2019年7月16日(火)

「私たちはお試しだったの?」 今度は前倒し狂騒曲

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2015/10/29 6:30
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「当事者ではないので、はっきりとした議論を全部承知していないが……」。榊原会長に当事者意識が薄いのも無理はない。そもそも就活後ろ倒し問題は、米倉弘昌・前会長と安倍政権の間で取り決められたからだ。記憶に新しいが、米倉経団連と安倍政権は当初、金融緩和政策で批判し合うなど、ことごとく対立していた時期がある。就活後ろ倒しは、学生の競争力強化といったその後の安倍政権の成長戦略の中で、「両者が歩み寄るための材料として提示された要素が大きい」(経団連関係者)からだ。ボタンの掛け違いはここから始まったようだ。

■私たちは「お試し」?

一括採用の限界が来ているのかもしれない(大手企業の採用内定式)

一括採用の限界が来ているのかもしれない(大手企業の採用内定式)

「後ろ倒し狂騒曲」に翻弄された学生の声も聞いてみた。「私たちはお試しということだったのかな……」。6月に財閥系大手機械の内定を勝ち取った私大4年生(女子)は達観気味にこう話してくれた。「でも、いくら試験的なものでも2~3年は様子見が続くと思っていたから、まさか1年で変更になるとは思わなかった。8月解禁の変更はもともとしっかり議論されて決められたものだったのか疑問を感じる」

米国の大学を卒業しIT大手の内定が決まっている男子帰国生は「今年帰国した僕たちは、とにかくラッキーだった。本当に運が良かった」と話す。例年6月ごろまでに卒業式を終える海外留学生は、8月解禁の恩恵を享受していた。以前なら留年して翌年就活するケースもあったが、8月解禁になったため帰国して就活にすべりこむことが可能になったからだ。「でも6月面接解禁になると、また留学生には少し不利になるでしょうね。準備期間がまったく足りなくなるでしょう」と後輩の心配をする。

ある国立大の学生は、来年も今年と同様の8月解禁になると踏んで、この9月に北京に留学してしまった。現地で今回のニュースに接し、動転しているという。

就活に詳しい千葉商科大専任講師の常見陽平さんは、「混乱したからやめる、というのは、必要があるから実施した政策の変更理由としてどうかと思う」と話す。「手段と目的がずれていた。学業優先の大義名分のもとに就活スケジュールを変更したが、学業を阻むのは就活だけではない。アルバイトもそうだ」(常見氏)

人材研究所社長の曽和利光さんはもっと過激だ。「正直いうと中途半端。一括採用はやめて早く自由化すべきだ。自由化とは、企業ごとに時期も、手法も、すべて自由に決めて採用活動をすることだ」と指摘する。実際、一括採用を前提とした騒ぎを冷ややかに見る企業も多い。「もともと通年採用なので関係ない」(ソフトバンク)、「就職活動に開始時期、内定時期のルールを設けること自体が学生の勉強や将来の意思決定のために効果的だとは考えていない。今回の急な変更で、企業、大学、学生それぞれがまた混乱するのを懸念する」(ファーストリテイリング)

一括採用を前提とした日本の「ガラパゴス就活」こそ、議論の俎上(そじょう)に載せるべきなのではないか。だが、大半の企業の反応は以下だ。そうである以上、現状を変えるのは難しいかもしれない。

「解禁日がいつになってもかまわないが、いつになるか早く決めてほしい」(日本航空)

(鈴木洋介、松本千恵、雨宮百子、高尾泰朗、中山美里、森園泰寛)

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読者からのコメント
2016卒さん、20歳代女性
学業に集中したいので、卒業後にしてほしい。「学生なんて勉強しないから選考をやる」と考えている社会人に対しては、自分が勉強しなかっただけでしょうと言いたい。新卒至上主義は、本当にやめてくれないかな。
一企業人さん、50歳代男性
記事にもあったように、翌年の8月解禁を前提に今年9月から海外留学にチャレンジしている学生も少なくない。企業、財界側のポリシーのない6月解禁への前倒しは、こういった学業や語学、グローバル対応力の向上に意欲的な学生を切り捨てることに他ならず、6月解禁となれば実質的に留学先の途中退学が各企業の採用エントリー条件となる可能性も高い。したがって、世界に目を向け、より学業向上意欲の高い学生人財の就業計画やその後の人生計画に大きな影響を及ぼすことは言うまでもない。学生、教育界をはじめ社会全体が納得するだけの丁寧かつ合理的な説明と、このままでは留学等の個人の努力があらためて不利に転ずる学生層への適切な対応が求められる。
30歳代女性
開始時期の問題ではない。学業がきちんと優先できるようなスケジュールで企業が説明会や面接をやるかどうかだけ。講義を欠席してまで説明会や面接に行かなければいけなくなる事態がおかしい。したがって土日にやるべき。
20歳代男性
東京五輪を目前に、おもてなしや配慮が求められる中、これからの日本を支える若者への配慮欠如や中小企業が被った迷惑に対して責任をとられないのでしょうか。 天下の経団連がこんな状況では、若者に示しがつきませんね。来春役員各位は、今年振り回された新入社員に対し、過去はなかったことにして上から目線でご挨拶なさることでしょう。
泉野普久さん、50歳代男性
間違っていたから体面にかかわらず改めた。採用側も学生も時間が短縮・制限されたら余裕がなくいい仕事はできない。まして人のお見合いに時間制限なんていうのは不合理のきわみ。政治家や経営者には洞察力をお願いします。学生の勉学が就職期間で劣るなんてこともない。内定でもなんでも早くもらい研究にいそしむはずです。縁故やら、裏取はその負い目を引きずり企業の純粋な活動にいつか齟齬を来す。まずは一括でもなんでもとにかく時間の規制はゆるくする、はずしてあげることが健康的です。受験に次いで就職という不条理に若者は人生の階段を上らなくてはなりません。その心理に大きい会社は品位とデリカシイをもって臨んでほしい。人事部も採用成績という目標管理があってブランドを並べざるを得ないことも認識をしておきましょう。学生は体に気を付けてめげずにどこかにもぐりこんでください。道はそこから始まると思います。

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