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日々実践 メンタル向上術 試合・本番での集中力 心理的テクニックで効果的に

東海大学体育学部教授 高妻容一

今回は、ラグビーの五郎丸歩選手が使うルーティンにも関係する、集中力を高めるという点について紹介します。最初に質問をするので答えてみてください。

質問=選手がコーチから「集中しろ」「集中して練習をしろ」「集中力が重要だ」と言われたら、選手(あなた)は何をどうしますか?

この「集中」とか「集中力」という言葉は、スポーツのみならず勉強や仕事などでもよく使われています。あなたは「集中力」と言われてその説明ができますか? 実際、どのように集中していますか? 私たちが多くの選手やコーチに聞いても、なかなか明確な答えが返ってきません。つまり、多くの人が自分の経験からこんなものだという感覚は持っているのですが、人それぞれで言うこともやることも違うことが分かってきました。

スポーツ心理学にある多様な「集中」

スポーツの現場で監督やコーチが選手に「集中しろ」「集中して練習しろ」と言っても、選手は集中の意味が分からなかったり、コーチらの考える集中とギャップがあったりして、「ハイ」と返事はするものの何をどうしたらいいのか分からないのです。するとコーチから「さっき、集中しろといっただろう」と注意され、また「ハイ」と言うのですが、何もすることができません。最後には、「何度言わせるんだ、集中しろ」と怒られることになるのです。

辞書を引いてみると「集中とは、一カ所に集めること・集まること」「集中力とは、ひとつの事柄に注意を集中して物事に取り組む能力」などと記してあります。日本体育協会の公認スポーツ指導者養成テキストには「注意集中とは、はっきりと鮮明に心が特定の事柄に占有された状態であり……」などと書かれていますが、これはスポーツ心理学の解釈では「狭い集中」を指しています。これが一般的に考えられている集中だと考えます。

サッカーやバスケットボールなどの競技では、いかなる状況にも対応できるよう周りや多くのことに注意を向ける「広い集中」、プレーの前の自分の考えやイメージなどに注意を向ける「内的集中」、1つのことだけではなく周りで起こるいろいろな事柄に注意を向ける「外的集中」などの考え方があります。スポーツ心理学では専門用語として「注意の集中」という言葉を使い、英語では「Concentration」だけでなく「Focus」という言葉も多く用いられます。つまり集中という言葉自体も、どんな場面でどのような意味で使うかを意識しておかなければ、先述したコーチと選手のようなギャップが生じることにもなりかねません。それ以前に、何をどうすれば集中できるのかを理解しておくことが重要になります。

集中力高められれば調子の波も少なく

メンタルトレーニングでは、集中・集中力は心理的スキルの一つであり、集中力のトレーニングをすれば選手が能力を伸ばすことができると考えています。1985年から米大リーグのエンゼルスで16年間、そしてドジャースや米五輪代表チーム、最近ではカブスのメンタルトレーニングを指導したケン・ラビザ博士は、野球における「調子の波」の理由を「集中力の差」だと述べています。つまり、「調子がいい、悪い」という表現をするときに、「今日は集中できた、できなかった」とも言い換えられるのです。

このことから、集中力を高めるトレーニングをすれば調子の波を少なくすることができる、とも考えられるわけです。私はこの考え方をもとに、いかにすれば調子の波を少なくし、調子のいい状態を長くすることができるかという方法を多くのスポーツで試しました。そして、いくつかの集中法とその他の心理的スキルを組み合わせて、集中と気持ちの切り替えのテクニックをまとめ、選手たちに指導しています。

本来なら、この連載の第4回で紹介した「ゾーン」「フロー」「ピークパフォーマンス」「火事場のばか力」などといわれる理想的な心理状態が、究極の集中だといえます。これは、適度な緊張とリラックスの状態、ポジティブで自信がある状態、成功イメージができている状態、試合に対する心理的・身体的準備ができていて最高のパフォーマンスを発揮できる心理状態のことをいいます。メンタルトレーニングの目的の一つに、このゾーンをつくり、実力を発揮するというものがあります。このことからも、試合での安定した実力発揮には、集中力を高めるトレーニングが重要になります。

《集中力を高める方法1》

第3回連載の「セルフコントロール」というトピックスで、毎日の練習前にリラクセーションのプログラムをやることを紹介しました。それこそが集中力を高める基礎トレーニングであり、試合で集中するテクニックと強化のためのプログラムとなっています。読み返してもらえれば分かりますが、(1)音楽に意識を集中(2)呼吸に意識を集中(3)姿勢に意識を集中(4)自分の筋肉に意識を集中(5)イメージに意識を集中(6)セルフトーク(独り言)や自己暗示に意識を集中(7)メディテーション(めいそう)をすることで意識を集中――といった細かなテクニックが組み込まれています。

《集中力を高める方法2》

これも第3回連載で紹介していますが、上記のリラクセーションプログラムの後に行う、サイキングアップというプログラムがあります。リラクセーションで「静的な(静かで落ち着いた)」状態での集中ができたら、今度はサイキングアップで「動的な(活発に動いている)」状態で集中するのです。

みなさんも体験すれば理解していただけると思いますが、静かな環境で目を閉じ心身を安静状態にすれば、静的な状態での集中を感じることができます。一方、音楽をかけて体を動かし、心拍数を高めた状態(活動的な試合の状況)では、動的な状態での集中を感じることができるはずです。例えば、サイキングアップでは(1)呼吸は乱れているが自分の動きに意識を集中(2)音楽に体の動きを合わせてある一定のリズム(行動)に意識を集中(3)ゲームなどの目的とする動きに意識を集中(4)楽しいゲームに意識を集中(5)パートナーとの動きに意識を集中――などを体験することができます。

《集中力を高める方法3》

大リーグで活躍するイチロー選手は、ベンチからネクスト・バッターズ・サークルまで歩いて行き、そこでの動作、打席までの歩き方、打席に入ってバットをぐるりと回す動作までがいつも同じで、打席で集中するために大切な時間、打つための重要な準備の時間だと言っています。これは前回紹介した五郎丸選手のルーティンと同じく、正式には「プリ・パフォーマンス・ルーティン」という言葉を用います。プレー前の動作を同じにすることで一定したリズムをつくり、呼吸を整え、心を安定させる方法です。心理的テクニックの一つであり、メンタル面の集中力を高めたり、気持ちを切り替えたり、最高のパフォーマンスへのリズムを取ったりできます。

イチロー選手は、毎日の生活の中にもこのルーティンを取り入れていると報道されています。例えば、何年間も朝・昼食(ブランチ)にカレーライスを食べ、試合の3時間半前までに球場に入り、毎回同じウオーミングアップをする。ベンチの座る位置、ベンチ内での行動も同じ。そして、同じ動作(ルーティン)をして打席に立ち、試合後はスパイクやグローブを磨きながら反省をし、夜は脚のマッサージ機を使いリラックスするのです。

集中力を高めるには安定した呼吸をすることが重要で、安定した呼吸をするために自分の行動や生活を一定にするのです。昔から気持ちを落ち着け、集中するために深呼吸が使われてきました。間違いではないのですが、試合のときだけでなく、普段の練習時から深呼吸を取り入れた準備やトレーニングをすることが大切です。自分の生活や行動パターンを安定させ、同時に呼吸を安定させて平常心を保つための強化トレーニングや準備をしておくのが、メンタルトレーニングの基本となります。

また、人間は普段の動作や行動が習慣化されています。その習慣化している動作や行動をうまく利用して、集中する方法もあります。例えば、腕を組んでみてください。「右手が上ですか、左手が上ですか?」。それと逆に腕を組んでください。多分、違和感を感じると思います。もう一度最初のように組み直してみると、こちらの方が安心しませんか。これは、生活の中でいつもやっている習慣化された動作が、自分の心を落ち着け、集中力を高めることに貢献することを意味しています。つまり、自分がいつもやっている動作や行動をルーティンとして使えば、より効果が上がることになります。これがスポーツ選手であれば、良いプレーをしたときの動作・行動をうまく利用して、自分のルーティンにすればより集中力を高めることが可能になるというわけです。

《集中力を高める方法4》

集中力を高めるのに「フォーカルポイント」という心理的なテクニックもよく使われます。これは、試合場のある場所1点を決めて、そこを見ると「集中力が高まる」「集中力が回復する」「集中力を高めるための深呼吸を思い出す」など、気持ちを切り替えるきっかけになるポイントにするというものです。集中したり、気持ちを切り替えたりするときにフォーカルポイントを使い(見る)、それをきっかけとしてある動作を行います。

例えば、体育館の天井や野球場の旗のてっぺんをフォーカルポイントに決め、そこを見るたびに深呼吸、簡単なストレッチ、顔のマッサージとスマイル、手をぐっと握って力を全身に入れ、「よし」とか「よっしゃー」と声を出すなど、自分の気持ちが集中し、気持ちが切り替わる動作(ルーティン)をやる方法があります。

《集中力を高める方法5》

「姿勢・態度のトレーニング」や「ボディーランゲージ」といわれる方法もあります。例えば、野球などグラウンドでやるスポーツなら、胸を張り上を向いて「空を見上げる」という動作でもいいでしょう。この動作の中には、胸を張って自信がある姿勢や態度をとる、顔を上げて胸を張り、上を向くことで頭の中をプラス思考にする目的があります。

深呼吸で心を落ち着かせ、吐く息を意識することで集中力を高めたり、「よーし!」「いくぞー!」「気合入れていこう!」などとセルフトーク(自分で自分に話し掛ける)をし、強い呼吸(声)をすることで気持ちを切り替えたりして、気持ちを「のせる」という心理的なテクニックも含まれます。このテクニックを使いこなすには、このような動作や考え方が集中力を高め、試合で実力を発揮できるための方法ですよということを理解しておかなければなりません。また、これを毎日の練習で「集中力のトレーニング」として行い、その心理的スキルを洗練させておくことが必要になります。

結局、集中力のトレーニングでは、最終的に自分が最高度に集中力を高めることができる方法・手順を見つけ、それがいつでもどこでも使えるようにすることが重要です。そのために、毎日の練習や生活の中で、この心理的テクニックを洗練してこそ、試合や商談などの本番で使いこなすことができるのです。

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