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イチローの「目を疑う数字」から見えたもの

スポーツライター 丹羽政善

「自分の数字は目を疑うもの」

レギュラーシーズン最後の試合を終え、慌ただしく帰り支度が始まったマーリンズのクラブハウスの中で、イチローは静かに振り返った。

確かに今年は日米通算ながら、得点で王貞治が持つ日本のプロ野球記録を更新し、タイ・カッブの通算安打数(大リーグ歴代2位)を超えたものの、今季の数字に華々しさはない。安打数は91(438打席)、打率は2割2分9厘、出塁率は2割8分2厘だった。

今季91本、連続100安打がストップ

ではいったい、今季はどの程度「目を疑う」レベルなのか。メジャーに移籍した2001年からイチローの打率と出塁率がどう変化したかをまずたどってみた。

数字そのものが落ちはじめたのは11年だが、もちろん打率が2割5分を切ったのは初めて。シーズン序盤など打席数が少なければこういう数字にもなりうるが、438打席とそれなりの機会を与えられての数字である。出塁率は、四球の比率が7.1%と過去2番目に高かったため極端に下がってはいないが、キャリアワーストであることには変わりがない。

ただ、そうした数字以上に気になるのは91本という安打数。連続100安打が日米合わせて21シーズンでストップしたが、実はこの数字こそ「目を疑う」現象を象徴するものではないか。

原因は何か。それを探ると不可解なデータが並ぶ。

イチローの傾向の一つとして、成績がいいときはボール球を振る確率が低く、ゴロを打つ確率が高い。今季はどうかといえば、ボール球を振る確率が27.7%と7年ぶりに30%を切り、ゴロを打つ確率も58.5%と低くない。一時は60%を超えていた。つまり、データ的には不振につながる兆候がうかがえないのだ。

三振の確率も昨年の17.7%から11.6%に下がり、平均値(9.9%)に近づいた。また、ボール球を振ってコンタクトする率は昨季の74.4%から84.3%に上がり、ストライクの球を振ってコンタクトする確率も89.5%から94.9%にアップ。いずれもキャリア平均を上回っている。これで91安打とは、にわかには信じがたい。

不振は体力・精神面の疲労からを否定

今年、試合を見ていて内野安打が少ないような気がしたので調べてみた。20本と数だけでみればキャリア最低だが、打席数に対する内野安打の比率を計算すると5%。これは特別低いわけではなく、05年もおよそ5%だった。最高は07年の11%で、平均は7.4%。極端に内野安打が少ないわけでもなさそうだ。

となると答えが見えてこないが、米マイアミの地元記者らはイチローが8月の20日すぎから極端に数字を落としたことをオーバーワーク、つまり「使いすぎ」と捉えていた。

今季を41歳で迎えたイチロー。適度に休みを与えれば効果的な役割を果たしてくれるはずだが、右翼を守るジャンカルロ・スタントンの長期離脱などで出場機会が予想以上に増えた。結果的にイチローを消耗させ、最後の失速につながったというわけだ。

この点についてはしかし、イチロー本人が「体なんか、全然問題ない。324試合でもできる」と強調。「気持ちは、毎日の準備、ルーティンがある。なかなか安定してない状態ですから、難しい」と、精神面では最後は目いっぱいだったことをにおわせているが、「162試合ぐらいだったらできます」と話し、体力、あるいは精神面の疲労が不振を招いたという見方を否定している。

そうするといよいよ原因不明ともいえるが、イチローが前半の最後にこんな話をしていたのを思い出す。

「ようやくノーマルな状態に近づいてきている、体は。野球をやる状態というか、わりとノーマルな状態にようやくなってきました。今までそこまでいってないというか、その判断もできない時間だった。毎年4月は難しいというのと同じで、結局、これだけ時間がかかってしまう」

「個人的にはできたことが多くある」

6月19日から7月8日まで、自己ワーストの25打席を大きく更新する34打席無安打を記録。すんなり抜け出せなかったのは、イチロー自身も状態の把握に時間がかかったということなのだろうか。実際、オールスター戦明けの7月17日から8月21日までは32試合に出場し、112打数32安打、打率2割8分6厘とある程度の安定感を示している。

ところが8月下旬以降、18打席連続無安打(8月22~29日)、15打席連続無安打(9月4~11日)と不振の大きな波が来ており、取り戻した状態は持続しなかった。

そんなとき、イチローはいったい何を考えているのか。6月30日、無安打については「レギュラーでそれが続いているのと、そういうの(途中出場)が入って続いているのとは違うから、難しいね。これが一つの基準になるんだろうね」と話し、こう続けた。「そもそも分からないからね。僕がどう捉えているか、(他人には)分からない。それも含めて、見ている人で楽しんでいればいい。その考え方は昔から変わらないよ」

案外、重いものがない。状況をどこか客観的に見ている。それは意外に映ったが、数字には惑わされない価値観がそこに透けていた。

実はシーズン最後にも、やり遂げた満足感を漂わせ、こう言ったのが印象に残る。「個人的にはできたことがいっぱいあるし、あれをやっておけばよかったっていうことは、一つもないです」

イチローは野球とどう向き合っているのか。以前は、主に記録にフォーカスが当たっていたが、今はいろんなものがそぎ落とされて、イチロー本来の、実は全く変わらない立ち位置が際立つ。

見えないものが多い中で、逆に見えてきたものがある。イチローの15年はそんな1年だった。

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