鮮 | ●2-4(増矢、杉田) | 武漢 | 女子東アジア杯 |
8/4 | 韓国 | ●1-2(中島) | 武漢 | 女子東アジア杯 |
8/8 | 中国 | ○2-0(横山、杉田) | 武漢 | 女子東アジア杯 |
11/29 | オランダ | ●1-3(阪口) | フォレンダム | 親善試合 |