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空気は怠け者 性質の理解が「快適暖房」への一歩

冬に備える家づくり2015(2)

日経アーキテクチュア
「家づくりは夏を旨(むね)とすべし」はウソ、家づくりは冬を旨とすべし──。そう公言する専門家の一人が、東京大学准教授の前真之氏。住宅の省エネルギー性能を客観的に調査・分析している気鋭の科学者だ。前氏が上梓した書籍「エコハウスのウソ 増補改訂版」では暖房・冷房や断熱に関するさまざまな世間の誤解を正している。今回は、エコハウスの説明でよく用いられる「空気の流れの図」に疑問を投げかける。

質の高い暖房とは、人体全体から「バランス良く放熱ができる空間」をつくることである。それでは、どのように暖房をするのが良いのか。まずは、空気で暖房する方法を考えてみよう。

空気は人間にとって、何より息をするために必要不可欠。新鮮な外気を取り入れ汚染空気を排出する「換気」のために空気を動かすなら、ついでに「熱」も運んでもらおうとばかりに、せっせと空気が家中に熱を運んでいる絵をよく見かける(図1)。壁や床下の隅々にまで空気が行き渡り、家の中全体の温度をくまなく均質にしてくれる。そんなに空気は働き者なのだろうか。

図1 エコハウスの説明ではこんな図が用いられることが多い。実際には空気はそれほど働き者ではない。空気を遠くまで送り込みたいのであれば、ファンとダクトを用いて強制的に送り込むのが一番確実

対流はボールの流れ・性能で伝熱力が決まる

3つある熱の伝わり方(伝導、対流、放射)のうち、離れたモノとモノの間で熱をやり取りできるのは「対流」と「放射」である。

このうち対流は、空気や水のような流体、つまり「たくさんの小さなボールの流れ」で熱を移動させる。熱いモノにぶつかるとモノから熱を奪ってボールは温まる。冷たいモノにぶつかると、モノに熱を押し付けてボールは冷たくなる。この対流によって、人間は周りを包み込んでいる空気と熱のやりとりを行っているのである。

この対流の力で暖房することを考えてみよう。そのためには、空気か何かの「小さなボール」によって、高温のモノから低温のモノへと、熱を移動させる必要がある。この対流による熱の移動がうまくいくかは、次の3つの「ボールの能力」で決定される(図2)。

1.当たりの厳しさ:モノに当たった時に熱をやり取りできるか。

2.パスワーク:モノとモノの間でたくさんの熱を運べるか。

3.コントロール:流れが目標のモノに当たらなければ意味がない。目標のモノに正しく当てるコントロールが不可欠。

図2 対流の性能を決める3つの要素

結論から言えば、この3 つのどれについても空気は全くの"劣等生"。残念ながら熱を搬送する媒体、つまりボールとして空気は決して優れていないのだ。まず図3に示す、ボールとモノの熱の伝わりやすさ「熱伝達率」を見てみよう。

図3 左の図は、気体と液体を温まりやすさ(対流伝達率=同じ広さの加熱面に触れた気体や液体などの流体がどれだけ温まりやすいかの指標)で比べたもの。気体の温まりやすさは液体の100分の1程度で、液体の方がはるかに温まりやすい。右の図は、気体と液体の温め方を示した。加熱方法は、自然対流と強制対流の2つ。気体は自然対流ではごくわずかの熱しか受け取らないので、十分な熱を供給するには強制対流が必須になる(日本機械学会『伝熱工学』(JSMEテキストシリーズ)を基に作成)

空気は"当たり"が弱い

流体の温め方には、周りの流体が温められて浮力により自然と入れ替わる「自然対流」と、ファンなどで発熱面に吹きつける「強制対流」の2つがある(図4)。読んで字のごとく自然対流は浮力による「自主的な当たり」、強制循環はファン気流による「無理矢理な当たり」といえる。当然、強制対流の方がはるかに強力。まさに「桁が違う」のである。

図4 ラジエーターから空気への伝熱は自然対流でペースが遅い。エアコンはファンによる強制対流により、コンパクトなサイズでも大きな加熱能力を持っている

空気を放っておいても、周りの壁・床などから「自然対流」で、非常にゆっくりとしか熱をやり取りしない。嫌がる空気を無理矢理暖めるには、「1.接触面の面積を稼ぐ」「2.接触面の温度を上げる」「3.風速を上げて強制対流の効果を上げる」の3つしかない。

エアコンを開けてみると、びっしりと薄いアルミのフィンが並んでいる。「1.フィンで接触面積を広げ」、「2.フィンを通る代替フロンの温度を高くし」、「3.ファンで風を吹きつける」の3 つをきちんと実行していることが分かる。こうしてやっと、空気を暖房の役に立つ程度に暖めることができるのである。

空気は「パス」がヘタ

空気は比熱が小さく、運べる熱量もごく限られている。なにしろ、空気の比熱は水の約4000分の1 しかないのだ。よって空気で熱を運ぶためには、非常に大きな風量が必要になる。

そして何より、空気は「コントロールに難」がある。エアコン暖房の利きが悪くて閉口した経験は誰にでもあるはず(図5)。吹き出し口に近いところの空気は勢いがあるが、その勢いは少し離れれば消えてしまう"消える魔球"だ。空気自体に粘りがあり、運動エネルギーがすぐに拡散してしまうのだ。

図5 エアコンを例に、空気による暖房の難しさを示した。エアコンは適切に使用すればエネルギー効率の高い、非常に合理的に設計された機器である。しかし空気を熱媒とした暖房方式のため、部屋全体を暖める上で不利な部分がある

空気では浮力も問題になる。吹き出す温風の温度を上げるほど空気は軽くなるので上方に浮き上がってしまい、床まで届かない(図6)。"高めに浮いたボール"では、快適な湿熱環境はおぼつかないのだ。最近はやりの、床下に暖気を押し込む設計も要注意。空気はできるだけラクをしたがり近場の穴から漏れ出すので、なかなか遠くまで足を伸ばしてはくれない。床を隅々まで温めたければ、水や不凍液をポンプで循環させる「温水暖房」が最も確実である。

床下にエアコンを入れて温風で下から温める「床下エアコン」も流行している。これも、うまく設計できれば高効率で快適な暖房が実現できるが、空気の気まぐれは甘くない。簡単に考えずに、実績豊富な設計者に相談するのが吉だ。

図6 エアコンの温風は軽く拡散しやすいので、足元に届きにくい(左上)。近年では床下エアコン(右上)の採用が増えているが、エアコンの暖気は広がりにくく温度ムラができやすい(右下)ので、実績豊富な設計者に任せるのが現実的。床を隅々まで温めたければ、強力な熱媒体である水を用いた温水床暖房が優れている(左下)

空気は対流放熱が穏やか

このように空気は「当たりが弱い」「パスワーク下手」「コントロールに難」と、三拍子そろった迷プレーヤー、つまりただの"怠け者"である。過度な期待は禁物。そもそも空気と水では、はなから勝負にならないのだ(図7)。

図7 水は空気に比べ、熱伝導率は約100倍、比熱は4000倍。圧倒的に優秀な熱の運び屋なのだ

しかし空気が怠け者だからといって、がっかりすることない。空気が水のように"働き者"だったらどうなるのか。20℃の水風呂に入ることを想像していただきたい。働き者の水はせっせと熱を奪い運び去ってしまうので、体はあっという間に冷え切ってしまう。空気の対流による穏やかな熱のやりとりのおかげで、我々は日々快適に過ごせるのだ。

前真之(まえ・まさゆき) 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。博士(工学)。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2003年東京大学大学院博士課程修了、2004年建築研究所などを経て、2004年10月、東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

(書籍『エコハウスのウソ[増補改訂版]』の記事を再構成)

[参考]「エコハウス」と聞いて思い浮かべる住宅のデザインや暮らし方の多くが、真の省エネにはつながっていない。東京大学で省エネ住宅を研究する気鋭の研究者が、実証データやシミュレーション結果をもとに、一般ユーザーや住宅関係者が信じて疑わない"エコハウスの誤解"をバサバサと切っていく。初版発行後に明らかになった新たな知見や、2020年の「省エネ基準義務化」などについて大幅に加筆した。

エコハウスのウソ[増補改訂版]

著者:前 真之
出版:日経BP社
価格:2,484円(税込み)

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