宇宙から地球を「健康診断」 CO2や水分を衛星で観測
地球の"健康状態"に目を光らせる観測衛星が増えている。
2014年から2015年前半にかけて、米航空宇宙局(NASA)は五つの大型ミッションを新たに開始した。これで運用中のミッションは合計19にのぼる。日本や中国、ヨーロッパをはじめ、さまざまな国の宇宙機関も観測衛星を運用している。「私たちは、上空から地球の状態を観測するリモートセンシングの黄金時代を迎えています」とNASAの地球科学部門を率いるマイケル・フライリックは語る。
地表のうるおいを調べるSMAP
気温の上昇や海洋の酸性化、森林の減少、極端な気象現象など、地球の病の諸症状が顕在化してくると、NASAはそういった症状がもたらす影響に取り組むミッションの優先度を高めた。2015年1月には土壌の水分を観測する最新鋭の衛星が打ち上げられた。9億1600万ドル(約1100億円)がつぎ込まれたSMAP衛星だ。
SMAP衛星は搭載したレーダーが発したビームを地表面で反射させる「能動型計測」と、土壌自体が発する電磁波を放射計で記録する「受動型計測」の両面で、土壌の水分量を観測できる。7月にレーダーが故障したが、放射計は順調に機能している。今後、干ばつや洪水、作物の収穫量などの予測に力を発揮すると期待される。SMAP衛星は、豪雨時の災害リスクを軽減するのにも役立つ。土壌の水分が飽和して土砂崩れや洪水の危険性が高まった際に、関係当局に情報を提供できるからだ。
だが土壌の水分に関しては、多いよりも少ない方が、広範囲かつ長期的な脅威となる。水分不足は環境のバランスを崩し、米国カリフォルニア州で起きているような猛暑や干ばつを招くのだ。NASAジェット推進研究所の研究員ナレンドラ・N・ダスは、次のように説明した。「土壌の水分は人間でいえば汗のようなもので、蒸発するときに地表を冷やす効果があります。でも土壌に水分がなければ地表の温度は上がる一方です。私たちが熱中症になるのと同じ理屈です」
地球の呼吸を観測する
地球の健康を脅かすあらゆる圧力に対し、この星はこれまで驚くほどの回復力を示してきた。人間の活動によって放出される年間約370億トンの二酸化炭素のうち、海洋や森林、草原はその約半分を吸収し続けている。だがその許容量がいつ限界に達するか、誰にもわかっていない。なにしろごく最近まで、炭素収支を把握する有効な方法さえわかっていなかったのだ。
そんな状況を変えたのが、2014年7月にNASAが打ち上げたOCO-2(軌道上炭素観測衛星2)だ。「地球の呼吸を観測する」目的で開発された衛星で、地球上のあらゆる地域で、放出もしくは吸収されている二酸化炭素の量を1ppm単位の精度で計測できる。OCO-2衛星の観測データを使って作られた世界初の全地球マップには、オーストラリア北部、南アフリカ、ブラジル東部から、大量の二酸化炭素が放出されていることが示された。焼畑農業が大規模に行われている地域だ。
航空機を使った調査では、着々と進化する最新のセンサーを駆使して、地球の状態を観察している。「1回の航空調査で作成できるマップからは、研究者が一生かけて地上で行うフィールド調査よりも、生態系について詳しく知ることができます」とカーネギー研究所で生態学を研究するグレッグ・アズナーは語る。
アズナー率いるチームは、ペルーで「炭素の行方」を調査、72万平方キロに及ぶ熱帯林をスキャンし、伐採や農業、油田やガス田開発などの圧力に最も強くさらされている森林地区に、概算で60億トンにのぼる大量の炭素が存在するという調査結果を示した。そして、その森林を保全することによって、炭素をその地域に閉じ込めておけることや、森林に生息する無数の生物種を保護できることを説明した。2014年の暮れには、ペルーの森林伐採を防ぐため、ノルウェー政府が3億ドル(約360億円)にのぼる支援を約束した。

10年もすれば、アズナーらが航空機で使っているようなセンサーが、人工衛星に搭載されるかもしれない。最新鋭の機器から送られてくる画像はさぞ素晴らしいことだろう。宇宙から1本1本の木を識別し、その種類までわかるようになる日がやって来るのだ。そして私たちは1本の木から、森全体に思いを致すだろう。人類によって病に陥った地球が立ち直るための頼みの綱は、私たち人類とその技術だけなのだ。
(文=ピーター・ミラー、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2015年11月号の記事を再構成]
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