文科省の新設AI研 トップ人事に気をもむ研究者の本音
AIPセンターのセンター長候補として名前が挙がっているのは、国立情報学研究所の喜連川優所長(60歳)をはじめ、日本学術振興会の安西祐一郎理事長(69歳)、前・国立国会図書館長の長尾真氏(79歳)ほか数人だ。
3人とも情報処理学会の会長を務めた経験を持つ同分野の専門家で、喜連川氏は東京大学生産技術研究所戦略情報融合国際研究センターセンター長などを兼務。安西氏は慶應義塾長や日本認知科学会会長、日本神経回路学会理事などを歴任。長尾氏は京都大学総長、情報通信研究機構初代理事長などを歴任した人物だ。
AIPはAdvanced Integrated Intelligence Platform Projectの略で、文部科学省が省を挙げて取り組んでいる政策「人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト」の中核となる、AIなどの統合研究拠点である。
文科省が要求しているAI研究関連の予算額は、AIPセンター向けが90億円、科学技術振興機構(JST)向けが10億円の合計100億円となっている。JSTの10億円は、研究プロジェクトを通して、優秀な若手研究者を発掘することが1つの大きな狙いだ。

AI研究者は予算の分散を懸念
人工知能(AI)研究者の間では、現在もAI研究に関わる人材の起用を期待する声がある。AIに精通する人材は、少なくとも副センター長以上で迎え入れる方針のようだが、センター長は「グローバルで通用する人材」という文科省の条件を満たせるかどうかがポイントになる。センター長の人事は、2016年初頭には決まる。
AI研究者がトップ人事に気をもむ理由は、研究予算の配分に大きく関わってくるからだ。情報技術全般に深い知見があっても、現在のAI研究の事情に通じていない人材では、AIに集中投資してほしいという同分野の研究者の要望には応えられない可能性が高い。ビッグデータ、あらゆるモノをインターネットにつなぐIoT、サイバーセキュリティーなども含めて投資が分散されると懸念をしている。
文科省によれば「AIに限るのではなく、情報技術全般に深い知見があり、グローバルで通用する人材に絞っている。いかに優秀な研究者を国内外から引っ張ってこられる実力があるかどうかがカギになる」と言う。研究員の約3割は海外から連れてきたいという方針もある。
研究員やスタッフは約100人規模に
研究員は常勤の研究者をはじめ、東京大学を中心に東北大学、東京工業大学、慶應義塾大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、さらに学長がAIの研究家で同分野に力を入れている公立はこだて未来大学などから、クロスアポイントメント制度を活用して確保する。クロスアポイントメント制度では例えば、週の1日はAIPセンターに勤務し、平日の残り4日は所属する大学に勤務することになる。
研究者やスタッフを合わせると全体で約100人規模になる予定だ。実現すれば2015年5月に設立した産業総合技術研究所の人工知能研究センターに匹敵する規模で、日本では最大級のAI研究拠点となる。ただし両研究センターはすみ分けを図っており、AIPセンターは認知科学や脳科学など基礎研究が中心であり、産総研の人工知能研究センターは応用研究や実用化・社会への適用が中心になる。
AIPセンターは文部科学省所轄の理化学研究所に設立する。ただし、理研の中核拠点がある和光市ではなく、AIPセンターの場所はクロスアポイントメント制度を考慮して、利便性の高い都心部にあるオフィス(2~3フロア)に置く予定としている。

(日経ビッグデータ 多田和市)