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車いすラグビー、ルールと戦術を解説

リオデジャネイロ・パラリンピック出場権をかけた車いすラグビーのアジア・オセアニア選手権(AOC)が29日から11月1日まで、千葉ポートアリーナで開催される。ブラインドサッカー、車いすバスケットボールに続き、この秋、日本で開催されるリオ・パラ予選の第3弾だ。これまでの2競技と同様に観戦の手助けとなるよう、車いすラグビーのルールと戦術を解説してみたい。

車いすラグビー選手のクラス分けの例
持ち点障害の程度選手の体の主な動き
0.5重い上半身の筋力が低く、腹筋、背筋の体幹機能がない。車いすをこぐには頭を上下に揺らしながら前かがみになる。車いすの操作では手首から先が使えず、前腕を使う。手首の力が弱く、ボールのキャッチやパスが難しい
2.0中間腕の力で車いすをこぐことが可能。どの方向にも車いすを操作することができる。体を乗り出すこともあり、弱いパスやキャッチもできる
3.5軽い片手でどの位置でもドリブルができ、体幹機能がしっかりしていて、腰をひねってプレーできる。攻守にわたってコートを動き回り、ボール争いに積極的にからむ

まず大きな特徴は、この競技は男女混合で行われることだ。車いすバスケのように男子代表、女子代表があるのではなく、男女合わせて日本代表が1つあるだけ。今回参加する4カ国のうち、日本とオーストラリアにはいないが、韓国とニュージーランドには女子選手が1人ずついる。

4人が出場、女子には「ハンディ」

1チームは最大12人で編成され、試合には4人が出場する。交代は自由だ。選手は上肢と下肢の両方に障害を持つ。原則、下肢に障害を持つ車いすバスケの選手と大きく違う点だ。頸髄損傷を中心とした四肢まひ者のスポーツとして始まった経緯があり、腕がうまく動かないので車いすバスケはプレーできない人でも、車いすラグビーはプレーできる。車いすバスケと同様に、その選手の障害に応じた持ち点が決められている。

障害の重い0.5から軽い3.5まで0.5刻みで7段階に分かれる。2.0以上の選手をハイ・ポインター、1.5以下の選手をロー・ポインターと呼ぶ。そしてコートに立つ4人の持ち点の合計が常に8点以下でないといけない。障害の軽い選手だけでチーム編成ができないようにして、障害の重い選手にもプレー機会を与える発想も、車いすバスケと同じだ。

異なるのは、女子選手が出る場合は、1人につき0.5点の追加ポイントが許され、チームの合計点が8点を超える編成が可能なところ。つまり女子1人なら合計は8.5点まで、4人全員女子が出たら、その合計点は10点まで可能ということだ。これは女子に、ある意味ハンディを与えた形だ。

試合は8分間のピリオドを4回行い、ピリオド間のインターバルは2分間、ハーフタイムは5分間だ。第4ピリオド終了時に同点の場合、3分間の延長戦を戦う。プレーが切れると時計が止まるので、1試合で1時間半かかることもある。コートはバスケットボールと同じ広さ(図1参照)。エンドラインに8メートルの幅で小さなコーンが2つ置かれており、この間のゴールラインを、ボールを保持した選手の車いすの前輪2つか後輪2つが触れるか、通過すれば1点が入る。後ろ向きに通過してもOK。国際試合では50~60ほど点が入るが、それはすなわち50~60回、選手がゴールラインに達する作業を繰り返したということだ。

車いすラグビーの国際大会でプレーする日本代表選手ら(5月22日、千葉市中央区の千葉ポートアリーナ)

「タックル」が車いすバスケとの違い

ボールはバレーボールの5号球を基に開発された専用球を使う。4人の選手はパスやドリブルでボールを運ぶが、健常者のラグビーと違って前方へのパスが可能。ボールを持つ選手は何度でも車いすをこげるものの、10秒以内にまたドリブルをするか、パスをしないとバイオレーションとなって相手にボールの所有権が移る。攻撃時には12秒以内にセンターラインを超えて相手陣内にボールを運ばねばならず、また40秒以内にゴールしなければならない。できなかった場合もいずれもボールが相手に移る。ゴールする際にコーンに車いすが触れるのもだめだ。相手陣内に持ち込んだボールを自陣内に戻したら、これもバイオレーションだ。

ラグビーという名の通り、車いすを相手の車いすに衝突させたり、引っかけたりする「タックル」が認められているところが、車いすバスケと大きく違う点。その衝突の激しさから「MURDERBALL(殺人球技)」の異名も持つ。同名のドキュメンタリー映画がかつて日本でも公開されたので、知っている人もいるだろう。ただし、後輪の車軸より後ろへのタックルで車いすのバランスを失わせたりするのは危険なのでファウルだ。

使う車いすは、接触を前提としていない車いすバスケとは違って頑丈にできており、ハイ・ポインター用の攻撃型とロー・ポインター用の守備型がある。攻撃型は小回りが利くようにコンパクトで丸みをつけ、相手の守備にひっかからないようにしている。守備型は相手の車いすの動きをブロックできるよう、バンパーと呼ぶ装置が飛び出している。いずれも後輪に、タックルから保護するためのスポークカバーが取り付けられているのも特徴だ。

攻撃型の車いす。細かいターンや動きができるようにコンパクトなつくり
守備型の車いす。相手の動きを止めるために突き出したバンパーが特徴

それでもタイヤへの衝突は防ぎようがなく、試合中は頻繁にタイヤがパンク、交換する風景が見られる。車いす同士の接触が認められているからといって、相手を手や腕で触ったり、車いすを押さえつけたりするのはだめだ。ボールを奪いに行くときは、バスケと同様、ボールに行かないといけない。

攻撃側が有利、ターンオーバーがカギ

ゴールライン前には、バスケの制限区域のようなキーエリアがある。守備をする側が、このエリアに入れるのは3人まで。4人目が入ったら、その選手はファウルになる。4人全員が横並びでブロックしたら、攻撃側の車いすが侵入することがなかなか難しくなるので、それを防ぐためだ。逆に攻撃側は、10秒までキーエリアに入ることができるが、それを超えると相手ボールになる。バスケの3秒ルールに似ている。

これまで取り上げた、手の不正な使用によるファウルや、キーエリアに4人目が入るファウル、後輪後方へのタックルによるファウルなどは、その選手にペナルティーが科され、1分間、コート脇のペナルティーボックスに入らないといけない。1分経過するか、相手が得点を決めればボックスから出られる。こちらはアイスホッケーに似たルールだ。

では戦術について触れておきたい。車いすラグビーは、広いコートに4人しかいないことや、車いすバスケに比べ障害が重い選手が出ることから、攻撃側が圧倒的に有利で、ボールを持てば9割は得点できるスポーツとされる。それゆえ、強豪同士の戦いでは交互に点を取り合う展開が続く。その中で試合の趨勢を決めるのは、攻撃権が入れ替わるターンオーバーだ。攻撃権をみすみす相手に渡せば9割方得点されてしまうので、同点の場合は1点先行され、相手を追いかける展開になってしまう。

それを防ぐためによく見られるのが、攻撃側が使うタイムアウトだ。12秒以内に相手陣内に運べそうにないときや、40秒以内にゴールできそうにないとき、選手は自らタイムアウトをかける。すると、例えば攻撃の残り時間(ショットブロック)が15秒を切っていたら、15秒までショットブロックを戻して再開できる。この競技はロングスローを使えば1~2秒でも得点が入るので、15秒あれば攻撃を立て直せる。選手によるタイムアウトは1試合で4回までとることができ、これを効果的に使う。

「ラストゴール」で常に先行の形狙う

もう一つ、攻撃側がよくとる戦術が「ラストゴール」だ。これは、そのピリオド最後のゴールを決めること。もし現在10-10の同点で、次のピリオドの攻撃は自分たちのボールから始まるならば、現ピリオドの最後のゴールを決めて終われば11-10。次のピリオド開始でもゴールを決めて12-10となり、2点差をつけられる。

次のピリオドが相手ボールで始まる場合でも、11-10で終わっておけば、次のピリオドで相手ゴールが決まっても11-11。そこから自分たちの攻撃が始まるので、常に1点先行する形となり、相手にプレッシャーをかけられる。

ラストゴールをとるため攻撃側が意識するのが、まず残り時間1分45秒で、続いて残り55秒でゴールを決めることだ。1分45秒でゴールすると、相手が40秒フルに使ってゴールを返してきても、1分5秒残る。ここで10秒使ってゴールを決めると残り55秒。また相手がフルに40秒使ってきても、15秒残り、ここで残り時間を使い切ってラストゴールにつなげられる。車いすラグビーで競った試合では、攻撃側がゴールできるのに、わざとボールを回す時間調整をして、残り1分45秒、または残り55秒でゴールを決めるシーンに遭遇するが、それはこのラストゴールを決めるための戦術。もちろん、相手が40秒フルに使わずゴールを返すこともあるが、経験上、ラストゴールをとる確率が高い残り時間が、1分45秒と55秒なのだ。

一方、守備側としては、やはりロー・ポインターがいかに相手のハイ・ポインターの動きを止めるか、がカギを握る。車いすバスケの「バックピック」のように、ローの選手がハイの選手の動きを止められると有利になる。そうした点から、よくある守備側戦術が、ペナルティーボックスに入った相手のハイの選手を、「インバウンダー」に追い込む「ペナルティーボックス・トラップ」という方法だ(図3参照)。

インバウンダーとは、ゴールを決められた側が、次の攻撃を始める時にエンドラインからスローインをする人のこと。相手のエースのようなハイの選手がファウルを犯してボックスに入ったとする。攻撃側はすぐゴールを狙わず、ボックスの前に味方選手を1人か2人並べて通せんぼしたのを見届けてから得点する。すると相手エースはボックスから出ようとしてもコートにそのまま入ることができないので、審判に自分がインバウンダーとなる旨を告げてエンドラインに行き、スローインを投げざるを得なくなる。ハイの選手をエンドラインからリスタートさせることができ、相手はコート内にその選手を除く3人がいるので、守備で動きを止めやすいし、ローの選手を経由するパスを奪う状況をつくりやすくなる。

オーストラリア戦の勝利を目標にAOCに臨む日本代表の池

強豪オーストラリアとの差縮める日本

今回のAOCでは、世界ランク10位のニュージーランド、同24位の韓国と、昨年の世界選手権優勝でリオ出場権をすでに持つ同3位のオーストラリア、同4位の日本とは力の差があることから、順調にいけばオーストラリアと日本がリーグ戦2位以内で決勝進出となり、日本のリオ出場権獲得も堅いと見られる。ゆえに、オーストラリアにどれだけ食らいつけるかに注目したい。ロンドン・パラリンピックで4位だった日本が、リオで悲願のメダルを取れるかの試金石になる。

日本はスピードのある池崎大輔(37)とロングスローが得意な池透暢(35)が入る編成を先発の第1ラインとして臨み、池崎や池を休ませる第2、第3のラインでの攻撃の精度も上がってきた。今月中旬に英国であった大会でオーストラリアとは2度戦い、3点差、5点差という小差での敗戦で、池崎は「2010年に自分が代表になってから一番いい試合ができた」と手応えを感じている。池も「2年前に比べて、オーストラリアの選手の顔つきも必死な感じ。勝てるかも、ではなく、勝つという勢いで勝利したい」と意気込んでいる。

(摂待卓)

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